第30話 指導力テスト
間が随分と開いてしまいました。申し訳ありません。
大丈夫、エタってませんよ。
次回は比較的(?)早く投稿できそうな気がします。
「初心者をダンジョンに連れて行くなんて、考えられません」
「この辺りで新人研修と言えば、ゴブリンの出る森が一般的だぞ」
「ああ、そうなのか。なら、そこにしようか」
「そうしとけ。馬車なら一日、徒歩でも2日の距離で、商都と王都の間の街道沿いだ。そこにしとけ。特に今回は、メンタークエストというよりは子守クエストみたいだからな」
先程まで、同行する気満々だったカッファの態度は、クロノの姿を見た事によって、既に巻き込まれない方向へとシフトしていた。
「そうするよ。情報ありがとう。食料と水の確保と夜の見張りをレクチャーして、あとゴブリンとの戦闘を経験させるぐらいでいいだろう」
「そうだな」
「問題ないと思います」
カッファと受付嬢の同意を得られた事で、指導の内容を決めた孝太郎は、現地の偵察に出発した。
夜営に適した空き地を中心に見て回り、件の森の中を駆け回って魔物の分布と植生を頭に入れる。
強力な魔物でもいれば、間引くつもりであったが、ゴブリン以外には狼型の魔物を見かけた程度で間引く必要があるほど危険な存在は確認できなかった。
メンターとして指導される側であるクロノに迷惑をかけることはないはずだと判断できるまで、下見と偵察を繰り返した孝太郎は商都へと戻った。
翌朝、孝太郎がギルドへ到着すると、随分と余裕を持って到着したはずの孝太郎よりも早く到着したクロノに出迎えられた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「おはよう、よろしくな」
孝太郎はクロノの準備状況を、確認することにした。
「まずは、買ってきた物を見せて貰おうか」
「はい、毛布と蝋引きの布、携帯食料と水です」
「テントは買わなかったのか?」
「テントを買うと、毛布や食料が買えなくなってしまうのでやめました。その代わり水と食料は余分に持ってきました」
「良い判断だ」
「ありがとうございます」
こうして、孝太郎の第3次テストと新人ハンタークロノの新人研修が始まった。
一日目の行程は、商都から近い街道を進んでいることもあり、魔物との遭遇もなく過ぎていった。
やることといえば、荷物を背負っての行軍だけである。
クロノは、その小さい体に似合わず体力があるようで、孝太郎と同じペースで歩くことが出来ていた。
当然、孝太郎も手加減はしているが、着いていくクロノの行軍も堂に入ったもので、一定のペースを保ち乱れない。
休憩するときも、周囲の警戒をしながらも足と靴のケアを欠かさない。
それを見た孝太郎は、見かけは子供だが、クロノが何かしらの訓練を受けた事があると判断した。
軍かそれに準ずる組織での訓練だとすれば、この世界では騎士団あたりになるだろうか。
他にもクロノの動きをを見て、色々と考えを巡らせる。
試験の結果もさることながら、ここで与えるアドバイスや教訓がクロノのハンターとしての成長や生き死にに関わって来るのだから、真剣にならざるをえない。
とはいえ、体躯のサイズはいかんともしがたい。
見かけよりは体力もあるようだが、大人と比べれば、どうしても劣る。
経験と質の良い武装で補うしかないだろう。
孝太郎の武装は、長苦無と飛苦無と金剛杖に手甲と脛甲と大抵の間合いで戦えるように準備をしている。
対して、クロノの武器は普段使いの短剣、というよりはダガーに近いものが一振だけ。
防具に至っては、普段着に左手に着けられた篭手のみである。
武器については、体格的にあまり大きな武器は取り回せないであろうから、それはそれで正解なのだろうがハンターとしてやっていくことを考えると些か心許ない。
遠距離用の武器があると、戦略にも幅ができるだろう。
観察と対策の思案を繰り返すうちに、1日目の宿営場所に到着した。
まだ、日も十分に高い。
そこで、昼間と夜間の見張りの要領をレクチャーして、宿営の準備をする。
これもレクチャーだ。
といっても、焚火を焚き、携帯食料を食べて、毛布に包まって寝るだけである。
焚火の番と夜間の監視法についてレクチャーしながら、孝太郎は、クロノの武器について聞いてみた。
「見たところ、武器はその短剣だけか?遠間の武器とかがあるといいと思うんだが」
「今のところは、これだけですね。他の武器はなんだか頼りなくて」
「頼りない?何か特別な効果があるのか」
「えーと、それは……」
言いよどむクロノ。
「あぁ、何か特別な言われがあるのであれば言わなくていい。ハンターは事情がある奴も多いからな」
「はい。でも、条件次第ではお教えできます」
「条件?」
「はい、よろしければコタローさんの武器を見せていただけますか?」
「ああ、かまわないぞ」
孝太郎は長苦無の一振りを鞘から抜いてクロノに渡す
黒鉄で作られた鴉だ
「へえ、変わった武器ですね」
こちらの世界の武器ではない上に、元の世界でも創作系の作品に出てくる程度の武器なのだから、その反応はもっともだ。
「ああ、長苦無という」
「長苦無……ですか。銘とかあるんですか」
「そいつは『鴉』だ。こっちが『鵲』」
「カラス……やはり、牙の方の字ですか?」
「ああ、そう……」
「やっばり、浪漫武器といい、漢字の銘といい、確信が持てました」
「『コタローさん、日本人ですよね?』」
日本語だった。
久しぶりに聞く日本語は、孝太郎に想像以上の心理的衝撃を与える。
知らず知らず、目から熱いものが流れ出ていた。
「きさま、何者だ!?」
孝太郎は、跳び退がって距離をとるが、目からは熱いものが未だ流れ出ている。
「警戒させてしまったのなら、謝ります。取り敢えず敵意はありません」
「何者かと聞いている」
「説明には時間がかかります。それに今は全部をお話しする訳にはいきません。それで良ければお話しします」
「……」
「わかりました。まずは私の武器からお見せしましょう」
クロノは、短剣を抜くと焚き木の一本を左手に持ち、そのまま切りつける。
とすりと音を立てて、半分になった焚き木が地面に落ちた。
技や力ではない。
速度でもない。
純然とした、武器の斬れ味のみで分断されたのだ。
「これが、これからお話しする内容の証拠の一部だと思ってください」
「解った」
それ程の斬れ味の武器を持つからには、庶民の出身とは考えづらい。
何某かの謂われのある武器であり、それを所持する人物もただの駆け出しハンターというわけではないということだ。
「では、どこから話しましょうか。あ、疑問があったら遠慮なく聞いて下さいね」
孝太郎は肯首するしかなかった。
「私は、とある組織から、とある任務を帯びてこの地へやって来た者です」
「組織と任務について聞いても、今は答えられない……か?」
「はい、申し訳ありませんがそのとおりです。それで、この地での生活の基盤を築くためにハンターになったわけです」
「なるほどな」
「お気づきだとは思いますが、とある組織によって一通りの訓練は受けています」
「その訓練は、戦闘も含めてということか?」
「そうですね」
「ギルドで年齢をどう誤魔化した?」
「誤魔化してはいませんよ。私は長命種ですから。おっと、これは話さない方が良かったかな」
「エルフの血でも混ざっているのか?」
見た目はどう見ても人間の子供であり、エルフの身体的特徴は見受けられない。
「いいえ、全く別の種族です。これも、今は詳しくは言えませんが」
「それで?」
「以上です」
「まてまて、謎の種族で、とある組織によって、とある任務のために送り込まれたことしか解ってないぞ」
「そうですが?」
「な に も わ か っ て な い、ことがわかっているか?」
「お話しできることが少なくて、申し訳ありません。何も解っていないことを承知で申し上げますが、私の協力者になっていただけませんか?」
「は?何を言っているか、解っているのか?」
「協力者になっていただけるのなら、お話できる事も増えるのですが」
「任務の内容も解らないのに協力できる訳がないだろう。国家の転覆とか貴族の暗殺とかだったら面倒くさいじゃないか」
「できないじゃなくて、面倒くさいと言うところに益々好感が持てますが、基本的にはこの世を救うための任務です」
「ああ~、一番信用したらダメな奴じゃないか。救世救民≪ぐぜきゅうみん≫なんてのは」
「いえいえ、既存のものをぶっ壊そうというわけではなく、崩壊の危機にある世界の崩壊を止めようというもので、特に救民は考えていません」
「世界の崩壊を止める?この世界は崩壊の危機にあると?」
「今すぐというわけではありませんが、放置すればほぼ確実に」
「マジか……」
風雲急を告げる展開
次回クロノの事情が明らかになる のか?




