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第36話 神託の勧め

次の話への繋ぎ的なパートなので短いです。

 孝太郎に刀を託した男が身罷ったとの連絡を受けた孝太郎は、神殿での簡単な葬儀と埋葬に立会った。


 こちらへ来て葬儀に参列するのは初めてのことだったが、土葬で共同墓地へと運ばれ、埋葬された後、神官達が手を組んで祈っている後方で、孝太郎だけは手を合わせて拝んだ。


 日本古来の侍とは違うだろうが、サムライであるならば、手を合わせてやることが一番の供養になると思ったからだ。


 無論、それが何の根拠もない行動であることは孝太郎自身よくわかっていた。


 葬儀にはエルフ神官のスリオラも参加していた。


 男の治療と葬儀に礼を言う。


「この度は色々とお世話をかけました」


「お気になさらまいでください。困った方を助けるのは神殿の役目ですから」


「そう言われると気持ちが楽になります。彼には武器を託されたので、届けに行くつもりでいます」


「そうなのですね。故人の希望を是非ともかなえて差し上げてください」


「ええ、実はパーティーを組みましてね」


 クロノの事をかいつまんで説明する。


「それではパーティーメンバーは、あと二月経たないとカフェルへはこないのですね」


「ええ、正確にはわかりませんが、少なくともそれくらいはかかりそうだと思っています」


「その間はお暇なのですか?」


「ええ、忙しいわけでは無いですね。ギルドで何か見繕って依頼を受けて過ごすようになると思います」


 ハンターとしての生活は、そう変化があるものでもない。


 依頼の軽重はあれど、依頼を受けて、達成して、報告して報酬を受け取る。


 ハンターの日常とは、そういうものだ。


「せっかく纏まった時間が取れるのでしたら、銀輝竜様の神官としては神託を受けてみる事をお勧めします」


「『神託』ですか?」


「ええ、簡単な物はここの神殿でも受けられますが、纏まった時間があるのでしたら神殿領で高位の神託を受けてみてはいかがですか?」


「神殿領というのは?」


「ご存じありませんでしたか。神殿領というのは、どこの国にも属さず神の庇護の元で存在する神殿とそれを取り巻く街で、この大陸の中心部に銀輝竜様を祀る神殿の総本山があるのです」


 バチカン市国のような地域なのだろうと想像するが、そもそもバチカン市国自体の知識が乏しい。


「そうなんですね。他の大陸にもあるんですか?」


「他の大陸には銀輝竜様の眷属にして亜神様4柱がそれぞれ修練場を開かれています」


「他の神様を信仰している人も神託を受けたりできるのでしょうか?」


 孝太郎は、竜を信仰するというこの世界の宗教観に馴染めずにいる。


 八百万の神がいる日本という特殊な宗教観を持つ国から来たのであるから、やむを得ない事なのかもしれない。


「実体神としての銀輝竜様は主神として私たちを守って下さっています。神託は、銀輝竜様がこの世を良くするために必要な事を神託を受ける人に手伝っていただくことです。他の神様を信仰していてもかまいませんよ」


「銀輝竜様以外の神様を信仰していたのでは、お怒りになるのでは?」


「教義をねじ曲げてたりすれば、お怒りになるでしょうけど、そもそも信仰は自由ですし、他の神様は概念神ですからお怒りになることはないと思います……」


「そうですか」


 口では了解したが、世界の宗教や信仰というものに馴染めない事が再確認できただけだ。


「神殿領は遠いのですか?」


「そうですね、ここから王都まで約10日、王都から神殿領まで10日というところでしょうか」


「神殿の本部で神託を受けるとなると、現地で待たされることになるのでしょうね?」


「いいえ、残念ながら混雑はしようもないのです」


「どういう事でしょう?」


「確かに大陸のほとんどの方々は銀輝竜様を信仰していらっしゃいます。ですが、国外へ出る権利のある方は一握りで、その内の貴族の方は神託を受けようとするほど信仰心が高い方はそう多くはありません。その他ですと商人の方かハンターの方ということになりますが、その方々はお忙しい方が多いので……」


 国境を跨いで移動できる者は少なく、その中でも神託を受けようとする時間と費用が捻出できる者は一握り、それゆえ神託を受ける時に混雑するような事にはならないらしい。


 往復で40日、十分に行って帰れる距離ではある。


 それに、途中商都へ立ち寄ることもできる。


 クロノの様子を見に行ってもいいだろう。


 なんだかんだと理由を見つけながらも、孝太郎の考えは神託を受ける方向へと傾いていった。


 要は、商都にいるクロノが気になって仕方がないのだ。


 特に依頼を受けているわけでもないので、早々に商都行きを含めた神殿領行きを決めた孝太郎は、3日の後にはカフェルを出立していた。


「というわけで、商都へ向かっている最中だ」


「そうなんだね。丁度いいというか、一つお願いしたことがあるんで、商都へは直接入らないでもらえるかな」


「ん?何か依頼絡みか?」


「いや、どっちかって言うと商業ギルド関係で個人的なトラブルでね」


「業務妨害とか?」


「いやいや、孝太郎が来てくれるなら商談になるから大丈夫だよ」


「そうか、あと6日ほどで到着予定だ」


「オッケー、こっちはいろいろと仕込みもあるから、次の連絡は商都に入る前でよろしく」


「わかった」


 既得権益で溢れる場所に新規の商人はなかなか食い込めない。


(何処も同じということか。)


 孝太郎は、現代日本にいるときにも、高校生ながら大人の汚い現場に何度か立ち会う経験があった。


 荒事になってもよい準備も必要だろうなどと考えつつ、街道馬車の宿営地での眠りに就く孝太郎であった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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