めりくり
(はっ)
ハルが目を覚ました時、日はまだ落ちていなかった。身体のあちこちを確認する。頭はまだグラグラしているが、体は奇跡的にほとんど無傷らしい。
(一体なにが……)
自身の確認を済ませたハルが辺りを見回すと、そこには見たことのない光景が広がっていた。
いや、むしろ見覚えのある景色が"無くなっていた"。
ハルの高校は都心に位置しており、周りはビルで囲まれているはずだ。しかし、目視できるものはそれらを構築していたであろうガレキのみであった。
何が起こったのか詳細を理解することはハルには不可能であったが、先ほどの「光」が影響していることだけは確信が持てた。
「おーい、誰かいませんか! おーい!」
声は虚しく響き渡る。ハルの周りでは建造物だけでなく、人々も姿を消していた。
(まさかみんな死んで……)
考えたくはなかった。しかし状況を理解しようとすればするほど、結論は残酷なものになっていく。
もしこのまま誰も見つからなかったらどうすればいいのか、自分だけが生き残っていたら……そんなことを考えながら辺りを探索していた。
その時だった。
ベージュのカーディガンに赤色のスカーフ。間違いない、いつも隣であいつが着ていた制服が目に飛び込んできた。
「垣本!」
ハルはガレキをかき分け、急いで駆け寄った。生きてる奴がいた。しかもよく知ってるあいつだ。良かった——
制服は持ち主を失い、ただ風に揺らめいていた。
言葉は出なかった。あまりに残酷すぎる現実を前に、ハルはただ呆然と立ち尽くしていた。
12月24日。電波式の腕時計は日付もきっちりと表示を続けていた。もっとも、電波を発信する施設が残っているとは考え難いものではあったが。
この3日間、ハルはスーパーやコンビニの跡地らしき場所から水と食料を拾い集め生活していた。建物は崩れても、存外商品は残っていたりするようだ。
「めりくりー、俺」
クリスマスイブ、一人きりのクリスマスパーティーは今までで最も豪勢なものになった。なにせほかに生存者がいない。落ちている食べ物は全部まるごとハルのものである。冷たいチキンを頬張り、酒だかジュースだかわからない飲み物をたらふく飲んだ。
「ひとりぼっちサイコー!」
ひとりぼっち。別に嫌ではない。もともと部活動には参加していないし、なにより自由だ。何者にも縛られない、素晴らしいじゃないか……
その夜は涙と友達になったせいで、ひとりぼっちではなくなってしまった。