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第18話 穴の縁

 ゴブリン共は、次から次へと這い出して来る。


 孝太郎とシルバーラインは、その悉くを狩っていく。


 起きている間は、ひたすらに狩る。


 その合間に喰らい、疲れたら寝る。


 気配を感じて起き、また狩る。


 危ないという意識は既に無い。


 ゴブリンでは敵に成り得ないからではある。


 ただ一方的に狩る。


 孝太郎は這い出たゴブリンを滅する装置と化していた。


 何度目かの夜が来て、その夜が明けた。



 夜明けとともに村の方から近づいてくる気配に気付く。


 ベッツであった。


「どうしたの?酷い顔よ」


「ああ、返り血とかついてるだろ」


 顔や身体を拭く暇があれば寝ていたのだし当然だろう。


「そういう意味じゃないわ」


 言うが早いか、ベッツは孝太郎を頭を抱え込むように抱きつく。


「な、何を……」


 急に豊満な胸に顔を押し付けられた孝太郎は、驚いて離れようとするが、ベッツはそれを離すまいと益々力を込める。


「大丈夫、大丈夫だから…しばらく休んで」


 ベッツの声は涙声になっていた。


 ベッツが泣いている事に驚きながらも孝太郎は抵抗することをやめた。


 埋められて少々息苦しいが、それが妙に心地よくもあった。


 そのまま、どちらともなく膝をつき、腰をおろす。


 布越しに伝わるベッツの体温を頬で感じながら、孝太郎は落ちるように眠りについた。



 ベッツは、村での必要な情報を集めて孝太郎の元へ急いで戻っていた。


 別れた場所に近づき、ゴブリンと戦う人影を見て、無事だったのだと安堵した。


 しかし、声を掛けて振り向いた知っているはずのその顔は、酷いものだった。


 凶相とでも言えばいいか。


 人であることを止めたような顔だと感じた。


 ひたすらゴブリンを殺し続けていたのであろうことは、辺りのゴブリンの死体の数を見れば解る。


 そして、それが原因で孝太郎が壊れかけている。


 『私が治さなければ』という衝動が湧き上がった。


 人ならざるものになりかけてあるのであれば、それを人に戻せるのは人だけであろうし、そして人はここに自分しかいない。


 そんなロジックとは別物の衝動だった。


 事実、ベッツ自身もその衝動に驚きながらの行動だった。


 数時間の後、孝太郎は目を覚ました。


 傍らには、スウスウと寝息を立てるベッツの姿がある。


 眠りに落ちる直前の事を思い出して赤面する。


「まだまだ修行が足らんな」


 そう呟く。


 修羅道に落ちかけていた。


 目的の為に殺すのではなく、殺すために在る。


 そうなりかけていた。


 今は、此方側に戻ってこれた確信がある。


「さてと、ここからだな」


 ベッツが戻ってきたということは、早ければ2日の内に応援が来るということだ。


 孝太郎が一番の問題だと感じているのは、シルバーライン達の撤退の時期だ。


 今は何の縁か孝太郎と行動を共にしてくれているが、ウィンディア以外のハンターにも協力的かどうかは解らない。


 腕利きのハンターが来た場合は、シルバーライン自体を脅威とみなし排除するかもしれない。


 なので、孝太郎はシルバーライン達をハンターの応援が到着したタイミングで他所へ逃がそうとしていた。


 しかし、丁度入れ替わるようなタイミングなど在りはしない。


 シルバーライン達を逃した後で、応援が到着するように作為しなければならない。


 そして、その間隔は狭ければ狭いほど効果的である。


 思索を巡らせながら、大穴の見える位置へとやってきた孝太郎は、穴の中央から延びるスロープの状況を注視する。


 階段なのかスロープなのか不明だったそれは、スロープだと確信できる造りになっていた。


 その高さも大穴の縁まであと僅かとなっている。


 早ければ明日、遅くとも明後日には出来上がると思われた。


 応援が最短の時間で来たとしても、スロープが完成する前には到着しない可能性が高い。


 そこまでを確認すると、孝太郎は一旦ベッツのいる場所まで戻った。


 ベッツは目を覚まして、姿の見えない孝太郎を探しているところだったらしく、戻ってきたのを見て安堵の息を漏らす。


「やあ、おはよう」


 何事もなかったかのように手を上げて挨拶をする孝太郎。


 その顔から凶相は抜け落ちており、昨夜の自分の行動が間違っていなかった事を悟る。


 同時に、その行動を思い出し、顔が熱くなるのを止めることはできなかった。


「おはよう」


「どうした?元気がないな?」


「そんなことないょ……」


 恥ずかしさの余り、声がだんだんと小さくなっていく。

 

「まずは、礼を言っておく。ありがとう、こっち側に戻ってこれた」


「そ、そうそれは良かったわ……」


「それはそれとして、村の方はどうだった?」


 礼もそこそこに本題に入る孝太郎に、憮然としながらも自分たちの置かれている立場を思い出し、ベッツの顔も引き締まる。


「村は避難を始めたわ。戦える者だけが残るわ」


「そうか」


 村長の選択は、概ね孝太郎の予想どおりだった。


「おそらく残った人も村の外へは出ないだろう。ゴブリンとはいえ、大挙して押し寄せれば逃げるしかないだろうしな」


「そうね。あくまで村の中へ入ってきたら戦う事になってるわ」


「それでいい」


 村の外で戦うのはハンターの役目でいい。


 戦いに慣れていない者が混じると戦場が混乱しかねない。


 これで村の全滅という最悪の事態は免れた。


 しかし、数万のゴブリンが解き放たれたならば、近くの村の壊滅だけで済むはずもない。


「あとはどれだけ数が減らせるかだな」


「私もゴブリンを狩るわ」


「いや、ベッツには他にやってもらうことがある」


 這い上がってくる来るゴブリンは、孝太郎と魔狼達で対処できている。


 孝太郎は、シルバーライン達を逃がすタイミングを見極める重要性を説明し、応援の到着を見張ってほしい事を伝える。


「わかったわ」


「頼む、付いていったシルバーラインを伝令代わりに使うといいだろう」


「あなたはどうするの?」


「ここから先は、応援が来るまでの時間稼ぎだ」


 ベッツは何事か言おうとしたが、言葉を飲み込み一度頷くと踵を返した。


 その後ろを、1頭のシルバーラインが付いて行く。


「頼んだぞ」


 ここから先は、時間との勝負になる。


 孝太郎はスロープの到達が予想される場所に移動した。


 ゴブリン共の工事の様子を観察する。


 スロープの先端は、すでに大穴の縁までは5メートル強といったところまで出来ている。


 スロープの幅自体はそう広くない。


 ゴブリンが3体並べる程の幅だ。


「あまり時間がないか」


 孝太郎は、辺りの小石や硬い木の実等を集め始めた。


 飛礫つぶてにするためである。


 工事現場にある砂利山のような飛礫山を二つ作ることができた頃には既に日は暮れていた。


 食事を摂り、仮眠をとる。


 ゲギョ


 ゴブリンの声に跳ね起きる。


 1体のゴブリンが縁から這い出てくるところだった。


 手近な飛礫を放つ。


 眉間に飛礫の当たったゴブリンは、仰向けに倒れ、そのまま大穴に落ちていく。


 孝太郎は慌てた様に大穴を覗きこむ。


 スロープ工事の為に石材を持って上がったゴブリンの一部が近くなった大穴の縁へよじ登っていた。


 縁に手を掛けようとするゴブリンと視線が交錯する。


 金剛杖で突き落とす。


 突き落とされたゴブリンは、スロープで一度バウンドすると、そのまま大穴の底へと落ちていった。


 この高さでは助かるまい。


 落ちた所に犇めいていたゴブリンも何体か巻き込んだようだ。


 孝太郎は、縁に立つ木に紐の付いた飛苦無を打ち込む。


 時間稼ぎの始まりだ。


 飛礫を持てるだけ持つ。


 大穴の縁から、スロープ工事のための石材を運んで登ってくるゴブリンを狙って飛礫を放つ。


 狙い通り、石を抱えたままのゴブリンは、そのまま穴の底へと落下する。


 落ちた先のゴブリンと抱えていた石が当たった底にいるゴブリンも何体か巻き添えになった。


 その後も飛礫によって、材料を運んでくるゴブリンを狙う。


 スロープの工事は停滞し、時間稼ぎは成功しつつあった。


 一体のオーガが登ってくるまでは。 

なんとか年内の更新ができました。

読んでくださっている皆様ありがとうございます。

来年もよろしくお願いします。

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