7
次の日
ちゅんちゅん ちゅんちゅん ちゅちゅんがちゅん
玄一の意識が戻る
「知らない天井だ・・・・」
望月家に来ている事を完全に忘れていた
完全に意識が戻り 今いる場所が客間だということがわかった
最後の記憶がダンジョンの中で千代の顔を見たところだったため、その後 角さん達が助けにきたのか 千代が鬼を倒したのかわからない
でも俺が無事ということは 千代も多分無事なんだろう
ベットの上でダンジョンあの後なにが起きていたのか考えていると
部屋の扉が開く
「おはようございます 玄一様お気づきになられましたか」
「おはようございます 角さん 昨日俺はどうなってたんでしょうか?」
「そうですね 私も外に出てきたところからしか 知らないもので 朝食で千代様にお聞きになられたらいかがでしょう?」
「ということは千代も無事なんですね?」
「千代様もご無事でございます、千代様玄一様お二人ともお医者様に診ていただきましたが 特に異常はみられませんでした」
「玄一様、千代様をそのように呼ぶという事は千代様に認められたようですね、ようございました」
「ああー そうですね 千代さんには認めたみたいです・・・」
角さんに言われると軽く恥ずかしくなってさん付けになってしまう
「では、外でまっていますので お着替えが終わりましたら出てきてくださいませ」
「はい」
着替えをすませ 食堂へ向かう
食堂には千代が待っていた
「おはよう 玄一」
「おはよう 千代」
お互い簡単に挨拶を交わす まるで昨日事がなかったかのようだった
ただ千代が前にもましてフレンドリーになってくれたのかな?と思えた
食事を食べ終えた後 昨日の事を聞く
「昨日俺が気を失った後 どうなったの 千代はあのまま逃げたとは思えないけど?」
気を失う前、最後にみた千代を思い出す
「玄一が気を失った後すぐに霊亀様が助けにきてくれたわ」
「え・・あのちいさい亀が・・・・」
「霊亀様!!」
「あ・・・霊亀様が・・」
「命を救ってもらってるのだから少しは敬いなさい」
「でも霊亀様ってあの鬼達に勝てるほど強いの?」
「強いもなにも相手になってなかったわ、ある意味神様みたいなものだもの 当然ね」
「ほぇ~」
うちのでっかい鹿(神鹿)も強いのだろうか、まぁ体からしてムッキムキやもんな 強いわな
出会った時の山の主を思い出す
「今日はどうするん?ダンジョン?」
「流石に昨日の今日だもの 今日は休みましょう それと後で霊亀様のところへお礼にいくわよ」
「わかった じゃあ俺は日課のトレーニングがあるから行くとき声かけてー」
「角から聞いてはいたけど トレーニングってなにしてるの?」
「ランニングとか筋トレかな?ここはトレーニング器具がないから自重になるけどねー」
「そう なら私もやるわ」
「ん?いや多分千代には無理じゃないかな?汗もかくし、汚れるよ?」
「特に問題はないわ 一緒にやる」
「いや マイペースでやりたいから できれば一人で・・・・」
「ダンジョンでヒダル神から助けたのは?ご先祖の出身教えたのは?それにも色々あるけど忘れた?」
「俺も初めから一緒にやろうと思ってたんだ いこう」
その後千代と一緒にトレーニングをし、いつものメニューをこなす
「でも トレーニング器具ほしいなー ダンベルだけでも送ってもらえばよかったかなぁ」
そんな事を口にしながら千代と館へ戻っていく
とりあえず霊亀様のところへ行くのに呼ばれるまで部屋でゆっくりしよう
千代は朝食の時玄一にすべてを話さなかった
霊亀が助けに来る前に鬼達に全力で抗った事、玄一にあやまりたかった事
だが実際にあってしまうと 口に出すことができなかった
本来客人で初めてのダンジョンを潜る玄一を守るのは自分だと自覚していたが 自分の力不足で
それを成す事はできなかった、あやまれば済む問題ではない事はわかっていた
だから二度と・・・・
自分は天狗になっていた 父や角 に助けられていた 自分の弱さを痛感した
なら強くなるしかない
玄一からトレーニングを教えてもらった事もその心からだった
その後霊亀様のところへ 千代とお礼にいった
いつもの小島のところで日向ぼっこをしているようであった
お礼をいうと 一回だけ頷いた 毎回このアクションだが これしかできないだろうか
だが この小さい亀にそれほどの力があるとは・・・
口には出さないが実際みていないので 実感がわいてこなかった
その夜 食事の後千代から呼び出され 望月家道場で 地稽古を行った
なんか実家とやっている事が変わらなくなってきた・・・・
次の日昨日のつぶやきのせいだろうか
望月家の中にゴール〇ジム並の設備が整っていた
その後 数日はダンジョンへはいかず千代にトレーニングの基礎を教え 朝夕地稽古を行った
ダンジョンにも足を運ぶが この前のような事がないよう千代も俺もしっかり準備し、地下14階までという制約をつけた
それがルーティンになっていき
朝食あとの日課+地稽古 ダンジョンから帰ってきて 夕食後地稽古
なんか実家よりもきつくなってる気が・・・・・
相手がばあちゃんでなく千代である事だけが救いだった
その後問題なく一ヵ月の時が過ぎ望月家にも初夏の香りがするようになってきた頃
日課の後、ずっと留守であった望月家当主国親 に呼び出された
「お待たせしました、唐沢玄一です」
初めてあった和室で挨拶をする
「長い間留守にして悪かった、まぁ毎日角から連絡は受けていたから詳細はしっておる」
「初ダンジョンの時は大変だったようだな?」
俺は唇を噛みしめる この当主は会った当初親バカまっしぐらだった・・・
多分千代を危険に晒した事で怒られるのだろう
「はい、千代さんを危険に晒してしまい申し訳ありません」
と頭を下げる
「いや責めてはおらん、そもそも二人で行けといったのは儂だ、それにもし千代になにかあれば
お前の死体をマキノの婆様に届けるだけだ・・・」
その顔の笑顔とは裏腹になにかすごい威圧を感じた
「まぁ冗談はさておき、マキノの婆様から連絡があった」
「家を長い間留守にするそうだから戻ってこいとな」
「まぁ、今どの家も忙しいからな 婆様のとこにも話が回ったんだろう」
「忙しいってなにかあったんですか?」
「儂が伝えていいことかはわからんからな 婆様に聞いてみるがいい」
「それでばあちゃんはいつまでに帰れと?」
「来週だそうだ、それまでに荷造りをしておけ」
「最後に、千代の件助かった」
「家に帰ってきて一番で千代が会いにきて、いままでの事を謝ってきた」
「礼というわけでないが 後で組手のひとつでもしてやろう」
礼なら金とか物品でお願いします といいたかった
「ありがとうございます」
「まぁ千代と地稽古してるようだし、後で顔を出す」
「では 以上だ」
「はい 失礼します」
俺は部屋をでて自分に用意されている客間へもどる
「お館様失礼いたします」
「角か、お前のいう通りなかなかの男のようだ、流石は唐沢家・・・いや・・・流石はあの婆様の孫か」
「流石玄一様でしょう、千代様の件ようございました」
「玄一に任せて正解だったな」
「マキノ様の予想どうりですか」
少し間を置き、国親は窓の外をみてつぶやく
「諫言耳に逆らう(かんげんみみにさからう)・・・か」
「千代様にわかっていただけたのは大変よろこばしい事です」
「これで無茶をする事もあるまい、もしや兄達を超えるかもしれんな」
「ええこれからの成長が楽しみです」
その夜
千代との稽古の途中
「そういえば俺、来週帰る事になったから」
「知ってる、確かマキノ様が長い間留守にするそうね、」
「なんだ しってたのか」
「お父様から聞いた、玄一なら一人でもなんとかなるでしょ?しぶとそうだし・・・それに管理する人間がいないとなにかあった時大変だから」
そんな他愛もない話をしていると
「お いるようだな?」
「あ・・・」
「お父様?」
「さあ約束の組手をしにきてやったぞ?」
道着を来た当主国親 今日の今日かよ・・・・
「千代もおるようだし、順番にいくかの?」
いやな予感がする
「じゃあ 俺、後で・・・・」
「・・・・普通男が先にいくものじゃない?・・・」
「そうだよな・・・・じゃあ・・・後で・・・」
これは譲れない 俺の本能が囁いている
「・・・・」
「じゃあ 先でいいわ」
「ふむ、千代からか・・・・」
「今日は本気できなさい・・」
いままで体験してきた過去の組手とは違う事を体に受ける重圧から感じとった
千代は竹刀を手に取る
「千代、それではなく あれをつかいなさい」
国親は刀を指さす
「お父様あれは本物の・・・お父様がケガをされては・・・」
国親は高らかに笑い 千代に言う
「別にどちらでも結果は変わらんが 実戦を想定せんとな」
そういい二本あるうちの一本を抜き 目に見えぬ速度で自分の腕を切りつける
その瞬間刀の方が砕けてしまっていた
それが自力なのかスキルなのかはたまた魔法なのか不明だが異常な風景であった
あ、これ ばあちゃんと同じ 人間じゃないタイプだ・・・
千代は渋々だが刀を手にし国親と対峙する 国親は無手であった
千代は一向に動く気配がない
「では こちらから・・・・」
先に国親が動く、残像だけが残るような突き、千代はぎりぎり躱す事ができた
だが先ほどの腕を切りつけた時より遅く見えた 手加減なのだろうか・・
国親はゆっくり千代が避けた方へ向きなおす
千代はさきほどと同じように動けないでいた それほどの相手、重圧
俺はとっさに千代に声をかける
「千代、ダンジョンで会った鬼達を思い出せ!!」
玄一は今の国親の重圧と比べれば あの時の鬼達の重圧ほどではない事を言いたかった
だが声をかけられた千代は違う事を思い出していた
「ふぅー」
千代が大きく息をする
「お父様 すみません、 覚悟が足りませんでした」
「いまから本気です」
「ふむ・・・」
国親は改めて対峙しようと部屋の中央戻るため千代に背を向けた 瞬間
千代が飛び出し国親の背を斬る、が刃が背中に食い込む事はなかった
千代はすぐに察し、国親から後ろにステップし距離をとりつつ両腕をクロスさせ ふり抜く
国親は向き直り千代から放たれた×字の風の刃を 拳でたたき壊す
そして間をおかず球体の風 これも拳で叩こうとするが 叩く前に魔法が発動し
強力な風の奔流が道場の中に吹く
俺は両腕で顔を隠すが横目に周り道場の戸など壁がはがれるのところをみる
国親の姿が見えたが動けないのかわざと動かないのかわからなかった
風がやみ二人の姿を確認する
「お父様これが私の本気です」
千代が大きく宣言し腕を大きく振る
以前鬼達2体に対して使った大きな首切り包丁をイメージした大技
だが今回は鬼達につかった時より 厚く、硬く、速さがでていた
千代はあの件があった後、角にいい 実際の3m以上ある厚く硬い首切り包丁を手配させた
もちろんはじめは反対にあったが 理由を聞き納得したようであった
魔法はイメージ・・・・百聞は一見に如かず、百見は一触に如かず
空想の物をイメージするより実物を作ってしまえばイメージはより明確になる
「ふむ・・・」
国親は角の報告により首切り包丁の件を知っていた、しかしここまで物になっているとは思っていなかった。
両手で大きな風の刃を受け止める
道場の中を先ほどと同じような風の奔流が埋め尽くし
そして風がやむ
大きな風の刃は消え失せ、国親は立っていた
「お父様、私の負けです」
千代はもう打つ手がなく敗北を宣言する
「お前の勝ちじゃ」
「え?」
国親は両手の平を千代と俺のいる方へ見せた 両手には 赤い線が見えた
「あれで手に血がにじむだけかよ・・・・・」
順番が次の俺は軽く絶望する
「儂に傷をつけおった・・まさか兄弟の中で一番若い齢で・・・・」
国親は急に機嫌がよくなり 高らかに笑う
「お父様、申し訳ありません、いま傷の手当を・・・」
「よいよい、千代、強くなったな・・儂はお前を誇りに思う」
「お父様・・・・」
ちょっと親子のいいシーンが続いて ほっこりしていたら
「さて・・・次は玄一だな・・」
ほっこりしている場合ではなかった・・・
千代は道場の隅でこちらを伺っている
国親はさきほど千代が使っていた刀を俺に渡す
そして国親と対峙する 重圧がすごい なるほど千代もまともに動けなくなるわけだ・・・・・
「さきほど鬼と儂を比べてたようだが・・・・お前には少し力を見せよう」
ドンッ
息ができないほどの重圧 目の錯覚か国親の体が先ほどよりも一回りも二回りも大きく見える
体は動かないというより下手に動くとやられる脳がそんな信号をだしているようにも思える
「さらにもう一段あげるぞ・・・」
ドンッ
本当に息すらできない・・・・体に力を入れる事もできず膝をつく 手に握っていた刀も離してしまう
心臓を握られているような感覚・・・・・
「玄一 お前との組手はここから儂に一撃をいれる事だ」
お前娘の時、完全に手抜いてんじゃねーか
ふざけんなこんな状態で一撃とか無理げーだろーがよ・・・・
初ダンジョンの事 実は恨んでるんじゃねーか このハゲ・・・・
口も動かせないので頭の中で悪態をつく
意識はまだあるが体がうんともすんともいわない
国親の理不尽に対して怒りがわくが怒りに身を任せても無駄だった
普通アニメとかだと怒りで動いたりするんじゃないのかよ・・・・
いろんな感情が入り混り、呼吸もできず 意識もなくなってゆく
「さて そろそろ本当に死ぬぞ?」
国親は昔若かりし頃マキノの婆様に同じ事をされた その時マキノに一撃を入れる事ができた
国親はそのおかげで死中に活を見出す事ができるようになった それはいまでも自分の財産になっている
角の報告から、今の玄一になら可能だと判断し、その恩を返そうとしていた、もし失敗しても意識がなくなったら圧を消そうと思っていた。
だが国親や角は玄一を買いかぶりすぎていた、玄一にはそこまでの力や経験はなかった
意識が遠くなっていく・・・・・
俺このまま死ぬのか・・こっちに来てからこんな事がもう二回目・・・・もうやだ・・・・
もうこっちでニート生活なんかしたくないな・・・・
家に帰りたい 帰りたい 帰りたい 帰りたい 帰りたい 帰りたい 帰りたい
自分の部屋を思い描いていた・・・・
帰りたい 帰りたい 帰りたい 帰りたい 帰りたい 帰りたい
そして意識を失う
「お父様!!」
千代が叫ぶ
国親は意識がなくなったと判断し、圧を消そうとした瞬間
玄一の姿が音も気配もなく消えた
「なんだと・・・・」
国親は玄一から目を離していない
周囲数百メートル気配を探るも玄一らしき気配はない
数秒の内に色々な想定をしたが答えが出る事はなかった
「お父様、玄一は・・・・・」
千代も目の前で消えた玄一をみて戸惑っていた
国親は角を呼び館の周辺、玄一がしっていそうな場所捜索させた
朝まで角、従者達に捜索させるが発見することは叶わなかった
国親は早朝唐沢家に連絡を入れる、もちろん電話にでるのはマキノであった
昨日の夜の事を包み隠さず話す
マキノはただただ冷静に話を聞くだけであった
国親は最後にこちらで責任をもって探す事を伝え電話を切る
どんな屈強な魔物が相手でもかく事のない汗が背中を伝い、最悪を想定する
千代も従者と共に玄一を捜索していたが一度部屋へ戻った
千代はまさか玄一と会った初日に懸念していた事が今になって現実になり、将来への不安を感じていた
マキノは心の隅に不安を抱え 望月家を向かおうと荷造りをしていた
すると後ろから声がかかる
「ばあちゃん、飯」
「・・・・・・・」
「あれ 飯できてないの?」
「なんでお前家にいるんだい?」
「ん・・・・・・?」
数秒言われた意味を考える
「なんで俺家にいんのぉぉぉぉおおおおぉぉおおお!?!?!??」
「はぁー」
マキノはため息をつき 望月家へ連絡を入れた
唐沢家で玄一を発見、原因は消去法でスキルだと考えられる事、この事は他言無用な事を伝え失踪事件は幕を閉じる
望月家
国親は角と千代の部屋へ行き詳細を話す
千代は話を聞き玄一の言ってた『超躍』を思い出す
そんな事をできるのは知らなかったが あの様子だと本人もわかっていなかった様に思えた
国親は無事にこの件を解決したからか 上機嫌であったが、千代は国親に原因がある事を攻め立てた
意気消沈した国親は部屋からでていき、千代は角に玄一と連絡をとるように伝えた
角は玄一とつながった電話をもち千代の元へ 電話を手渡し部屋をでる
「もしもし玄一?」
「お 千代か?元気?」
「あんた事の重大さわかってるの??みんな心配したし、あと少しで望月家と唐沢家で火種を抱えるところだったのよ?まぁ無事だったからよかったものの」
「待て 待て 俺だって好きでこっちに戻ってきたわけじゃあ・・・・むしろ原因は国親のおっさんだろ?」
「お、おっさんって・・・・まぁいいわ 確かに原因はお父様だから・・・・」
「でもあなたのスキルそんな事もできるの?」
「いや しらん マジでしらん」
「やっぱり・・・・そんな事だろうと思ったわ・・・・」
「まぁ その あの とりあえず ごめん」
「もうちょっとちゃんとしたお別れしたかったけど しょうがないわね」
玄一は千代が発した言葉が本音であると悟り心を痛めた
「ああ・・・本当にごめん ばあちゃんが出かけて戻ってきたら一度そっちに挨拶にいくよ」
「わかった あなたの荷物に連絡先いれて送るから なにかあったら連絡して」
「お、おう」
「それと一ヵ月間ありがと・・・」
「いやこちらこそ・・・・・」
少しの間沈黙が続く
「ほかになにかある?聞きたい事とか?」
「千代ってそういえば歳いくつなん?」
「最低・・・・・・・・・・16」
歳をいった直後電話は切れた・・・・・・・