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第20話 死線

 気付けば、スロープの上段まで1体のオーガが登ってきていた。


 しかし、飛礫つぶてを投げてもダメージが与えられる距離ではない。


 飛苦無ならば致命傷を与えることもできるかもしれないが、回収が不可能になる。


 先が見えない状態で、1本とはいえ飛苦無を失うのは避けたい。


 オーガ自体が攻撃を仕掛けてくるはずもない。


 そう高を括った直後に、孝太郎は目を疑うことになった。


 オーガが投げ始めたのだ。


 ゴブリンを。


 次から次へとゴブリンを投げるオーガ。


 投げられたゴブリンの一割ほどは、壁面に当たり落下していった。


 残りの九割は、多少のダメージを負いながらも穴の外へと到達する。


 這い上がってくるゴブリンと投げられて穴の外に到達するゴブリン、その増加する速度は孝太郎の殲滅速度を上回っている。


 徐々に孝太郎の周囲のゴブリンの数が増え始める。


 不味い、碌な防具を付けていない状態では、数を頼りに組み付かれたら、その時点で終わる。


 孝太郎は、アンカーにしていた飛苦無の紐の一本を切断する。


 外縁の崩落の危険はあるが、動ける範囲に制約を受けたままにしておくわけにはいかない。


 残るアンカーは、大きく紐を上下に揺さぶり、刺してある飛苦無を外して回収する。


 ゴブリンを切り払いながら穴の縁からゴブリンを投げるオーガに向かい2本の飛苦無を放つ。


 回収がどうこう言っている場合ではない。


 放たれた飛苦無は、オーガの右目と喉を貫く。


 その巨体が穴の底へと落下するのを確認して振り向くと、すでに包囲は完了されつつあった。


 じりじりと距離を詰めるゴブリン共。


 包囲しているゴブリンに向かって大きく一歩踏み出し、後足の踏切で更に回転を加える。


 両手に構えた鴉と鵲によって、ゴブリンの頭部や手が切り離されて宙に舞う。


「ちっ、つむじでもそんなに削れないか」


 旋による一撃で、8体のゴブリンを戦闘不能にしたが、包囲が崩れることはなかった。


 旋によって包囲が薄くなった場所をめがけ飛苦無を放つ。


 一番手前にいたゴブリンが眉間に苦無を受けて仰向けに倒れる。


 瞬間、つむじの変を繰り出す。


 ゴブリンの頭上を越飛び越えながらの刃の旋風は、その軌道の下にいたゴブリンの悉くを戦闘不能にする。


 着地点は包囲の外側。


 包囲を抜け出す事に成功はしたが、ゴブリン共は再度包囲しようと左右へ広がり始める。


 右翼に狙いを定め、横に広がりつつある隊列とも呼べない列を切り崩していく。


 何十体のゴブリンを切り伏せたか定かではない。


 長苦無の斬れ味が鈍ってきている。


 人ほどではないにせよ、ゴブリンの身体にも脂肪はある。


 それが切っ先から刃の半ばまでを覆い、斬れ味を残っていた。


 斬れ味が鈍れば、その分だけ斬るのに力が必要になる。


 その分の手数の減少を補うために、紐付きの飛苦無の投擲も加え、殲滅する速度を落とさないようにする。


 右手の鴉で正面のゴブリンを突き刺し、左手の鵲で左のゴブリンを薙ぐ。


 右手で右側のゴブリンに2本の飛苦無を投げ、鵲が左斜め前のゴブリンを突く間に、紐を右腕に絡めて手繰り寄せ、飛苦無が浮いている間に倒れているゴブリンから鴉を引き抜きながら右斜め前のゴブリンを切り払う。


 予め決められていたかのような淀みない動作で、ゴブリンの群れを切り崩していく。


 殲滅速度が、這い出てくるゴブリンを上回っているので、着実に穴の縁のゴブリンの数は減ってきていた。


 しかし、スロープ工事の到達点に近づくことはできていないため、その工事も着実に進んでいた。


 ゴブリンの数が減り、十数体となってようやく工事の到達点へ来ることができた孝太郎は、ゴブリンの殲滅を流しつつ、工事の妨害を再開した。


 工事は既に最終段階に入っており、これ以上進めばオーガがジャンプで飛び出られるのではないかという高さにまで達していた。


 孝太郎に背後から飛びかかったゴブリンが空中で頭を射抜かれそのまま落下する。


 振り返るまでもない。


 ベッツが戻ってきたのだ。


「来たか!」


「馬車が一台ね!たぶん先行だわっ!」


 大規模なクエストの場合などは、物見を兼ねた先行を出すのは珍しいことではない。


 しかし、馬車一台というのは少なすぎる。


 期待した数の応援は来ないかもしれない。


「這い出てくる奴らだけ狙え。すぐ戻る。3体以上あがってきたら逃げろっ!」


 ふっと息を吐くと、最速で周囲のゴブリンを屠る。


 ベッツが二度呼吸をする間に、穴の縁のゴブリンは殲滅されていた。


 孝太郎は、魔狼達を逃がすために穴の縁に沿って走り出した。


 応援のハンターにシルバーラインを狩る実力がある者がいた場合に、敵対し若しくは行き掛けの駄賃にと狩られる事は何としても避けたかったからだ。


 孝太郎は、シルバーラインは魔物ではあるが、邪悪なものではない印象を受けていた。


 当然それは、スキルや技能によるものではなく、勘や感覚といった不確かな根拠によるものではあるが。


 魔狼の所に到着すると、這い登ってきたゴブリンを3体のシルバーラインが狩っていた。


 這い登ってきたゴブリンが穴の縁に到着して、立ちあがったその瞬間を狙って狩っているようで、3体でその場所を囲むように陣取り、飛び掛かっては一跳びで元の態勢に戻っている。


 孝太郎は、ゲームセンターにあったモグラ叩きを思い出し、少しだけゴブリンが気の毒になった。


 孝太郎が来たことに気付いた魔狼が、その傍らにやって来る。


「エルダーフェンリルの眷属よ、協力ありがとう。もう暫くすると、他のハンター達がやって来る。君達に対して友好的でない者がいる可能性もある。ゴブリン共の討伐は私達に任せて、逃げてくれないか」


 孝太郎と魔狼達とは響狼関係にあるとはいえ、魔狼が孝太郎の支配下にあるわけでもなく、元々ゴブリンを狩っていたのは魔狼達でもある。


 孝太郎もそれが解っているからこそ、敢えてお願いする形で退いてもらおうとしたのである。


 魔狼は大穴の方を一瞥すると低く唸って首を傾げる。


 真意は分からないが、孝太郎にはそれが大丈夫かと問うているかに見えた。


「はは、大丈夫だよ。応援が来るまでちょっとたいへんだけどね」


 魔狼は孝太郎の右手をべろりと舐めると、その巨体を翻し、孝太郎が来た方向とは逆方向に走り去った。


 ゴブリンを狩っていた3体のシルバーラインもその後を追って姿が見えなくなった。


「さて、正念場だ」


 孝太郎も元いた場所へと走る。


 孝太郎も魔狼もいなくなった、穴の縁へは次々とゴブリンが這い登ってきていた。


 工事の到達点に戻ると、矢で射抜かれたゴブリンの死体が多数転がっている。


 ベッツは少し離れた木の陰からゴブリンを狙撃していた。


「ベッツ、残りの矢は?」


「20ってね」


「分かった。下がってくれ、リーナとラナが向かった方へ走って応援をこの場所まで誘導してもらいたい」


「わかった」


 ベッツもこの場で粘るよりも、少しでも早く応援を連れてくることが重要なのは理解している。


 魔狼がいなくなり、他の2ヶ所から這い登ってくるゴブリンもここへ向かう可能性が高い。


 今まで以上の殲滅速度が必要になる。


 飛礫つぶてでスロープを上がってくるゴブリンを倒しながら、金剛杖で攀じ登ってくるゴブリンを叩き落とす。


 20体弱のゴブリンを穴の底送りにしたところで戦法の変更を余儀なくされる。


 他の2ヶ所から這い登ったゴブリンが集まりつつあったからである。


 孝太郎は金剛杖を後方へ放り投げると、鴉と鵲を構える。


 両の長苦無で切りつけ、突き刺し、薙ぐ。


 その合間に飛苦無を投擲し、回収する。


 一定エリアに入ってくるゴブリンを確実に屠ることによって、一度に相対するゴブリンの数を増やさない戦法に変更する。


 上手く回ってるかのように見えたその戦法ではあったが、周囲のゴブリンの数が急に増え始める。


 見れば穴の縁を飛び越える用に縁に着地するゴブリンがいる。


 オーガがまたぞろゴブリンを投げ始めたのだ。


 孝太郎の動きが目に見えて早くなる。


 一段ギアを上げたかのような動きによって殲滅速度を上昇させたのだった。


予定ではとうに終わってるはずの大穴の戦闘もいよいよ佳境

後2話ぐらいで終わる予定です


読んでくださってる皆様 ありがとうございます。

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