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第6話 泥棒鉱山


「今日は革製の鎧なんですね」


 坑道で前を歩くボクソンに孝太郎が問いかける。


「ああ、金属製は重いしな、今回は素早く動ける事を重視したわけだ」


「つまりは、動きの速い敵が相手だと」


「そういうこった」


ボクソンの装備は、先日見た物とは違ってチェインシャツに堅革製の胸当てと小手に腰鎧、脛当てだけが金属製といった出で立ちである。

 武器も両手持ちのバトルハンマーではなく、柄の長い片手用のものとなっている。


 一方、孝太郎は、山篭もりしていた時の格好そのままだ。


 厚手の綿を黒く染めた作務衣の上下に、ハイカットの革製のスニーカー。


 山を歩く際には、枝や刺を防いでくれるが、戦いとなれば防御力が期待できるようなものではない。所謂紙装甲状態である。


 暗く湿度の高い坑道を進む。


 灯りはボクソンの持つランタンのみ。


 暫く進むとホールとも呼ぶべき広場に出た。


 ホールは天井が崩落して陽光が届いている。


 天井までの高さは建物の三階程はありそうだ。


「いるな。あそこを見てみろ、黒い鳥が止まってる。あれがウグイットだ」


 ボクソンの指差す方向には、濃灰色のカラスより二回りは大きい鳥の姿があった。


 嘴は大きく鋭いが、猛禽のそれとは異なりカラスのそれに酷似している。


「ちょっと試してみてもいいかな?」


 孝太郎は手頃な大きさの小石をいくつか拾い上げる。


「おう、お前さんの講習だからな。色々やってみな」



孝太郎は、岩棚にとまるウグイットに向けて、拾った小石を投げつける。


最小限のモーションで放たれた小石は、それでも鋭い速度で飛んでいく。


飛礫つぶて】、昨年までの山篭りで動物性蛋白質確保のために必要不可欠だった技だ。


「グワッ」


 命中するかんにみえた飛礫は、気付いたウグイットの鳴き声と共にその方向を変え、岩壁へと当たる。


「ただの鳥じゃねえぞ、魔物だからな。弱いが風の魔法を使う」


 岩棚から落ちるように滑空を始めるウグイットは、再度グワと鳴くと速度を上げて上昇していく。


「一度も羽ばたかないでも上昇できるのか。確かに鳥でhないな」


 ホールの天井付近まで上昇したウグイットは、急降下で孝太郎の頭上へ迫る。


 孝太郎頭上ギリギリで身を翻したウグイットは、その鋭い爪で孝太郎の頭部を狙う。


 頭を大きく下げて、くぐるように爪を躱す。


 鳴き声とともに再び上昇するウグイット。


 追撃よろしく、飛礫を放つ。


 後ろからの攻撃であったが、またも鳴き声によって方向を変えられ命中には至らない。


 ホールの壁に沿うように滑空するウグイット。


 その速度は一鳴きごとに上がっていく。


 円運動だったその動きが急に角度を変える。


 嘴による攻撃をサイドステップで躱す。


 すれ違いざまにウグイットが鳴いた。


「グェ」


 咄嗟に更に飛び退って左腕で目をガードする。


 瞬間、厚手の綿製の袖が弾けるように裂ける。


 二の腕にも数条のスッパリと切られたような傷が付く。


 一呼吸おいて、じくりと血が湧き出してくる。


 幸いにも深手ではない。


「かまいたちか、厄介な」


 実際には圧縮した空気で作られた刃を飛ばしているのだが、結果に変化がないのであれば大きな違いはない。


 孝太郎は、山篭りでは体験したことのない危機的状況を自覚していた。



 見た目に惑わされるな。


 鳥のように見えて、あれは鳥ではない。


 獲物ではない、あれは敵だ。



 自らにそう言い聞かせる。


 ならば、狩りのための技術ではなく、戦うための技を使う。


 三度迫りくるウグイットに飛礫を放つ。


 当然のように鳴き声でそれを躱すウグイット。


 その瞬間、急に滑空を止めたウグイットは地面に落下した。


 その頭部には深々と飛苦無が突き刺さっていた。


 【陰飛礫かげつぶて】、投擲系の技で、初撃の死角に追撃を投擲する技である。


 山篭りの狩りで使う機会はなかったが、対人戦の訓練で体得した技だ。


「ふう、これも躱されると面倒だったな」


 そう呟くと、刺さった飛苦無を回収する。


 空を飛ぶ敵に出会ったことで自らの装備、特に五本という飛苦無の数に不安を覚える孝太郎であった。



 ボクソンの拍手に振り返る。


「いやいや、大したもんだ。予想以上だよ」


「いい経験になりましたよ」


 対人として身につけた技を使う機会がこようとは思わなかった孝太郎の偽らざる気持ちだろう。


「ウグイット自体は金にはならねぇ。奴のいた岩棚まで登ってみな」


「わかりました」


 命綱もなく、ボルダリングの要領でスルスルと岩壁を登っていく孝太郎。


「相変わらず上手ぇもんだな」


 四本腕との戦闘の後で依頼した採掘の時の、岩壁を縦横無尽に這い回る孝太郎を見て以来の光景だ。


 孝太郎が余りにかんたんに登るので、ひょっとしたら自分にもできるのではないか、という考えを自らの尻の痛みで勘違いであったと気付かされる。


「いたたたた」


 尻を押さえて蹲るボクソンに、岩棚へ辿り着いた孝太郎から声がかかる。


「着きましたよ」


「おう、光る鉱石やら貯め込まれてるだろ。それを下へ落とせや」


 岩棚の上には、拳ほどの大きさの岩塊が敷き詰められるように貯め込まれていた。


 中には子供の頭程の大きさの物まである。


 端から崩すように下へと落とす。


 岩棚の上にあった鉱石は優に二百を超えた。


 孝太郎が岩棚から降りてくると、ボクソンは岩塊をひとつひとつ調べて仕分けをしていた。


「ここだけでも結構な量だったな。暫く誰も来てねぇか、この辺りで撤退した奴がいたかもしれねぇ」


 ボクソンの指示で、袋に仕分けの終わった岩塊を詰める。


 仕分けと袋詰めを黙々と行う。


 大きな袋三つ分の岩塊を引きずるように運び、夜営場所に着いたのは日の暮れる直前であった。


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