考えて寝ました
すっかり日は暮れた頃、ハシルとアジサイはファミレスから出て来た。
「向こうにホテルがあるから今日はそっちへ泊っておきなよ」
「おう。情報サンキューな」
「あ、そうだ! 連絡先、交換しておく?」
そういってアジサイは携帯電話を取り出す。
2004年の人間故、当然ながらガラケータイプであった。
「おう、そうだな」
ハシルもポケットからスマートフォンを取り出す。
「へぇ。それが2018年には存在している携帯なんだぁ」
「スマートフォン。通称、スマホってやつさ」
「ってか、あーしの携帯と通話出来んの?」
「機能的には出来ると思うぞ? ただ、この世界でってなると分かんないけど」
「んまー試しにやってみればイイジャン」
アジサイの一言にハシルは首肯する。
「だな」
それぞれの電話番号を登録した後、試しにアジサイから電話を掛けてみた。
すると、ハシルのスマホは受信を知らせる。どうやら通話はこの世界のこの場所でも可能なようだ。
「よし。連絡は取り合えそうだな」
「まー何か重要なことが起こったしたら互いに知らせるってことでオケー?」
「あぁ。あんたには世話になったな。いろんな情報貰えて感謝するぜ」
「いいってことよ。ギャルは他人に優しくがモットーだから」
Ⅴサインを横向きにして、アジサイは屈託なく笑んだ。
「本当かよ(笑)」
「んじゃま、おやすみー」
「あぁ。おやすみ」
そして、2人はひとまずここで別離をした。アジサイにはアジサイのこの世界における自宅があるようで彼女は彼女の帰路を辿った。
その後、ハシルはホテル街へと踏み入れ、その中から空きの部屋があるところにチェックイン。ベッドに横たわり、一日の疲れを吐き出すかの如く、大きなため息を吐き出した。
「たった1回のレースで10万円かぁ。1日に1回、これを30日分としたら3000万。すげぇな。月給3000万ってことじゃねぇか。一日8時間以上働いて月給20万そこらのサラリーマンの仕事と比べたら段違いに割にいい仕事じゃねぇの。文明も現実世界と大差ないし、いいとこずくしだよなぁ……」
そう呟きながらニヤけるのだが、突如真剣な面持ちで無言となる。
「でも、ここにいるやつら、人間じゃあねぇのか……。それに分からないことだらけ過ぎてもやっとするような……」
これからどうしたいか? どうすべきか? 沈黙の中の逡巡の果てに結論が浮かぶ。
意気揚々とハシルは起き上がる。
「冒険でもしてみっか。その場その場で金稼ぎながら、この世界の謎を解明する旅を。この世界で悠々自適に暮らすかどうか決めるにもこの世界のことを知らないとだもんな。ようし! そうと決まれば!」
バサッとハシルは上着を脱ぎ棄てる。
「まず風呂だな。そして歯磨いて寝る! 明日に備えてな!」