トイホビーで金を稼げる世界らしい
ハシルが新たに踏み入れた新天地。そこは岩陰だったが、四駆ホビーマシンが快走している音がこの位置でもハシルの耳には確認できた。
「さっき見えた場所とはちょっと違うっぽいな。でも、ここはさっきゲートの先に見えた場所に違いねぇや。よし。走行音の聞こえる先に行ってみるか」
冷静に状況をすんなりと受け入れ、ハシルは堂々と進んでいく。
辿り着いた先は土に溝を掘って作ったコース。すなわちオフロードコースがあった。
そこで疾駆するミニ四駆に類似した機体。それが2台。
オレンジのマシンとライムグリーンのマシンだ。
それぞれのマシンと並走する10歳そこらの少年2人。その2人を端から眺めている同じく10歳そこらの少女が1人。3人共民族衣装のような恰好をしていた。
「おっ。さっき見えた子供らじゃんか。やっぱここだったんだな」
改めてハシルはゲートの先の世界へと到着したのだと理解した。
「話しかけてこの世界の事聞きたいところだけど、まだレース中だ。ひとまず静観だな」
よいしょ。石の上に座ってハシルはレースを観戦するのだった。
「いっけー! アギのマシンになんか負けるな!」
オレンジのマシンを持つ少年:シャフはそう叫ぶ。するとそれに呼応し、マシンは光り、加速する。
「おっ? レーサーの意志に呼応したのか?」
ハッと驚くハシル。
オレンジのマシンはライムグリーンのマシンを直線で追い抜く。
「ふん。勝負は直線だけで決まるもんか。よーし、ドリフト走法だ」
ライムグリーンのマシンの主・アギはそうマシンに命令し、マシンはコーナーに入った途端ドリフト走法を華麗に決め、オレンジのマシンを再び抜き去った。
「まるでボイスコマンドだなぁ。うらやましー。実物のミニ四駆は一度走らせたらちゃんと走ってくれるよう祈るだけだからなー」
ハシルがそうぼやいている間にライムグリーンのマシンがオレンジのマシンより少しだけ早くゴールラインを通過する。
ライムグリーンのマシンおよびアギの勝利となった。
アギが歓喜する姿とシャフが「くそー惜しかったぁ」と渋い顔をする様子をハシルは遠くから眺めていた。その時に、衝撃的な事が起こる。
アギの少し前の上に突然、袋が出現。それをアギはキャッチ。その袋の中身をアギは嬉々と開けてみる。
「どーれだけ入っているかなー? おぉ! コイン50枚かぁ。やっりぃ。大儲けぇ!」
次にシャフの下にも袋が出現。シャフも袋を開け、勘定を始める。
「ちぇー。いつも通りの25枚かぁ。今度こそ買って50枚取ってやる」
金が降ってきた? いや、賞金がオートで振り込まれたのか?
ハシルの脳内は疑問と好奇心で包まれた。
「あれ、多分この世界の金だよな? だとしたら、この世界はミニ四駆で金が稼げるってことなんだよな。すっげぇ。すっげぇ俺の理想の世界じゃんか……」
続く