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第21話 到着

 突き、打ち、薙ぎ、投擲、引き戻し、運足、その総てを限界に近い速度で繰り返す。


 そしてそれは、今までとは比べ物にならない速度で孝太郎を疲弊させていく。


 どれ程の時間続けられるのかは、本人にも解っていない。


 孝太郎の全力での殲滅をもってしても、ゴブリンの数は増えていく。


 更に追い討ちをかけるかのように、2体のオーガが大穴の縁から攀じ登り出る。


 孝太郎を見据え、雄叫びを上げる2体のオーガ。


 同時に、その頭上を越えて落下してきたのは2本の巨大な棍棒。


 何体かのゴブリンが巻き添えとなって潰されたが、当然オーガは気にも掛けない。


 その棍棒を拾い上げるオーガ、その標的は勿論孝太郎である。


 孝太郎の胴回りよりも太い棍棒の上段からの叩きつけを躱す。


 巻き込まれたゴブリン数体が戦闘不能となる。


 長苦無による斬撃で攻撃しつつも、棍棒の攻撃に巻き込むために、ゴブリンとの間合いを短く保つ。


 ここに至って、孝太郎の動きは目に見えて悪くなる。


 確かに疲労も原因の一つではあるが、一番の原因はオーガの棍撃である。


 孝太郎は武具を着けておらず、これまでの防御は回避一辺倒である。


 これは素手のゴブリンの攻撃力が低い事が前提となっている。


 少々掠っても問題ない状態であったからこそ、ギリギリで躱すことができていたのである。


 しかし、オーガの棍棒は直撃すれば重傷は避けられず、掠っただけでも相当なダメージが予想される。


 いつ来るか分からない棍棒の直撃を避けるためには、二手先の攻撃を躱すための空間を確保しながら躱す必要があり、自ずと全ての攻撃を大きく躱すことになる。


 出来ることであれば、オーガを先に始末したいが、その周囲にはゴブリンが犇めいており、1体を攻撃している間に取り囲まれ、2体目に良いように攻撃されるのは目に見えている。


 「ジリ貧」そんな言葉が脳裏を過る。


 カシッという発射音とともに目の前のゴブリンがこめかみを射抜かれ真横へと倒れた。


 ボルトの発射地点には、クロスボウを構える「創造の槌」のレンジャー、フェルの姿があった。


「待たせたねっ!」


「うおぉぉぉりゃぁぁぁっ!」


 雄叫びを上げながら、目の前に躍り出たのはボクソン。


 少し離れた場所で、戦列から離れ気味のゴブリンを二人の連携で軽やかに狩るのは「ウィンディア」のリーナとラナだ。


 そして駆けつけた者達の武器がうっすらと光を放つ。


「おおっ!ブレスドウェポンかっ!」


 なおもゴブリンを薙ぎ倒しながらのボクソンの問いに肯首で答えたのは神官にしてエルフのスリオラであった。


「戦線の維持はボクソンに任せて、一旦お退きください」


 そう言うスリオラの手にはボクソンの用意した布の包みがあった。


「ご注文になっていた防具だそうです」


 それを聞いた孝太郎は、一も二もなくゴブリン達から大きく距離をとる。


「暫くはお任せを。それと、こちらをどうぞ」


 スリオラは食料の入った皮の袋を渡すと、メイスを構えてゴブリンに向き合う。


 神官服にブレストプレートと革製の手袋というアンバランスな出で立ちを見た孝太郎は、スリオラ達が大急ぎで出発してきたことを悟った。


「ありがとう、スリオラ」


 礼を言いながらも手はボクソンからの包を拡げる。


 鎖帷子、小手、脛当て、鉢金に剣帯までが入っていた。


 急ぎ作務衣の上衣を脱いで、鎖帷子を着込む。


 作法的には素肌に着込むのだろうが、ナノチューブ製の合成繊維のシャツの上である。


 注文どおり目も細かく、質の高さが窺われる鎖帷子は、黒く見た目よりも軽かった。


「玄鉄製か……」


 感慨に浸る暇がないことを思い出し、上衣に袖を通して、脛当てと小手を装着する。


 次は腹ごしらえと、食料の袋からパンと干し肉、それに塩球しおだまと呼ばれる岩塩を丸く削ったものをローテーションで口に運びながら、水筒の水で流し込む。


 干し肉を咀嚼しながら鉢金を装着し、頭の後ろで止め紐を結ぶ。


 防具の着け心地を確認するように腕と脚を屈伸し、頭を左右に振って鉢金がずれないか確認する。


「防御力も確認しておきたいが、そうも言ってられないか」


 問題はない。


「よし!準備完了!スリオラ、出るぞ!」


 それを聞いたスリオラは一瞬の瞑想の後、孝太郎に向かい両手を突き出す。


「ブレスドウェポン!」


 神官の使う付与魔法エンチャントで、祝福ブレスによって攻撃力を上げる効果がある魔法を受けて、鴉と鵲がうっすらと光を放ち始めた。


 孝太郎は鴉と鵲を逆手に構え、上体を屈めて疾走する。


 その初撃は正拳突き。


 指の第2関節まで保護された小手での殴り具合を確認する。


「いけるね」


 長苦無の柄を握り込んだ状態での正拳突きは、ゴブリンの鼻梁を叩き潰し、頭蓋へめり込む。


 ゴブリンが繰り出す引っ掻くような攻撃を、敢えて二の腕部分で受ける。


 小手の表面に微かに傷がつく。


 ダメージはない。


「いいね」


 正面からの貫手のような攻撃を鉢金の額の部分で受け、頭頂部へと受け流す。


 必然的に無防備な状態で晒されるゴブリンの腹に鴉を突き立てる。


「よし」


 最後に点検するのは脛当て。


 小手と同様に足の甲までを保護するように作られている。


 ハイキックを試したかったがゴブリンでは身長が足らない。


 膝の高さから伸びて、折りたたむように戻す体重の乗った右のミドルキックは、向かってきたゴブリンの側頭部にキレイに決まり、ゴブリンはその場に崩れるように倒れた。


 孝太郎は満足気な笑みを浮かべる。


「ボクソン!いい防具だ!これならいける、オーガを片付ける!」


 ボクソンは耳を疑いながらも、群がるゴブリンに孝太郎を注視する余裕はなかった。


 オーガの周りはゴブリンが犇めいている、それをどう倒すというのか。


 オーガの棍棒の間合いに切り込んでいく孝太郎。


 上段から棍棒が振り下ろされる。


 孝太郎は、左の小手に右の鵲を添わせ、両の長苦無で棍棒を受ける。


 その瞬間を目撃していたフェルとスリオラの動きが止まる。


 直撃コースだ、あの勢いを受け止められるわけがない。


 破砕音を残し、数体のゴブリンを巻き込んで棍棒は地面へと到達する。


 その棍棒に長苦無を添えるようにしゃがみ込む孝太郎の姿があった。


 棍棒を長苦無で受けた瞬間、角度を変えて受け流しながら潜り込むように回避したのだが、一部始終を見ていたはずのフェルとスリオラですら、何が起きたか解っていない様子である。


 オーガが棍棒を引き上げるより、その腕に沿って鵲の突きを入れる。


 脇から肩へと抜ける軌道だ。


 引き抜きざまに、鴉がオーガの手首に吸い込まれるように刺さる。


 そこだけがゴブリンがいない場所である、痛みと怒りに雄叫びを上げるオーガの股下を転がるように潜り抜け、鴉で周囲のゴブリンを払うように切りつけると、後ろ手に鵲をオーガの膝裏へと突き立てる。


 突き立てた鵲を残し、更に半歩踏み込んで再度周囲のゴブリンを横薙ぎに斬りつける。


 十分な空間を確保することに成功した孝太郎は、その場で跳躍し、膝裏に刺さったままの鵲の柄にむかいソバットを叩き込む。


 膝を貫かれ、前のめりにしゃがみ込むオーガ。


 その背中を駆け上がるように跳躍した孝太郎は、頚椎と頭蓋の間を狙って鴉を叩きつけるように突き刺す。


 瞬時に絶命したオーガは前のめりに倒れた。


 その背中に立つ孝太郎は、オーガの身体を渡るように駆け、膝裏に刺さっている鵲を引き抜いた。


 そのまま、周囲のゴブリンを切り払いながら残る1体のオーガへと肉迫していく。


 迎撃とばかりに、オーガの棍棒が振り下ろされる。


 直前で急制動をかけた孝太郎の目の前を棍棒が通過して地面を打つ。


 その握られた手を蹴って跳躍し、右手に持ち替えられた鴉を顔面に向かい伸び上がるように突きを放つ。


 その突きは、右目を貫き、鵲と鴉のリーチの差によってそのきっさきは脳にまで達する。


 倒れるオーガの身体を蹴って、振り下ろさたままの棍棒の上へと着地する。


「1体だけならどうにでもなるんだって」


 取り囲むように群がるゴブリンを殴り、蹴り、斬り付ける。


 その合間に紐付きの飛苦無を突き立てる。


 2体のオーガを始末した事と防具で攻撃を受けることができるようになった事で、孝太郎の殲滅速度は尋常ではないものになっていた。


「ははっ、なんだいありゃ。やばいったらないね!私達も負けてらんないよっ!」


 弩の間合いにいることで、一部始終を見届けることができたフェルが叫ぶように周囲を鼓舞する。


 一部だけしか見ることができなかったリーナとラナですら、絶望的な数の差も孝太郎がいれば何とかなるのではないかと思い始めていた。

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