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まさかのまさかのラスト?

 コースはオフロードのオーバルタイプ。つまり、楕円型のシンプルなコースだ。

 まずは直線。こちらは両者ほぼ互角。多少の抜きつ抜かれつがあるが、極端にどちらかがどちらかを引き離すまでには至らず。

 そこへアギたち地元の少年たちが現れる。

 大岩の上に乗って観戦中のアギたち。イイゾー。スッゲェ。などとはしゃぐ。

 続いては緩やかな高速コーナー。ここでアジサイが仕掛ける。

「さぁてそろそろ行くよっ。アイビーワインダー」

 ローゼンエターニアのボディーから蔦が出現し、先端が地面に突き刺さる。

「なんだと!」

 蔦を通してエターニアと地面が繋がった。カーブの時に発生する遠心力に負けないよう蔦と地面が踏ん張ってくれる。これによりスピードを極力落とさずに突破したのだ。

 ブイッ。アジサイはピースサインを作る。

「へへ~。どうよ~」

「やるな。だが、ウインディファルコンだって特殊能力はあるんだぜ」

 白&青のマシン、ウインディファルコンは後部ダクトからジェット気流を排出して加速。直線での区画を有効活用し、疾風迅雷の巻き返しに出た。

 両マシンは並んだ。

「そっちもやるじゃん」

「まぁな」

「でも、レースはここを3周。最後まで分かんないよぉ~」

「上等だぁ」

 ファルコンが先にスタートラインを再び踏み越える。やや遅れてエターニアが突破。

 二台とも、二週目に突入した。


 アジサイは脳裏で戦略を練る。

(トップスピードはあちらさんの方が上かぁ。ならアレっしょ!)

 アジサイは指をパチンと鳴らす。すると、地面からにょきにょきとアーチ状の草が生えてくる。まるで合戦で用いられる足場トラップのようだ。

「げぇ! 避けろ!」

 しかし、勢いついているファルコンには間に合わず、目前の草のアーチに正面突撃。

 トラップにまんまと引っかかってしまった。

「へへ~ん。やりぃ~」

 クスクス笑いながらアジサイはハシルの隣を通り過ぎて行った。

「技は一つだけじゃないってか。そいつはこっちも同じだ! 行くぜウインディファルコン、ストームメディテーション!」


 ……ヒュッ! 

 なんと! ファルコンは姿を忽然と消してしまったのだ。

 これにはアジサイも観客の子供らも目を疑う。

「き、消えた? ちょ、どーいうことだし?」

 ニヤリ。悪ガキ臭い笑みをハシルは浮かべる。

「違うな」

「えっ?」

 コース上に突風が吹き荒れる。

 その風はローゼンエターニアをよろめかせ、そのまま自由に突き抜けていく。

「ウィンディファルコンはなぁ、”風”になったんだよ」

「か、風!?」

 砂塵撒き散らし、コース上を舞う疾風から白&青の四駆マシン=ウィンディファルコンへと変貌した。

「マジのマジで風にチェンジしちゃったワケね……。アハハー。なんでもアリ過ぎっしょ……」

 さすがのアジサイも表情引きつるほどの衝撃だった。


 そして、三周目。すなわち、ファイナルラップ突入。

「参ったねぇ。風そのものになられちゃあトラップ全部無意味じゃんか……」

 と、ここまでは口に出すアジサイだが、脳裏ではこう考えている。

(でも、短い時間で元に戻った。っつーことは時間制限アリ? なら……)

「アイビーネット!」

 蔦で形成された網がサッカーゴールのようにコースを遮るよう出現。それが五〇センチ置きの間隔で次々と出現していく。

「うわっ」

「どうするよぅ? さっさと風になっちゃう? なっちゃわない? それとも今は風になれない? ふふふっ……」

「(汗)結構策士だな……」

 するととぼけたような表情でアジサイは「えっ? セクシー?」とボケる。

 露出度の高い恰好を堂々と出来ているあたり、セクシーというのもあながち間違ってはいないのだが。

「策士だよ!」

 ……と、ツッコミはここまで。ハシルは心の中で考え込む。

(確かに風そのものになってしまえばあんなトラップ楽勝だ。けど、連打は出来ないんだよなぁ。バッテリーをかなり消耗しちまう……。ここはああするか)

 白&青の風属性マシンは薄紫&濃赤の植物属性マシンの真後ろへと回る。

「スリップストリーム? やれやれストーカーかぁ。ナイスバディの美人ってのも罪だわぁ~」

 ふざけて煽るアジサイだが、ハシルは不敵に笑んで、

「いやいや、レディファーストって奴さ。お嬢さん、どうぞお先にってね」

「あーらそう」

 そっけなく返事してアジサイは再びレースへと集中した。

 この戦術の意図とは? それはこうである。

(今のトラップがあるままだと当然あいつも通れない。本末転倒だ。だから、自分が通るときにはアイビーネットを解除させるハズだ。しばらくはエターニアと同時突破する。ストームメディテーションはラストスパートに使う!)

 一方でアジサイ側の思惑。

(……なーんてこと考えているんだろうなぁ。エターニアが突破した直後にすぐさまネット張りなおせば良いだけだしー。君の思惑通りにはさせないのだよ未来人くーん。ふっふっふ~♪)

 蔦の網トラップ=アイビーネットが目前へと迫る。

 アジサイは指をパチンと鳴らして、蔦を引っ込めさせる。

「おっしゃ今だ!」

 すぐさま駆動を荒げてファルコンは加速。飛翔する隼の如くエターニアを即座に追い抜いた。

「えっ!? このタイミングで抜く!? 嘘ぉ!」

 しかし、すぐさま減速。エターニアの後ろへと戻ったファルコン。

「これはこれは失礼。レディーファーストを忘れてしまった」

 わざとらしく・嫌味たらしくハシルは笑って見せた。

「う~ん。エターニアとファルコンの間にネットを張り直す時間を取らせないって作戦ね……。いやぁ、オミゴト……」

 コーナーを抜け、最後の直線へと出るローゼンエターニアとウィニングファルコン。

「おっしゃラストスパート! ストームメディテーション!」

 ホワイト&ブルーの魔導四駆が風へと変わり、周辺の砂塵を撒き散らして風の矢と成りて最後のストレートを駆け抜けていく。

 蔦のネットなどもはや暖簾に腕押し。罠としての機能などしていない。

「あーはいはい。やると思いましたー。もうしゃーない。こっちもやるだけラストスパートよぉ! いっけー!」

 アイビーネットは身を潜めていき、ローゼンエターニアもフルスピードで疾走した。

 姿は見えないとは言っても、砂塵のお陰でだいたいどこにいるかは分からなくもない。

 砂塵巻き起こる場所の先端に奴はいる。その先頭へと薄紫のマシンは追撃する。

 ゴール直前、風は突如消え、代わりにウィニングファルコンが再臨!

 そしてそのままゴールラインを踏み越えた!

「っしゃ! ゴール! 俺の勝ちだぁ!」

 歓喜のあまり、ハシルはガッツポーズ。初陣で見事勝利を果たしたのだった。

 今までのホビーレーサー経験が活きたからの結果とでも言ったところか。


「最後の、スゴかったなぁ。いやぁ俺もレースしたくなっちゃったぜ」

 気が緩んだその刹那、アギは足を滑らせて大岩から転げ落ちてしまう。

「危ねぇ!」

 ハシルがキャッチを試みようと咄嗟に駆け出す。しかし、前年ながら間に合いそうにない。

 ガシャン! 少年アギは地面に激突し、バラバラに砕け散った。

 しかし、血液などは一切出ておらず、臓物も飛び出していない。単純に人型の石膏像が砕け散っただけな光景であった。

「ぅえっ!? なんじゃこりゃあ!」

 だが驚きはここまでではなく、さらなる衝撃が! なんと、バラバラになったアギの破片が動き出し、集束。きょとんとなるアジサイにハシル。

 みるみるうちに欠片は人の形を成していき、元のアギへとアッサリ戻った。いや、再生した。

「お、お前……。バラバラになって再生したぞ?」

 恐る恐るハシルはアギへと問うが、アギは何食わぬ表情で、「ふーん。あっそ」と流す。

「それよりもさぁ。俺たちもレースしたいんだよね。コース使わせてくれる?」

「お、おう。いいぜ……」

「ど、どうぞどうぞだしー。アハハ(苦笑)」

 

 ハシルとアジサイはひとまず身を引いて、アギたち少年らのレースする姿を遠くから見守った。

「まるで泥人形。ゴーレムみてぇだなぁ。あいつら、人間じゃなかったのか……? お前、知ってたか?」

 アジサイは首と左手を左右に激しく振り、NOを誇張する。

「いやいやいや~。あーしも初めて見たから本当!」

 咳払いし、ハシルは表情を渋くする。

「奇妙な世界だなぁ……」

 謎が解明するどころか増えるばかり。底知れぬ不気味さをハシルは痛感するのだった。


 続く

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