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第19話 報告

あけましておめでとうございます。

本年も不定期投稿です。よろしくお願いします。

 ベッツがデーゼの村を出発する頃、リーナとラナはカフェルの街に到着していた。


 二夜を徹して走り、外壁の門は開いたばかりという早朝に、カフェルの門をくぐった二人は、疲労と街についた安心感から崩れるように座り込んでしまう。


「はぁ はぁ ついたよ」


「はっ はっ まだでしょ。ギルドまで行かないと」


 しかし、一度止めてしまった足は言うことを聞いてはくれない。


「どうかしたのか?」


 二人の只ならぬ様子に、門衛が訪ねた。


「ゴブリンの大群よ」


「なにっ!」


 門衛が街道の方向を振り返る。


「ち、違う。この街じゃないわ。それでも緊急事態なのは変わらない。すまないけど誰かギルドの職員を呼んできて」


 門衛の指示で、詰め所にいた一人がギルドに走っていく。


「今、呼びに行かせた。あんたらは詰め所で暫く休むといい」


「ありがたいけど、一刻を争うんでね」


 二人は這うように道を空けるが、詰め所の中で休もうとはしなかった。


 道の傍で門を出ようとするハンターや商人に声を掛ける。


「あんた達ハンターだね、もうすぐ緊急クエストが懸かるよ。準備しときな」


「商人の方々、緊急クエストが懸かる可能性がありますよ」


 ハンターのパーティーで急ぎでない者達は、すぐさま取って返し、数日分の食料や資材などの買い出しに向かう。


 商人で荷のある者は、留まって商機を伺い、荷のない者は近隣の街での仕入れへと飛び出していく。


 相手はゴブリンとはいえ、あの数である。


 ありとあらゆる手段を使って応援を増やさなければとリーナとラナは考えていた。


 例え緊急クエストが懸かったとしても、事前に情報を漏らしたことを咎められる可能性もあるが、そんな事を言ってはいられない。


 ウッドプレートでありながら、その大群を独りで留めている大馬鹿者がいるのだから。


 商人にまで声を掛けているのも、応援の人数がいくら集まったところで、食べ物がなければ集団というのは動かせないという考えからである。


 緊急クエスト用にギルドにも備蓄はあるのであろうが、今回のような大規模な緊急クエストは想定外のことであろう。


 声を掛けられた商人にしても、食品を商っているいればここで高値で売れるかもしれず、荷が無い者も放出した備蓄の補充のための仕入れをしてくれば、十分な商機があるのである。


 利に聡い商人が、緊急クエストなどというある意味美味しいイベントを見逃すはずもなかった。


 手当たり次第にハンターや商人に声を掛けているうちに、ギルドの職員がやって来た。


 リーナとラナは、幾分回復した様子で、立ち上がってギルドの職員を迎える。


 やって来た職員は三人だった。


 一人は受付嬢のカーシャである。


「リーナさん、ラナさん、いったい何事でしょう?お二人は確かデーゼの森の調査に行かれたはずですよね?」


「ああ、カーシャか。話が早くて助かるよ。デーゼの森に大穴が開いててね。その中に無数のゴブリンがいるんだ。早くしないと出てきちまうんだよ」


「さっぱり要領を得んな」


 年嵩のギルド職員が呟く。


「あんたは?」


 必死の説明を切って捨てられるような言い方にリーナは不機嫌さを隠そうともしないで尋ねる。


「あああ、リーナさん。こちらはギルドマスターです」


 カーシャが慌てて年嵩の職員の事を紹介する。


「お初にお目にかかる。私がカフェルのハンターギルドマスターのレブナンだ」


「「ギ、ギルドマスター……」」


 リーナの顔に「やばい」といった表情が浮かぶ。


「ああ、いい、気にするな。それよりも詳しい話を聞こう。ギルドへ向かうが歩けるか?」


「ああ、だが話は道すがらにさせてもらうよ。出来るだけ早い方がいいに決まっているからね」


「それで構わん」


 それでも足取りの覚束ない二人を、両側からカーシャともう一人の男の職員が支えながらギルドへと向かう。


「では、順を追って詳しく聞こう。まずはウィンディアのメンバーはデーゼの村に隣接する森の調査に向かった。ここまではいいな?」


「ああ。やけにゴブリンが多いという印象はあった。その原因を見つけたのはコタローで、その原因というのが大穴だ」


 リーナは、敢えてシルバーラインの事は無かったかのように説明する。


「コタローというのは?」


「コタローさんはソロのハンターで、同じ時期にフォレストウルフの討伐にデーゼの村に行っていたはずです」


 カーシャが的確なフォローを入れる。


「ふむ、で、その大穴の大きさは?」


「この街で言えば、中央広場が穴の真ん中として、ギルドのある辺りまでは十分に入るくらいの大きさだね。深さはギルドの建物5つつ分ぐらいだな」


「で、その穴の中にゴブリンが大量にいたということか」


「そうさ、それこそ隙間のないぐらいにね」


「だが、それだけ深い穴なら、そうそう出ては来られんと思うが?」


「それが、壁を攀じ登ってくる奴らが結構いたんだ。そいつらが歩き回ってるのが森にゴブリンが増えた原因なんだって。それにあいつら工事してやがるんだ」


「工事?」


「ああ、石を積み上げて坂を作って一気に出て来ようとしてるんだ」


「ゴブリンが工事をな。そんな話は初めて聞くが……」


「ああ、アタシも初めて見たよ。あれはたぶん率いてる奴のせいだね」


「ふむ、率いる者が強力なほど、ゴブリンの集団の能力は上がるからな」


「アタシの見立て違いでなければ、あれはヒルオーガだ」


「ヒルオーガか、強力な個体だな。凡そで構わんからゴブリンの数は判らんか?」


「数える気にもならない程いたからね。でも、コタローは5万ぐらいとか言ってたね」


「ご……5万だと!?」


 およそ魔物の数で聞く事のない数字である。


 人の数のとしても、国家間の戦争、それも決戦の時でもないと5万などという数字は出てこない。


「き、緊急クエスト招集だ!動ける総てのハンターを集めろ!領主軍へも応援の要請を!」


 未だギルドへは辿り着いていない路上でギルドマスターは叫んだ。


 リーナ達を支えていた男の職員は、それを聞いてギルドへと走っていった。


「急いでおくれよ。一人でくいとめてる大馬鹿がいるからね」


「何っ?」


「5万ものゴブリンが出てきたら、あの辺りはゴブリン共のものになっちまう。今、コタローが一人で止めてるのさ」


 付き添っていたカーシャの足が止まる。


「もう話はいいだろう?伝えなきゃならない事は伝えたよ。アタシ達も準備をしないとならないからね」


 そう言ってリーナとラナは列を離れる。


「おい、カーシャ、そのコタローってのは腕は立つのか?」


「同じクラスであればトップクラスだとは思いますが……」


「プレートは?」


「ウッドです……」


「……そうか」


 ギルドマスターは、カーシャの肩を抱くように支えながらギルドへの道を再び歩き始めた。



 リーナとラナが説明をしている時から、一行の後ろをつけるように歩く男がいた。


 鍛冶屋の主人にしてハンターパーティー創造の槌のメンバーであるボクソンである。


 客の見送りで店先まで出た時に、コタローの話をしながら歩く一行を見つけたのだ。


 スリオラをからかうネタでも拾えればという下世話な好奇心からだったが、そこで聞いた話はとんでもないものだった。


 慌て急いで店に戻ると、弟子のユイックに怒鳴るように言いつける。


「ユイーックッ!創造の槌の全員に伝えろ。緊急クエストだ。コタローが危ないって必ず伝えろぃっ!」


「はいっっ!」


 鍛冶の事以外で、ボクソンのこれほどの剣幕を見たことがなかったユイックは、大急ぎで知らせにと走った。


 ボクソンは自らの武具と、大きめの布の包を用意すると、馬車と食料を調達するために街中へと駆け出していった。

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