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52話 クリスマスらしい事

 料理や配膳に関しては見ていただけだった響樹も、流石に片付けは手伝った。と言っても食洗器があるのでほとんど手間は無かったのだが。

 食事の残りについては吉乃が夕食以降で食べると言っていたので、響樹もある程度持ち帰らせてもらう事にした。「一人で食べきるの大変だろ」と中々に素直でない発言をした自覚はあるが、口元を押さえて笑いながら了承してくれた吉乃にはきっちり意図が伝わった事と思う。


 そうやってパーティーの後の諸々を済ませ、リビングのソファーに隣の吉乃と一緒に腰を下ろして時計を見ると、まだ14時にもなっていない。

 彼女と一緒の昼食、中々濃い時間を過ごしたと思っていたのに時計の針の進み具合に驚く。それと同時に、これならまだもう少しお邪魔していてもいいだろうかという安心感も覚えた。


 しかしそう考えると逆に、用意したプレゼントをどのタイミングで渡そうかという問題が出てくる。帰りの時間が近くなれば渡さぜるを得ないのだが、せっかくならばクリスマスパーティーの余韻が残っている内に渡したいと思う。

 だが渡すとなるとやはり気恥ずかしく、その後の時間をどう持たせるかという余計な気まで回してしまう。

 ソファーの右隣にいる吉乃、その反対である左側に置いてあるプレゼントの入った鞄に目を落とすと、吉乃から「どうかしましたか?」との声がかかる。


「落ち着いたなと思って」

「ええ」


 隣の吉乃に首から上だけを向けて誤魔化しを口にすると、彼女も同じように響樹に顔を向けて頷き、くすりと笑った。


「天羽君はお腹の方が落ち着くまでもう少しゆっくりした方がいいかもしれませんね」

「……ああ、まあ、確かに」

「なんでしたら少し横になってもらっても構いませんよ」

「料理の用意してくれた相手を放っといて食っただけの奴が寝るとか、割と酷くないか?」

「そうかもしれませんね」


 眉尻を下げてくすりと笑った吉乃に「だろ?」と言葉をかければ、彼女は「ええ」と答える。


「せっかくのクリスマスにせっかくあれだけの料理を作ってくれたんだから、俺からもクリスマスらしい事をしないとな」


 少し強引な気はするがプレゼントを渡すいい機会だろうと鞄に手を伸ばすのだが――


「天羽君はクリスマスらしい事をご希望なんですね」


 ふふっと笑った吉乃がソファーから立ち上がるので何事かと目で追うと、彼女はリビングに設置された戸棚から包みを取り出して戻って来た。

 緑色の包装にはクリスマス用であろうシンプルなロゴが描かれており、それを赤いリボンでラッピングしてある、まさしく今日のイメージにぴったりな物。


 雪のように白い手と合わさってまさしくだなと、ぼんやりそんな事を思っていると、吉乃がソファーの隣に腰掛け、「どうぞ」と両手で丁寧に包みを差し出した。

 優しい笑みが浮かべられた顔は、やはり透き通るような白と僅かな赤のクリスマスカラー。


「ありがとう」


 今の自分はどんな顔をしているだろうかと響樹は思う。

 受け取る際に少し手が触れた事があまり気にならないくらいに妙な高揚感に包まれている。

 自分がプレゼントを用意しておきながら、吉乃が用意してくれているなどという発想が今まで出なかった事が不思議で仕方ないのだが、こうやって渡してもらった物が手の中で異常なまでの存在感を放つ。


「開けてもいいか?」

「ええ、どうぞ」


 先を越された悔しさなどは一切無く、ただ純粋に嬉しかったのだろうと思う。

 優しく笑う吉乃の視線を受けながら解いたリボンをたたんでテーブルに置かせてもらい、中身を取り出した。


「マフラーか」

「天羽君は防寒具を特に使っていないようでしたので。お嫌いではないですか?」

「全然。使ってなかったのは考えてなかったからだな。ありがたく使わせてもらう」


 十一月の下旬頃から、響樹の脳内は試験で吉乃に勝つ事だけで占められていて、防寒の事など一切気にしていなかった。

 マフラーは別に嫌いではないし、吉乃がくれた物は黒のシンプルなデザインで手触りも良く巻く事に一切の抵抗が無い。

 僅かに表情を硬くする吉乃の前でマフラーを首に巻いてみせれば、彼女の顔が綻ぶ。


「暖房の効いた部屋の中だと少し暑いな。でもこれなら外出ても暖かそうだ。ありがとう」

「よかったです」


 ホッとしたように笑う吉乃の前でマフラーを解くと、彼女は「たたみます」と言ってきっちりと袋の中に戻し、リボンまでも結んでくれた。

「どうぞ」と改めて包みを渡してくれる吉乃の顔には満面の笑み。「ありがとう」と受け取りながら感じた顔の熱さはマフラーを巻いたからだけではない。


「あー。俺からも一応、クリスマスプレゼント」


 一応などと余計な言葉を付け足してしまったのはやはり気恥ずかしいからで、目を丸くした吉乃の前に鞄から取り出した小さな箱を差し出した。

 吉乃が響樹にくれた物とは逆に赤い包み紙に緑のリボンの箱を、彼女はじっと見つめた後で響樹へと視線を向けて首を傾げる。


「私に、ですか?」

「他に誰がいるんだよ。ほら」


 きょとんとしたままの吉乃に対し、片手で突き出したそれをもう少し押し出すと、どこかまだ寝ぼけたような彼女が「ありがとうございます」と丁寧に両手で受け取る。


「ありがとうございます」


 もう一度同じ言葉を繰り返した吉乃は、片手に収まるサイズの小箱を両手で丁寧に抱きかかえ、「嬉しいです」と響樹にやわらかな笑みを向けた。


「開けてもいいですか?」

「むしろ開けてくれ」


 子どものように目を輝かせる吉乃に頷くと、彼女は「はい」と声を弾ませてシュルリとリボンを解いて丁寧にたたみ、包装紙を慎重に剥がしてこちらも綺麗にたたんだ。


「クリスマスツリー、ですか?」

「ああ、ミニチュアだけど」


 円錐型のツリーが鉢を模したバスケットに入った物で、ベルやリボンにプレゼントボックスなどの飾りつけもされており、一部の枝には雪が積もっており天辺には星が輝いている。

 クリスマスなのだからと、高さ15センチ程度の小ささではあるが出来はいいと思ってこれを選んだ。


 しかし、今となると中々に気取った物を選んだような気になってきて、吉乃の反応が怖い。かと言って他にどんなプレゼントを用意すれば良かったのかの代替案も無いのだが、それでも怖いものは怖い。

 そんな響樹の心配をよそに、吉乃は目を細めてツリーを見つめており、手首を返して反対側を向けてみたり、角度を変えてみたり、そっと飾りに触れてみたりと、楽しそうな様子を見せてくれた。


「そんなに心配そうな顔をしなくても、とても嬉しいですよ?」


 そして響樹の様子にも気付き、ほんの少し眉尻を下げてくすりと笑う。


「今考えると今日が終わったら季節外れ感が出るし、どうかなーって」

「どうして天羽君はそう肝心なところで……」


 小さなため息をついた吉乃は、「いいですか?」と僅かに眉根を寄せた端正な顔を響樹に近付ける。手には大切そうにツリーを持ったまま。

 響樹がそんな吉乃にたじろいだのも一瞬で、次の瞬間にはやわらかな笑みに見惚れた。


「このツリーを見るたびに、今日の事をきっと思い出します。私は記憶力がいいですから、先ほども言いましたけど絶対に忘れません、日記も書いていますから絶対に。今日はリビングに飾っておきますけど、明日からは私の机に飾ります。だからきっと、私は毎日幸せな気持ちで机に向かうはずです。新学期が始まっても、家に帰って来るのが楽しみになるでしょうね」


 そう言い切って誇らしげな笑みを浮かべ、「わかりましたか?」と言われてしまえば「わかりました」と答えるほかない。

 敬語になってしまった響樹にふふっと笑い、吉乃はツリーを差し出して指で触れた。


「小さくて可愛いサイズなのに良く出来ていて、ほら、このベルなんて音が鳴るんですよ」

「ほんとだ。そこまで作ってあるのか」

「プレゼントの箱も、流石に蓋と箱はくっついていますけど、リボンは解けるようになっていますよ。元に戻すのが大変そうなので解きませんけど」


 楽しそうに、子どもがおもちゃを自慢するかのように、吉乃はツリーの細部を褒め続け、最後には「大事にします」と満面の笑みを見せた。


「ああ、よろしく。俺もこのマフラー大事にする、今日の帰りから使う」


 そう言って、吉乃がせっかくしまってくれはしたが響樹は袋からマフラーを取り出した。


「ええ、そうしてもらえると嬉しいです」


 優しい笑みを湛えた吉乃に「ありがとう」と伝えれば、彼女の方も「ありがとうございます」と同じ言葉を返してくる。

 そして、互いにそれがおかしかったのか、崩した表情を向け合った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 響樹が吉乃の料理を気に入っているのはまあ完全にバレているので素直に食べたいから持ち帰ると言えば良いものを。帰宅してからの楽しみもできた響樹は、クリスマスパーティーの幸せを思い出しながら食べ…
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