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第35話 刀

お待たせしました。

相も変わらず遅筆で申し訳なく思っております。


 カフェルの街において、東門は王都や商都方面への街道の出入り口となっており、カフェルの街でも一番交通量の多い門である。


 午前は街を出る者、午後は街へ入る者とそれを出迎える者、見送る者で往来が止むことはない。


 特に、都市間を定期的に往復する街道馬車が到着する時間帯は、街を出る者と街へ入る者が入り交じり独特の喧噪が生まれる時間帯だ。


 丁度、商都であるベルトア方面からの街道馬車が到着して、人や荷物がごった返す中、荷物も少ないために早々と喧噪から抜けだし、門衛のチェックを受けている男がいた。


 真田孝太郎である。


 ハンターとしてのランクを上げるための試験の受験のため商都に赴いていた孝太郎は、試験を終えカフェルの街に戻ってきたのだった。


 一方、クロノはハンターとしてのランクを上げるために商都に残っていた。


 最低ランクであるクロノは、一つランクを上げれば、身分を所持したままカフェルへ移動することができるようになる。


 普通であれば、1年以上かかっても不思議はないランクアップだが、孝太郎は何も心配していなかった。


 おそらく三月は掛からないだろうというのが孝太郎の予想だ。


 戦闘能力は低いといっても、一般の駆け出しハンター程度の実力は十分に持っているし、チートとも言えるアイテムボックスの能力を持っている。


 採取系の依頼だけ受けたとしても、他のハンターに比べれば格段のアドバンテージがある。


 (ま、こいつもあることだし、心配はいらないよな)


 孝太郎が目を落とした先は、左手首にはめられた銀色の腕輪だった。


 クロノから渡された腕輪には、説明を受けている機能だけでも時計機能、位置特定機能と通信機能がある。


 おそらく他にも説明を受けていない機能が搭載されているであろうことは、クロノの持っていた高周波ブレード的な武器からも、想像に難くない。


 一日の終わりに通信機能を使って、お互いの状況を連絡しあう事になっていた。


 当然、孝太郎が街道馬車で移動している間も、それは行われていたので到達距離に問題はないであろう。

 



 ギルドに報告をした後、ボクソンの店に顔を出す。


「そうか、コタローもついにCランクか」


 ボクソンが感慨深げに言う。


「ええ、お世話になりました。鴉と鵲がなかったら、もっと時間がかかっていたと思います」


「なに、礼を言うのはこっちだ。まだコタローに受けた恩の半分も返せたとは思っちゃいねぇよ」


 パーティーが全員無事に帰ってこれたのは、エルダーフェンリルとコタローのおかげである事実は覆らない。


「そういや、サムライっぽい御仁を見かけたって噂があるぜ」


 サムライとは、この世界で刀を使って戦う職業のことであるはずだ。


 会って話しでもできれば、刀の製法のヒントなりとも掴めるかもしれない。


「いつ、どこでです?」


「カフェルのハンターギルドだ。4~5日前だったが、ギルドへやって来て半日ほどいたらしいが誰とも話さずに出て行ったってよ」


 人数が少なく、拠点も遠いためカフェルのような辺境では見かけることは稀なはずである。


「そうですか。明日はその方を探してみることにします」


「そうか、製法のヒントでもわかれば教えてくれ」


 ボクソンも孝太郎がほしがっている刀には並々ならぬ興味を抱いていた。


 ボクソンの店を辞した孝太郎は、宿屋へと向かう。


 少し早めの夕食を摂った後は、部屋に籠もって数日間の馬車の移動で凝り固まった筋肉をストレッチでゆっくりと元に戻していく。


 その後は、久々の寝台の感触を楽しみながら眠りへと落ちていった。





 翌朝、まだようやく東の空が白くなろうかという時間


 街の中央広場で、棍を振るう男の姿があった。


 孝太郎ではない、食堂の店主にして槍の道場の主でもあるメイダスである。


 メイダスは孝太郎の棍の型を見て以来、その再現に早朝の時間を充てていた。


 どこがどう違うのかは明確にはなっていない。


 しかし、孝太郎の振るった棍と自分の振るう棍に違いがあるのは明らかだった。


 イメージの中の孝太郎と自分が重なるように棍を古い続ける。



 メイダスには一つの予測があった。


 昨夜、彼の店を訪れた客が、孝太郎らしき人物が帰ってきたとの噂をしていたのだ。


 上手くすれば、また彼が棍を振るうところを見られるかもしれない。


 故に、いつもより早い時間から市場での仕入れの時間ぎりぎりまで粘って練習する事にしていたのである。


 一心に棍を振るうメイダスに声をかける者があった。


「修練中に失礼する。なかなかの武威とお見受けした。ひとつ、某≪それがし≫と手合わせを願えないだろうか?」


 どこから現れたのか、その男はメイダスの棍を振るう姿をしばらく見ていたようだ。


 東方風の装束が特徴的であるが、ひどく痩せている様に見える。


 それ以上に目を引くのはその男には右腕が無かった。


 加えて右足も義足である。


 それでも尚、強そうな者を見つければ手合わせを所望するのは、貪欲なまでの強さへの拘りなのだろうか。


 逡巡の後、メイダスは答える。


「ハンターを引退してしばらく経つ身で良ければ、お相手することに意義はない。しかし、振るう棍を見て声を掛けられたのであれば、私の棍は未だ模倣の域を出ておらん。手合わせには、もっと適した御仁がいる事を先にお伝えしておく。」


「ほう、大方の武器が扱えそうな身のこなしながら、それを模倣と申されるか?」


 真似て振るっている棍の型から、自分が孝太郎の型から感じた事と同じような感じを受けたことを告げられ、メイダスは自分の感覚に確証を持つと同時に、模倣とはいえ孝太郎の動きに近づいているのだという手応えを感じた。


 しかしながら、真似事でやっている棍で手合わせをすることは憚られた。


 手本となる人物がいるのであるから、その人物との手合わせする事こそが、目の前の男にとって一番良いことであろう。


 それに、運が良ければその手合わせを見ることが出来るかもしれないという、期待もある。


「うむ。私がやっていた棍の振りは、とある御仁の真似なのだ。それも、教えを受けたわけではない。謂わば、盗み見て真似ているだけのこと」


「それは興味の尽きぬ話。ならば、その御仁に会わせていただく訳にはいかないだろうか?」


「残念だが、私もその御仁が何者なのか詳しくはしらない。ただ、大方の予想はついてはいる。それで、今朝辺り此処に現れるのではないかと思い、早くから棍を振るっているのだ」


「なるほど、なるほど。ならば某も、その御仁を此処で待つといたしましょう」


 東方風の衣装を纏った男は、そういうと近くの石に腰掛けた。


 メイダスは尚も棍を振るい続ける。


 東の空の朱に白が混ざろうかという頃、公園に件の人物が現れた。


 孝太郎である。


 棍を振るうメイダスを見つけると、しばし見入る。


 見様見真似ではあるものの、それなりに型にはなってきている。


 しかし、見様見真似ゆえに、型の持つ意味をはき違えている個所も多くあった。


 大きく呼吸をすると、金剛杖を構える。


 メイダスは、自ら棍を振るうのを止め、食い入る様に孝太郎を見つめている。


 そのメイダスの様子を見て、件の人物だと思い至った東方風の衣装の男も、孝太郎に注目する。


 孝太郎は、気にする風もなく型をさらう。


 時に大きく、時に鋭く振るわれる棍に、二人の男は見入っていた。


 メイダスの振るう型と明らかに違うところを3カ所ばかり、ゆっくりと演じたのは孝太郎なりの敬意とサービスであった。


 最後に大きく踏み出して、鋭い突きを放って構えに戻り、棍を収める。


 メイダスは、深々と孝太郎に頭を下げた。


 数カ所をゆっくり演じた意味が解ったのだろう。


 もう一人の男が歩み寄って来た。


 薄暗い中で、はっきりとは見えなかったその姿が近づくにつれて明らかになる。


 気配を掴ませないようにしているところなどは、ある程度の腕前であることは知れていた。


 明らかになった男の姿に思いの外驚かされたのは孝太郎である。


 隻腕、義足に痩せすぎとも見える身体もさることながら、男の着ているものは着流しであり、帯に履いているのはまごうかたなき日本刀であった。


「あいや失礼、中々の武威とお見受け致す。某≪それがし≫に一手御指南願えないだろうか?」


 腹の中に沸き立つものがあった。


 小さいけれども、消すことはできなかった孝太郎は、その申し出を受けた。


「修行中の身なれば、手合わせをお願いします」


「獲物は、これしかないのだが……」


 刀の柄を掌で押さえながら男は言った。


「構いません。私はこれで」


 孝太郎は、持った金剛杖を軽く掲げる。


「しからば、いざ」


 男は柄に手を掛ける。


 孝太郎は、左半身に構える。


 右差しの刀、左手のみの隻腕、右足は義足、情報としては頭に入れる。


 分析はするが、その結果は可能性の一部以上の意味を持たない。


 男は左足で踏み切ると、義足の右足を支点に前方へ倒れる様に孝太郎へ迫る。


 倒れながら身体を右に捻じりながらの抜刀からの切り上げ。


 鞘走り。


 抜刀の速度と斬撃の威力を上げる居合の技。


 孝太郎は、金剛杖の先端を小さく回し、斬撃を自身の右側へといなす。


 そのまま、杖の先端で男の胸の中央を軽く突く。


 男は完全に崩れた体勢を刀を咥え、鞘を杖代わりにしながら立て直す。


「某の体では、今のが最速でござる。流石に見切られました」


「いえいえ、その体であの速度が出せるのが凄いことでしょう」


「なんの、一度切り結べば体がどうのは言い訳になりませんからな」


 おそらく男は、この体になってからも修練を続け、今の抜刀を編み出したのであろう。


 常人であれば、避けられなくてもおかしくない。


「余り、お手を煩わせても申し訳ない。次を最後としましょう」


 と、正眼に構える。


 孝太郎は、構えを変えていない。


 男の一手は、上段からの斬撃。


 狙いは、右に構える孝太郎の左手のすぐ先の棍自体の切断だ。


 孝太郎は、それに応じて刃先が棍に触れる瞬間に棍自体を回転させながら腕と体で棍をわずかに引く。


 一つところを斬らせてもらえない刃先は弾かれるが、その瞬間、鋒≪きっさき≫は狙いすました様に孝太郎の左手の指へと向かう。


 孝太郎は、更に半足身体を引いてそれをかわす。


 剣先は狙いを外れ、完全に下を向いた。


 完全な隙だ。

 

 この機をのがさず、喉元への突きを放つ。


 いなすために剣先を跳ね上げるには、既に前へと体重が乗りすぎている。


 孝太郎の棍の先端が、喉の直前で止まる。


 手足が健常ならばどうだったであろうか。


 いや、益体もない。


 男は自らの思考を断ち切った。


「ま、まいった」


 そういうと刀を器用に収めると、正座して刀を鞘ごと自らの前に横向きに置くと、頭を下げた。


 土下座である。


「伏してお願い申し上げる。某は生国は違えども、サムライとして生きる者でござる。この刀という武器は、サムライの魂とも言うべき物、貴重な物であり、死した後はお館様に返さねばならぬ物でござる」


 男は地面に額を擦り付けたまま上げようともせずに続けた。


「某の身体は見ての通り、既に旅に耐えられるものではなく、刀を託せる御仁を探しており申した。何時になっても構いませぬ。必要ならば道中使っていただいても構いませぬ。どうか、お館様にこの刀をお届けくださる様、何卒、何卒お願い申し上げる」


 今日会ったばかりで顔立ちは西洋人ではあるものの、和服に似たスタイルと刀を使う侍という職業に望郷の念を揺さぶられる。


 それに届けると約束すれば、道中の使用が可能だ。


 更には、お館様とやらに会うことが出来れば刀の製法が解るかもしれない。


 様々な思いと打算が入り交じりながらも、元より否の返答を返すわけもない。


「面をお上げ下さい、喜んで託されましょう」


「おお、かたじけない」


「ご安堵なされますように、私の刀の使いようを見て頂こう」


「刀を使った事があるので?」


 男の疑問は、もっともであった。

 この世界には、サムライしか刀を使う者はいない。

 それほどに、貴重な武器であるから、お館様に返さなければならないのである。


 孝太郎は、左腰に刀を佩くと、鯉口を切って一気に中段へ切り出して見せた。

 居合いの抜刀である。

 抜いた刀をじっくりと見る。 

 刃には反りと波紋、鍔には透かし、柄には鮫と思われるの皮に編んだ紐が巻かれている。その間に隠れ見える翼竜の彫刻はナカゴの飾りであろう。

 紛う方なき日本刀だ。

 業物という程ではないが、数打ちのそれとは一線を画する出来であることは、孝太郎にも見て取れた。


 唐竹、袈裟懸け、横薙ぎ、更には突きを繰り出す。

 一呼吸の後に、鞘へと納める。


「いかがでしょう、ご安堵いただけましたか?」

「どうやら拙者は、これ以上無い御人に巡り会えたようだ。くれぐれもお願いいたします」

 流派は違うが見事な型を見て、男は心底の安堵の表情を浮かべるながらもどこか悲しげな笑みを浮かべた。


 その後は、衰弱激しい男を教会へと運びスリオラに看病を頼んだ。

 ここまで、随分と無理をして旅を続けてきたのであろうことは、異様な痩せ方からもうかがえる。

 体力さえ戻れば、お館様とやらまでの旅を一緒にするのもいいかもしれない。

 そう考える孝太郎の元へ、男が身罷ったとの知らせが来たのは、その三日後の事だった。

今まで3200文字程度を目安として、執筆の都度投稿してきましたが、

特に文字数に拘ること無く、話のキリのよい所までで投稿することにします。

今回は5000文字を超えましたが、3000文字より短いこともあると思います。

これによって、執筆速度が上がるということはないでしょうが、投稿頻度は上がるかもしれません。

拙作をご贔屓の皆様、今後ともよろしくお願いいたします。(新年の挨拶に換えて)

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