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第三話 ハイテンション・スタンダード


番長ハンター』。


 それは、主な職務として、民間警備とカウンター・テロを目的として設立された、『科学特区』の特殊制度である。


 一定以上のレベルの戦闘能力を有した人間が、特殊な免許と許可状を与えられることで認可される職業であり、その戦闘能力の高さと金銭によって仕事を選ぶことから、別名を『街の傭兵』とも呼ばれる。


 そんな『科学特区』屈指の腕っぷしである『番長ハンター』と名乗った富士美たちを目の前にして、銀行強盗達は今までの気勢が嘘の様に腰が引け、震えながら手にした銃を構えると、不意にメインコンピューターの前に座り込んでいる眼鏡の男に向けてマシンガンの銃口を突きつけた。


「おおい!安東おおおおおお!てめえ何してんだ!お前がさっさと口座を操作しねえから、面倒なことになってるじゃねえかよおおおお!」


「そうだぞおおおおお!判ってんのかああああ!


 何の前触れもなく始まった銀行強盗たちの内輪もめに、富士美たちは思わず二人して顔を見合わせると、呆れとも困惑ともつかぬ表情で嘆息した


「おーおー。到着早々修羅場だねえ。奴さんたち、どうやらやたらと篤い仲間意識をお持ちの様だよ。つーか、この期に及んで責任の擦り付けとか、あいつらバカじゃねえのか?」


 突然に喧嘩騒ぎを起こした銀行強盗達を見て、友美は盛大な皮肉を込めて口元を嘲笑に歪めると、スカジャンの内ポケットから一枚の御札を取り出して、右手の中に強く握りしめた。


「急急如律令」


 その瞬間、友美の右手の中にある御札は青白い火花を上げたかと思えば、白い光を手の中で伸ばしていき、やがて一振りの日本刀へとその姿を変えていく。


魔術マギア』式神召喚の一種である、『武装召喚アームド』だ。

東洋魔術オリエント・マギア』である陰陽道の中でも特に初歩的な魔術として有名であり、魔術のあまり得意でない友美にとっての数少ない使用魔術の一つだ。

 そうして、魔術で日本刀を取り出した友美は、そのまま正眼の構えを取ると、今にも強盗達に襲い掛からんばかりの凶悪な顔つきになって、後ろで突っ立っている富士美を急かす。


「おい、富士美。とっとと許可だせ。許可。早いとこ片付けて、帰ろうぜ?」


「あいよ。……お前割と戦闘狂だよなあ。それじゃあ、『番長ハンター』ゼロ・カウンターの名において、笹森・友美の交戦を許――――――ちょっと待て」


 舌なめずりをせんばかりに戦闘を急ぐ友美に対して、富士美もまたヤル気無さそうにしながら戦闘態勢に入り出したその時だった。


「うるさいぞ、ゴミが」


 銃器を構えて自分を取り囲む銀行強盗達を睨みつけて、今までハッキングにしか注意を及ぼさなかった、眼鏡の男こと安藤は、そう言って、右手を軽く鳴らしたのだった。


 その瞬間。


「が……?あがああああ!」


「おい?どうした、田代――――ッ!」


 田代と呼ばれた銀行強盗の一人は、泡混じりの唾液を口の端から流して喉を掻き毟り出したかと思うと、今まで眼鏡の男に向けていたマシンガンの銃口を、突如として富士美や銀行強盗の仲間達に向けて、無差別に発砲し出した。

 突然の凶行に、今まで人質となっていた銀行員たちはパニックを起こしながらも物陰に隠れだし、狭い銀行の部屋の中は、阿鼻叫喚の地獄となる。

 

「な、何をしてる!田代!やめろ!俺たち仲間だだあああああああああ」


「はあ、あ!……は、いじょ!……は、い、じょ……!」


「た、田代?!どうしたお前……、一体なあああああああ!?」

「ぐおあ!ああ!ああああああああああ!」

「なッ!ぎああああ!」


 突然に始まった仲間の異常行動に、どうにかして田代を落ち着かせようとほかの銀行強盗たちは暴れはじめた仲間に声を掛けるが、当人は仲間の声に反応する様子も見せず、うわ言の様に排除という言葉を繰り返すしながら銃を乱射するばかりだった。

 それは他の銀行強盗達にも同様で、田代と呼ばれた銀行強盗に襲われた強盗達は、不意に口元で泡混じりの唾液を流しながら喉元を掻き毟りのたうち回り、まるで感染するゾンビウイルスの様に、全員が正気を失った土気色の顔つきになってその場で立ち尽くした。


 そんな中、今までメインコンピューターの前に座り込み、ハッキングを進めていた眼鏡の男はゆらりとした動きで立ち上がり、銀行の中に突っ込んできた富士美たちの前に進み出た。


「ふふ。随分と御見苦しい様子を見せて申し訳なかったね。まあ、君たちも随分と重役出勤を決め込んだ様だし、これでおあいこという事にしよう」


「……そいつはどうも。お褒めにあずかり光栄だがね。私としちゃあ、もうちょい早めに来るつもりだったから、そこまでへりくだられるとすげえ申し訳ねえよ」


 突如として異常な行動を起こし出した銀行強盗達を従えて、安藤と呼ばれた眼鏡の男は深々と富士美たちに向かって深々と頭を下げて見せ、そんな安東の様子に警戒を緩めることなく友美が答えた。


「ふふ。お互いおあいこ同士で一つ提案があるんだけど、どうかな?少しばかしこのまま何もせずに黙っていてくれないか?そうすれば人質は無傷で返すし、此処にいる銀行強盗達も差し出そう。何なら、口座の方にも一切手を触れない事をお約束する。僕としても、騒ぎを大きくすることは本意じゃないんだ」


「そりゃいいな。できればその条件の中に、お前が今すぐ自首する事と、何もせずにそのまま投降してくれることも入れてくれりゃ、すぐにでも飲むぜ」


 口元だけを笑みの形に歪めた冷笑を浮かべながら持ち掛けた安東の交渉を、友美はこともなげに一蹴したが、元々返事を期待していたわけでもないのだろう。

 友美の言葉に、「残念」とだけ呟いて、まるで指揮者の様に軽く左手を振った。


 その瞬間、ゾンビのような表情でその場に立ち尽くしていた銀行強盗達だったが、その体中の筋肉が突如として不気味に膨れ上がったかと思えば、盛り上がった筋肉の一部が不気味な触手の様に伸びあがり、額からは角が生え、その眦は切れて吊り上がっていく。


 徐々に鬼とも悪魔ともつかぬ異形の姿に体を変形させていく銀行強盗達は、やがて理性を失った獣の様に雄たけびを上げて富士美たちに襲い掛かり、富士美と友美はその攻撃を避けながら銀行の外へと飛び出した。


 瓦礫や破片をまき散らしながら外に出て来た富士美と友美は、銀行強盗の成れの果てとなった怪物と、それを率いる安藤の姿を見ながラその前に立ちはだかった。


「ハッ!!面白ェ!この位やってくれなきゃ、わざわざ私らか出張った甲斐が無いってもんだ!ここらで格の違いってのを」


「下がってろ友美」


 すると、今まで黙って友美のやり取りを眺めていた富士美が、不意に嘘の様に鋭い口調に変えて友美を庇う様にその前に進み出ると、すっかりと怪物へと変貌した銀行強盗達を睨みつけた。


「おい!何すんだ富士美、私の邪魔を」


「これは『超能力スキル』や『霊能力スタイル』の類じゃねえ。明らかに操作系の『魔術マギア』だ。そして、操作系魔術は大別して二種類しかねえ。第一に、精神を操作して操るタイプ。第二に、肉体を操作するタイプ。こいつの魔術は恐らく後者だ。脳髄を直接支配することで、肉体だけじゃなくて精神をも操作する」


 唐突ながらも流暢に富士美の口から出て来る冷静な分析の言葉に、友美は渋い顔をしながらも黙って耳を傾けると、静かに構えていた日本刀を下ろした。


「成程?肉体強化系の『超能力スキル』を持つ私じゃ、相性が悪いって訳ね?それで、術者のレベルは?」


「術式レベルはステージ3.5ってとこだな。クラスとしては多分、大魔術師セブンよりの小魔術師シックス。強力な術を覚えるよりも、術士としての力量に重点を置いているタイプ。こう言う手合いは、格下の術者なら逆に支配して操作するもんだ。魔術よりも能力に主体を置いているお前じゃ、相性云々じゃなくて勝てねえよ」


 そう言うと、富士美はポケットの中から取り出した棒付きキャンディーを口の中に突っ込みながら、まるで籠の中のモルモットを見るような冷静さで、この場の状況を分析する。


 富士美の言葉に友美は忌々し気に舌打ちをすると、手にした刀を無造作に振って元の札に戻して、棒付きキャンディーを咥えた富士美に振り向いた。


「じゃあどうすんだよ?言っとくけど、こっちは人質取られてんだ。あんまウダウダやってたら、何人か殺されるかもしれねぇんだぞ?」


「ああ分かってる。だから早めにケリをつけよう。お前の戦闘は許可しない。人質の安全を確保する事を中心に動け。あの化け物と後ろのバカは、俺が直接叩く」


 富士美は友美にそう言い捨てると、キャンディーを咥えたまま銀行強盗達の前に進み出て、友美と同じように一枚の札を取り出し、不意に長々と呪文を唱え出した。


「太極、両儀、四像に八卦。重ねて千条五方に満ちて、五神に還りて五神に発す。天円地方の理に我の心意に荒ぶり鎮まれ」


 富士美の口から零れ落ちた呪文は、深い響きを持って周囲に満ちると共に、小さな火花や閃光が富士美の手にした札に向かって翻り、旋風つむじかぜが大気を切り裂いていく。


 そうして、


「急急如律令。召喚『釈迦牟尼刀』」


 そう呪文を唱え終わった富士美の手には、今まで巻き起こった光や風を切り裂くようにして、一振りの大きな刀が握られていた。


「安藤とか言ったな。一つだけ言っておくぞ?テメエは俺がぶちのめす。力と格の差って奴を、叩き込んでやるよ」



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