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第31話 クロノの事情

「どうしてこうなった?」


 ハンターランクの昇格テスト中に、初心者に武器について尋ねたら、世界が崩壊する話になっていた。


 世界が崩壊するのを止める協力者になって欲しいということだ。


 契約して魔法使いになる以上の衝撃だ。


「この世界が崩壊すると聞いては、見過ごすという選択肢はないだろうな」


 この世界の成り立ちについての知識はない。


 しかし、知らないからと言って世界が崩壊してもいいとは考えられない程度には、この世界で暮らす人々を孝太郎は好きになっていた。


 例えそれが、自分が元の世界に帰った後だったとしてもだ。


「では、協力者になっていただけるのですね!?」


「クロノが言っていることが嘘でない限りはな。で、協力者といっても何をすればいいんだ?」


「ありがとうございます。当面は、経済基盤の確立が急務ですので、固定パーティーを組んでハンターランクを上げる必要があると考えます」


「なるほどな、そこは利害が一致しているので問題ないだろう。あとは、日本人と知って切り出した理由を教えてもらおうか」


 現在の孝太郎の最大の関心事であった。

「その前に、私が何者かをお答えする必要がありますね。コタローさんは、どうしてこの世界に?」

「正直、自分でもよくわかっていないんだが、おそらくは召喚に巻き込まれたってとこなんだと思う」

「ふむふむ、では『事故転移』というわけですね」

「そうだな。事故だといえるだろう」

「この世界に来る日本人がいるとすれば、恐らく「召喚」、「転生」それに事故を含む「転移」あたりの方法しかないと予想されます」

「まあ、そうだろうな」

「ただ私の場合は、その何≪いず≫れでもない方法でこの世界に来ました」

「え?クロノはこの世界の生まれではないのか!?」

「違いますよ。とある組織によって、この地に送り込まれたと言ったじゃないですか」

「なるほどな。この地とは国ではなく世界だったか」

「そのとおりです。そして私がここへ来た方法とは、通常航法とワープ航法を繰り返してやってきました」

「な!……」

「分かり易く言うと、ファンタジー世界に転移してしまったコタローさんの目の前にいる私はSF世界の住人だということです」


「……」


 あまりに予想外の展開に孝太郎は絶句する。


 絶句しながらも、孝太郎の思考はとどまらない。


 今後の危険と今まで取られた言質を天秤にかけながら、今後の展開を予想する。


 そして、孝太郎の脳裏に一つの可能性が浮かび上がる。


 そして、クロノはその可能性の先を示した。


「ですので『事故転移者』であるコタローさんを救助して日本へ連れ帰ることが可能です」

「か、帰れるのかっ?!」

「ええ、勿論。ただし、世界の崩壊を防いだ後になりますが」


 孝太郎は、正直なところ、この世界で生きていくのも良いかもしれないと思っていた。


 いや、今も思っている。


 しかし、帰る方法があるのとないのでは、心の余裕が全く違ってくる。


「そうか、わかった。喜んで世界崩壊阻止の手伝いをさせてもらおう」


 そうなれば、一も二もなく引き受けるのも当然である。


「いやー、よかった。ありがとうございます。これで最大の障害が取り除かれました」


「最大の障害?」


「はい、私を送り込んだとある組織のルールで「現地人に対して過剰なテクノロジーの公開を禁ずる」というのがあるんですよ」


「あぁ、内政チート的なやつか?」


「そうですね。現地協力者といえどもオーバーテクノロジーは公開できない決まりなんですよ」


「しかし『日本人は現地人ではない』と」


「そのとおりです。基本的には要救助者なので、こちらのテクノロジーを非公開のまま救助することは不可能ですからね」


「なるほどな」


「当面必要な物として、これをお渡ししておきます」


 どこから取り出したのか、クロノは一つの腕輪を差し出した。


 銀色の金属製の腕輪である。


 特別な品物には見えない。


 こちらの世界でも普通にありそうな銀製の腕輪に見える。


「この腕輪は、時計と通信機能を内蔵しています」


「おおっ!」


 この世界にも時間の概念はあるが、それを計測する必要がないため、一般市民は大体の時間感覚で行動している。


「この世界の一日は、地球の24時間より少し長いんですが、それを補正して24等分した時間を1時間として表示してます」


「通信機能は、電波による無線通信機能です。私しか登録されていないので、私としか話せません」


「まあ、そうだろうな」


「あとはGPS的な機能ががありますが、コタローさんの位置が私に判るだけです」


「他にもいくつか機能はありますが、使わないと思いますので、使うときになったらお教えします」


「わかった。あと、コタローはこっちでの名だ。というか、コタローと名乗った覚えはないんだが、発音しづらいのかギルドでもコタローで登録されている。『真田孝太郎』だ、改めてよろしくな」


「はい、私はクローノ・エス・フォーゼといいます。よろしく願いします」


 お互いの命運をお互いが握り合う事になる重い握手を、そうとは知らず二人は軽く交わした。


「それで、幾つか質問があるが、いいか?」


「かまいません。お答えできる範囲という事になりますが」


「まずは世界の崩壊についてだ」


 一番重要度が高く、自分の危険に直結する事項だ。


 理由も解らず協力するのでは、相手を信頼することは難しい。

 

「まあそうでしょうね」


 クロノとっては、予想通りの質問であった。


「世界の崩壊はすでに予兆があって、私たちの組織はそれを観測する手段を持っています。それで私がこの地へ派遣された訳です」


「タイムリミットはあるのか?」


「あります。今のまま放置すれば、この星が崩壊するのは……」


「……」


「200年後です」


「は?」


「あ、遙か未来の話だと思っていますね?」


「そうだな」


「何を言ってるんですか。今は日本人という望外の協力者を得てかなりの時間短縮が見込めますが、現地のテクノロジーに合わせて星の調査なんか200年あっても足りないぐらいですよ。この大陸ひとつ調査するのでも何十年もかかりますよ!」


「そうか、移動に時間がかかるのか」


「そうですよ。転移魔法とかあればまだ楽でしょうけど、なかったら頑張って馬車ですからね」


 馬の速度は思ったよりも遅い。


 早馬ならば別だが、1頭の馬に乗っての移動速度となれば徒歩とそう変わるものではない。


 休憩も必要だし、食事の心配もしなければならない。


 一般には、一度に運べる荷物が増えるという利点で馬を使うのである。


「なるほどな」


「通信機能を使って、調査すれば単純計算で半分の時間で済みます」


「それでも100年か。そんなに生きる自信がないんだが……」


「そこは大丈夫です。情報を集めるための組織も作れるでしょうし、現段階では更に半分程度には短縮できると思います」


「それでも50年か…… 長い話だな。50年後に帰る意味はあるのか疑問もあるが」


 もっともな話である。


「大丈夫です、私も早く日本へ帰りたいですしね。なるはやってことで」


「ははっ、久々に聞いたな。なるはやって」


 思わず孝太郎から笑みがこぼれる。


「では今後は、パーティーを組んでハンターとして行動でいいですね?」


「ああ、構わない」


「では、パーティーのリーダーは私で構いませんか?」


「残念だが、それは無理だ。実質的には世界崩壊の阻止を目標にするんだから、それで構わないが、戦闘指揮までは渡せない。」


 孝太郎は、パーティーを組むのであればリーダーは自分だと思っていた。 


 戦闘能力の低い者にリーダーを任せるのは危険であるし、そもそも孝太郎はクロノの戦闘能力を知りもしない。


 それに加えて、見た目が子供である。


「確かに現時点での戦闘能力は低いのは認めますが、戦闘間の指示には従いますよ?」


「それでもだ。戦力の分析と可能行動を踏まえた方針の立案という点で、不安がある」


「方針は必ず相談しますし、戦力の分析とかは「こいつ」がやってくれます」


 クロノは銀色の篭手の填まった左腕を掲げる。


「そいつは?」


「通信機能がついてますからね。衛星軌道で待機している船の演算能力がそのまま使えます」


「ほんとにSF世界の住人なんだな……」


「それに、私がリーダーになればコタローさんにも「いいこと」がありますっ!」


 何かを閃いたのか、クロノの口調が高く強いものに変わる。


「いいこと?」


「そうです。私がリーダーになったアカツキには、パーティーメンバーへの娯楽の提供をお約束しますっ!」


「なんだか選挙演説みたいになってきてるぞ……」


 リーダーに拘り、様々な手段で交渉をもちかけるクロノに、そこはかとない不安を感じる孝太郎であった。

身の回りもほぼ落ち着きましたので、更新ペースを元に戻したいと思っております。

楽しみにしてくださっている方もいると信じて!

「プロットはあるけどストックはない」ので 書いて出しになってしまいますが。

ストックしながら 定期的に上げるのならば できた端から上げてしまった方がいいのかなと。

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