第32話 契約と評価
遅くなりました。
「パーティーメンバーには、私のコレクションの解放を約束しますっ」
拳を握り、空を睨んでクロノが宣言する。
「誰に向けての宣言だよ。いや、コレクションはいいんだけど、どうしてそこまでリーダーに拘るんだ?」
パーティーを組むことは決まった、具体的な行動方針が未設定だとはいえ、対外的に孝太郎がリーダーであった方が何かと都合がいいであろうことは想像に難くない。
「はい、非常に言いにくい事ではあるのですが、オーバテクノロジーを持つ身としては、何時如何なる場合も自主裁量権を手放す訳にはいかないのです」
「オーバーテクノジーの秘匿が何よりも優先されるということか?」
「そうです。例えば、私達のパーティーが全滅の危機に遭ったとしても、その時はコタローさんを見捨ててでもオーバーテクノジーを隠蔽しなければななりません」
「それは、そうなるか。仕方ないな」
クロノにしてみれば、言い方を誤っただけでも相手が激怒するかもしれない内容の告白に、高所に張られた綱を渡るような心境で真実を話したのだが、クロノの心配を余所に、孝太郎はさらりとそれを肯定した。
一般の冒険者ならば、何のためのパーティーかと怒り狂う場面であろう。
しかし、孝太郎は幼い頃から「忍者流」の考え方を刷り込まれていた。
「忍者流」では、誰かが危機に陥っても任務が優先されるし、同時に秘密の隠蔽も同様に優先される。
そこに存在してはいけない様な特殊な任務の時には尚更である。
孝太郎は、クロノの帯びた任務が、そういった特殊な任務であるのだと理解した。
同時に、協力の方法も「忍者流」であれば良いことにも思い至る。
「話が早くて、助かります」
「リーダーに拘る理由は解った。だがデメリットも多い、覚悟だけは必要だぞ」
「そうでしょうね」
クロノもデメリットが多い事は予想していた。
特にパーティーとしての交渉などでは、見た目が幼いだけで大きなマイナスである。
仮に高い実力を持っていても、侮られる事が多い。
侮られる事によって、恫喝や脅迫などの手段に訴えられる場面も格段に多くなる事が予想される。
しかし、そのデメリットを被ってでも尚、自主裁量を手放す場面を作る事は避けたいと考えての提案であった。
「覚悟があるのならば、それでいい。できる限りのサポートはしてやる」
「え?いいんですか?随分あっさりしてますね」
「いいよ。基本、俺は『はい』連打だからな。策を巡らす場面はクロノに任せた」
「は?『はい』連打?」
「ああ、仕事を選ぶ気はなかったし、提案されれば全部それを受けてきた」
「えええ?それって、なんというか忍びの掟の下忍の話みたいな」
「そのとおりだ。そもそも条件を気にするような仕事が平成の世の忍者に回ってくると思うか?」
「平成に忍者がいた事が一番の驚きです。そんな影の秘密結社があるんですね」
「まあな、そのうち話すこともあるだろう。それと『はい』連打ってのも捨てたもんじゃないぞ。RPGとかでストーリー進めようと思ったら、どうしますか?の『はい』と『いいえ』は基本『はい』押しときゃ早く進むじゃないか。それと一緒さ」
「いやいやいや、自分の命とか掛かってるんですよ?」
「だ・か・ら、掛かってないような仕事は来ないんだって」
「いやー、ダメですね。あなたの為にもリーダーは絶対に私がやりますっ」
「だから、それで良いって言ってるじゃないか」
「もう、なんだか一番組んじゃいけない人と組んじゃった気がしてきましたよ……」
既に、二人の話は深夜にまで及んでおり、孝太郎はクロノに仮眠を促すと見張りと焚き火の番をして朝まで過ごした。
翌日は、まだ薄暗いうちに起きると、味気ない携帯食料の朝食を済ませて、魔物の出るポイントまで移動する。
「この辺りでいいか。荷物はこのへんに隠しておこう」
「はい」
街道と森の境界にある切り株の裏側へ、荷物を置き、草を被せておく。
どのみち、昨日の夜営ポイントまで戻るつもりでいる。
二人の荷物から、携行食糧などの当面必要と思われる分を小分けにして、一つにまとめると、孝太郎の持つ金剛杖に括る。
孝太郎が先導して、森へ踏み入る。
鬱蒼と茂る森は、日が出ているとはいえ、場所によっては物が見えづらい程度には暗い。
さほど奥まで入って言いない場所で、先に3体のゴブリンがいるのが目にとまる。
「いたぞ」
クロノも確認できたようだ。
「3体いけるか?」
一応、聞いてみる。
戦闘に自信があるのか、必要以上に緊張していないか確認するためだ。
「いえ、最初なんで1体からお願いします」
冷静かつ奢りもないようである。
状況によっては、2体以上との戦闘も経験させることができる。
「わかった。じゃあ両脇の2体は俺が引き受けよう」
孝太郎はそのまま、何事もなかったかのように進んでいく。
クロノはそれについて行く。
「ギャギャッ」
孝太郎たちの接近に気づいたゴブリンは一斉に襲いかかってきた。
手はそれぞれ、粗末な棍棒が握られている。
一斉に振り下ろされる棍棒を、孝太郎は軽やかにサイドステップで回避した。
その後、バックステップで大きく後退する。
位置的には、ゴブリンと孝太郎の間にクロノが立っている形となる。
3体のゴブリンは目標を変えて、クロノへと殺到する。
「え?1体ってぇぇぇぇっ」
短剣を構えるクロノは、回避行動をとろうとする。
それを制するように孝太郎が言葉を発する。
「真ん中よろしく」
その途端に両脇の2体のゴブリンは、眉間から飛苦無を生やして崩れ落ちた。
クロノは逃げようとして泳いだ体勢を、無理矢理に捻ってゴブリンの棍棒を躱す。
その捻りを戻す勢いを利用して、地面を打った棍棒を持つ手首に短剣の斬撃を放つ。
何の抵抗も感じずに、ゴブリンの手首から先は切り落とされた。
驚愕に目を見開いて固まるゴブリンの顔面に、クロノの短剣が突き刺さった。
「おお、いけるね」
素直に感想を伝える孝太郎。
刃を抜いたときに血が吹き出るのを嫌って、顔面へ刺突で止めを刺したのだと解る。
「3体が向かってきた時は、どうしようかと思いましたけどね」
「いやいや、1体って言ったじゃないか」
先に倒れたゴブリンから、飛苦無を回収しながら孝太郎が答える。
「はいはい、そうですか」
昨夜の「はい」連打宣言と、瞬時に寸分の狂いもなく同時に2体のゴブリンの眉間を打ち抜く戦闘技能が入り交じり、クロノの中での孝太郎の評価は複雑なことになっていた。
「次は2体でいってみるか」
「わかりました」
そうして、先ほどと同様にゴブリンに先制させるように3体のゴブリンを釣り出した孝太郎は、右の1体を仕留め、クロノに相手をさせる。
はたして、クロノは危なげなく2体のゴブリンを捌いてみせた。
その後も、同様に3体~5体のゴブリンをクロノに相手をさせる。
「3体がギリってとこだな。4体目からは途端に危なっかしい感じになる」
「そうですね。4体いると視界で捉えきれない奴が出てきます」
孝太郎は、クロノの戦闘能力について、初心者ハンターとして十分にやっていけると判断していた。
その上で必要だと思えるアドバイスを与える。
「そうだな。こればっかりは慣れるしかない。無理せず増やしていけばいいよ」
「えーと、増やさないとダメなんですかね?」
「あ、ダメじゃないか。でも、同時戦闘能力は高い方が生き残る確率が上がるよ」
「いや、そうならない様にする方が大事じゃないですか?」
「うーん、ならないに越したことはないけど、なっちゃう時はなっちゃうからね」
「ちなみに、コタローさんなら何体いけます?」
「ここのゴブリンでって話なら、初手なら12体までなら5秒ってとこかな」
「じ……じゅうn?」
「手持ちの飛苦無で5体、切り込んで7体ってとこだろ」
ここに至ってクロノは、孝太郎の戦闘能力は高いが、本人の自己評価が低いのだということに気付いた。
戦闘能力が高いが故に、「はい」連打でもやってこれていおり、自己評価が低いが故に、自分の出来ることは他の人も頑張ればできると考えている。
何かの時には、単騎無策で放り出しても大丈夫なメンバーである。
しかし、パーティーで行動するときは、しっかりとした作戦を立てる事を誓ったクロノであった。
巻き込まれないために。
やっと主要キャラが出てきました。
この辺から展開早くしたいんですが、ついクドクド書いちゃうんですよねぇ。




