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第33話 赤と緑とコレクション

お待たせしました。

 最終日の早朝、相変わらず孝太郎はが火の晩をしている。


 東の空が白み始めた頃にクロノはもぞもぞと動き出した。


 腕輪の時計機能によれば、丁度4時になったところだ。


「おはようございまふ」


「ああ、おはよう。ちゃんと寝られたか?」


 過酷な環境でも、しっかり寝て疲労をとることができるのは、ある種の才能である。


「はい、ぐっすりと。一応センサー入ってるんで」


 クロノは左手の銀色の篭手をかざす。


「万能かよ。今日はまた一日行軍だ。朝飯喰ったら出発するぞ」


「解りました。朝食の準備をします」


「ああ、たのむ」


「ではコタローさん、赤と緑どっちにします?」


「は?」


 クロノはしてやったりという、いたずら小僧のような笑みを浮かべて孝太郎を見つめている。


「じゃあ緑で」


 何のことだか解らないまま、勘で答える孝太郎。


「わかりました。僕は赤にしますね」


 孝太郎は、水場へと向かうクロノを焚き火のそばから怪訝そうに見つめていた。


 しばらくの間、水場でなにやらごそごそとしていたクロノは、10分程で戻ってきた。


「お口に合うかどうかわかりませんが、携帯食料じゃないメニューを用意しました」


「へえ、それに赤と緑が関係あるのか?」


「ええ、なかなか貴重といってもいいメニューなんですが大サービスです」


 そういいながらクロノが差し出した器を見て、孝太郎の動きが止まる。


 差し出された器は発泡スチロール製で湯気が立っていた。


 そして、その器は確かに緑色で着色されており、ご丁寧にその上には木製のカトラリー≪割り箸≫が横たえられている。


「緑ですんで、そばです」


 見れば、クロノの反対の手には同じ器で赤く着色された器があった。


 元の世界では、超有名なインスタント麺、所謂カップ麺とよばれる物だ。


「まじか……」


 孝太郎は、両手で押し頂くように器を受け取ると、十分に香りを堪能したあと、一気に啜りはじめた。


 息つく間もなく最後のスープまで飲み干す。


「ぷはっ」


 食べ終えた孝太郎の目が潤み、鼻水が垂れかけていたのは、湯気のせいだけではないだろう。


 クロノは、呼吸を忘れるほどの勢いで完食した孝太郎を見て、満面の笑みを浮かべていた。


「ごちそうさまでした。で、聞いてもいいか?」


「はいどうぞ」


 未だクロノは、うどんをずるずると啜っている。


「これはどこから?」


 率直な疑問である。


「え?元いた日本から持ってきたものですけど?」


「いや、そうではなくて、どこから「出した」のかを聞いてる」


「あ、そういえば出発前に荷物の点検受けてましたっけ」


 クロノがしまったという表情を浮かべる。


「そうだ、その時は「こっち」の携行食糧以外なかったはずだ」


「れ…錬金術で作りm」


「嘘だな」


 間髪を入れないダウト宣言に、クロノは誤魔化しきれないと観念して口を開く。


「まあ、いいでしょう。実は、私は俗に言うアイテムボックスに相当する能力を持っています」


「なんだと……」


 アイテムボックス、インベントリ、収納ボックス、様々な呼び名はあるが、別の空間に物を自由に収納できるファンタジーやラノベの世界ではチート能力者ならば必ず持っていると言っても過言ではない、ある種ポピュラーな能力である。


「まあ、私の場合はチート的な能力ではなくて、種族特性みたいなものなんですがね」


「そんな種族は聞いたことがないぞ」


「そうでしょうね。創作のファンタジーに出てくるような種族じゃありませんから」


「クロノの種族は、みんなアイテムボックス持ちなのか?」


「そうですね。ただボックスの容量には個人差がありますし、種族を隠して生活している人が多いので、あまり知られてはいませんが」


「種族を隠す?」


「そうですね。ボックス持ちである以外に他のヒューマノイド種族と外見的な違いはありませんし、隠していた方が安全なんですよ」


「安全?」


「そうです。狙われるんですよボックス持ちは、他種族の身分証明さえあれば、宇宙港も税関もフリーパスですからね」


「密輸か」


「そうです。あとは非合法品の所持とかどうにでもなります」


「なるほどな」


 アイテムボックスの有用性はラノベをはじめとする創作物で疑うべくもない。


 そして、戦闘力を持たないアイテムボックスの能力者が権力者や裏社会から狙われるのは当然と言えた。


「昨日言っていたコレクションの解放とはこれのことか」


 確かにこの世界でカップ麺が食べられるのは、破格の報酬と言えた。


「え?何言ってるんです?これは食糧ですよ。食糧をコレクションって言わないでしょう?」


「他にも何か持ってきてるのか……」


「当然です。チラッと見せてあげましょう」


 フフンと鼻を鳴らしながら、クロノがアイテムボックスの入り口を開く。


 覗き込んだ孝太郎は、驚愕の表情を浮かべる。


「これか、コレクションというのは……」


「どうです?自慢のコレクションですよ?見えてるのは一部分ですしね」


「これが一部分か…… 素晴らしいっ! 素晴らしいぞっ!クロノとパーティーが組めることを、この世界の神に感謝したいぐらいだ」


 孝太郎の覗いた先には、書架にびっしりと納められた新旧入り交じったコミックとライトノベル、それに携帯ゲーム機のソフトがあった。


◇◇◇


 孝太郎にとって、この世界は、苦労せずに生きていける場所であった。


 合法的な戦いがあり、自分の技も通用する。


 苦しみながら他人と違う少年期を過ごした理由が見つかったかの様な感覚であった。


 歳をとってからは厳しいのかもしれないが、身体が思い通りに動くうちはこの世界で過ごすのもいいと思い始めていたところだ。


 無論帰ることが出来るという前提の上でだが。



 そんな孝太郎をして、この世界の一番の不満とも言うべき事項は娯楽が余りに少ないことだった。


 日が暮れてからの一般的な独身男性の娯楽と言えば、酒を飲むか、女を買うかぐらいである。


 どこかで博打的な催しもあるのかもしれない。

 

 しかし、孝太郎にはどれも無縁のものだった。


 正直、女性をお金で買う事については、興味がないわけではないが、日本における倫理観が一歩を踏み出させない状況だ。


 昼間にしても、芝居や音楽があるらしいが、どれも都市部の裕福層が相手であり、庶民が足繁く通うような場所ではなかった。


 庶民の間の芸術的な娯楽と言えば、せいぜいが旅の吟遊詩人の歌を聴く程度である。


 戦うこと以外で、刺激を受ける事が少なすぎるのだ。


 それ故に、孝太郎が「はい連打」と呼ぶような状況を自ら作り出していった背景は否定できないであろう。


 そんな孝太郎をして、大量のコミック、ライトノベル、携帯ゲームソフトなどは抗いようのない、極上の報酬となるであろう事は容易に想像できる。


◇◇◇


 宿営の撤収は、クロノがもうばれたからと、すべてをボックスに放り込むことで終わり、約半日をかけて商都まで徒歩で戻る。


 荷物もなく街道沿いでもあるため、昼前には商都に到着した。


 ギルドに報告をし、無事、孝太郎はCランクに、クロノはFランクとなったのである。


「どうする?PT登録もしておくか?」


 孝太郎が訪ねる。


「いえ、今はやめておきましょう。この後 孝太郎さんはカフェルへ戻られるのでしょう?」


「そうだな。拠点を商都に移すにしても、一旦は戻らないとだ」


「拠点の事はまた考えましょう。正直、要りませんしね。」


「それもそうか」


 冒険者の拠点は、生活の基盤を築く場所であり、数少ないとはいえ生活に必要な物資や予備の装備を保管する場所である。


 パーティーとして行動するのであれば、総ての物資を持ち運べる以上、取り立てて拠点を決める必要もないのだった。


「孝太郎さんは、カフェルの街で待っていてくれませんか?私は幾つかランク上げてから向かいます」


「カフェルで待ってろってことか」


「はい。大体1~2ヶ月ぐらい見てください。あと、その間にお願いしたい事が……」


 その後、一言二言を交わすと孝太郎は振り返る事もなく、ギルドを出て行った。


 二人は、カフェルの街での再会を目指し、今は一旦それぞれの道へと戻ったのだ。


 孝太郎は、宿の荷物をまとめて、早々にカフェルへ戻るであろう。


 クロノはと言えば、そのままギルドで幾つか初心者向けの依頼を受け、同様にギルドを足早に出て行ったのだった。

相変わらずの更新ペースで申し訳なく思っております。

ペースを上げたい意識はあるのですが、なかなか文章ができあがってくれません。


相も変わらずプロットはあるが、ストックはありません。

3000文字ぐらい貯まったら上げます。


ブックマークとかすると更新速度が上がるかもしれません

モチベーションが上がります

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