プロローグ
俺は白河大地、ごく普通の高校一年生だ。趣味といえる程大したものはないが、基本休日はネットの世界に入り浸っている。嫌いなものはコミュニケーションだ。ある種の中二病のようなものだろうか。中二病といっても、「黒魔術が~」とか、「闇に~」とかそういったものではない。無気力でありながら、どこかでファンタジーを夢見てる。そんな感じに、要するにこじらせている。故に結果としてコミュニケーションが苦手だ。
俺は帰りのホームルームを終え、帰りの支度を進めている。帰宅部なので、特に残る予定もない。いつもならさっさと帰るのだが、ソシャゲのボーナスタイムがあと30分なので、学校で少しやっていこうか。
俺以外にも残っている生徒は結構いる。他愛ない会話で盛り上がる女子や男子数人のグループ、教室の隅でいちゃついているカップル、俺のようにスマホを片手に時計を気にしてるやつもいた。まあ俺は特段リア充が嫌いという訳でもなく、スマホいじってるやつがソシャゲやってようが、ただの待ち合わせだろうがどうでもいい。だから特に居心地も悪いというわけでもなかった。
そんなそれぞれの方法で時間を潰してたときに、教室の中央を中心といた円のようなものがうっすらと見えた。最初は見間違えかと思ったが徐々にはっきりと浮かび上がってきた。俺はその形を見て一つのものを思い浮かべた。これは『魔法陣』だ。実物を見たことはないがわかる。フャンタジーとかそういうのが好きだから、人よりも連想するのは早いかもしれない。だがそれでも誰が見てもわかるレベルに、
「魔法陣だ。」
俺がそう呟く。それとほぼ同時に、魔法陣が光り始める。これにより、魔法陣の存在に気づいてなかった者も、急な出来事に固まってた人も理解が追い付いてきた。
俺は心のどこかでファンタジーに憧れていた。小学生のころ学校帰りに傘を振り回して必殺技を考えたり(危ないからやめようね)、本気で波動とか出せるんじゃないかとか、そんな気持ちが高校生になっても確かに拭えないでいた。
ただ、同時に怖くもなった。さすがに高校生にもなりゃ、それなりの分別はついているつもりはある。それゆえ、急に異世界に行ってもやっていける自信はない。さらには、クラス転移で俺だけゴミスキルかもしれないし、転移に失敗して異空間に閉じ込められるかもしれない。そもそも悪いやつに召喚されて奴隷にされるかもしれない。異世界で俺ツエーとかそんなうまい話あるわけがない。挙げればキリがないこんな葛藤の末、俺は…
窓から飛び降りた。
俺だけ転移から逃れるため。当たり前だ。異世界で成功する方がレアケースだろう。常に命の危険がある世界で俺はやっていける自信がない。誰も信用できる人のいない世界で、安心して眠ることすらできないだろう。そんなストレスに溢れた世界で生き抜くことなど、俺なんかに出来るわけない。だから俺は教室の窓から飛び降り、魔法陣から必死に外れた。そして…
白河大地は異世界に転移した。