第15話 共同
孝太郎が、隣の商館から干し肉と水筒を買って戻ってくると、二人組も丈夫な紐を用意して待っていた。
「こんな紐でいいか?」
「十分です。16尋ほど譲って下さい」
「なんだい?そのヒロってのは?」
この世界の長さの単位を知らない孝太郎は、両手を広げた長さを一尋というアバウトな長さの測り方であることを説明する。
「なるほどな。大体ひ1ヒロで2ヤードってとこか」
この世界はヤード法であるらしい。
1尋は約1.8メートルであり、1ヤードは0.9メートルなので、ほぼ同じと言えよう。
もっとも。1尋は長さとしては1.5メートルとして認識されることもあるのではあるが。
孝太郎は譲ってもらった紐を四等分すると、その端を飛苦無の柄環に括り付け、もう一方を自分の帯に括り付けた。
「それは何のためだい?」
小型の武器に紐を括り付けるなど、見たこともない二人組が尋ねる。
「ああ、これは振り回して使ったり、樹上で身体を固定したり、投げた後の回収に使ったり色々使えますよ」
「ほうほうなるほど。と、言いたいところだが、コタローの戦い方がまったくもって想像つかないな」
孝太郎の戦闘スタイルは「忍者」であるが、戦国時代のそれとは戦い方が異なっている。
現代日本の技術がミックスされたものであり、更には、孝太郎独自のゲームやラノベによる偏った知識も上乗せされており、一般の戦い方とは大きく異なっている。
そもそも、忍者という概念自体がない世界においてその戦闘スタイルを説明するのは難しいであろう。
「ははは、そうでしょうね」
孝太郎は自嘲気味に笑うしかなかった。
その後、料理を注文し、出来上がりをエールを呑みながら待っていると、宿に新たな客が現れた。
ウィンディアの一行である。
ベッツはきょろきょろと誰かを探している風であったが、孝太郎を見つけると、手櫛で前髪を整え、大きく一度深呼吸をして孝太郎の方へと歩き始めた。
ベッツが近づいてくることに気付いた孝太郎は、軽く手を振り声をかけた。
「やあ、もう大丈夫なの?」
ベッツに向けてニコリと微笑む。
「は、はい。だ、大丈夫です。助けて頂いてありがとうございました」
ベッツは深々とお辞儀をする。
「無事でよかった。ところでちょっと相談があるんだけど」
「は、はい。なんでしょうっ!」
「内容が内容だから、リーダーに言った方がいいのかな?リーダーはリーナさんだっけ?」
おぼろげな記憶から、ウィンディアのリーダーの名を引き出す事に成功する。
「わかりました。リーナですね」
何故か不機嫌になったベッツは、リーナを呼びに戻る。
「何か話があるって?」
リーナは孝太郎の向かいの席に座った。
「ちょっと相談というか、お願いがあってね。エールでいいかい?」
追加のエールと一緒にリーナの分のエールも注文する。
もちろん、ベッツとラナの分もである。
「単刀直入に言う。訳あって、明日からの森の調査に同行させてもらいたい」
あれこれ言っても、変に勘ぐられるだけかと考え、直球勝負だ。
「ああ、昼間はああ言ったが、ベッツが言うには中々の腕らしいじゃないか。私は構わないよ。ただし、依頼の報酬はこっちで分ける。明日からの討伐分は山分けってことでいいならね」
「ああ、それで構わない。ありがとう」
光太郎は立ち上がり頭を下げる。
「よしとくれ、ベッツを助けてもらった礼もまだ言ってないのに」
「それこそ止めてくれ、だ。礼なら本人から聞いた。恩に着せる気はないよ」
「そうかい、じゃあ礼の話はここまでだ。同行することは他の二人にも聞いてみないとね。まあ一人は聞くまでもないんだけどさ」
「?」
「おーい」
リーナがラナとベッツを手招きする。
ベッツが孝太郎の隣に座り、リーナの隣にラナが座る形で四人がけのテーブルが埋まる。
「という訳で、コタローの同行に反対の者はいるかい?」
聞き方が男前だと感じた孝太郎だったが、口には出さない。
特に反対の声は上がらなかった。
「反対の者はいないみたいだね。明日は日が昇ったらここに集合ってことにしよう」
「了解した」
「んじゃ、今からは明日に備えて……親睦を深めるってことにしようじゃないか」
「「さんせーい」」
リーナとラナは呑めればいいといった感じだが、ベッツだけだ違った方向でテンションが上がっているのだが、孝太郎がそれに気付くことはなかった。
束の間の賑やかな夕餉を楽しんだ後、三々五々自分の部屋に戻る面々。
流石に依頼中に深酒をするような事はなかった。
夜半の事、何者かが孝太郎の部屋の前をうろうろしていた様だが、孝太郎の警戒を余所に、その部屋のドアが開かれることはなかった。
「おはよう、ゆっくり休めたかい?」
孝太郎が日の出とともに階下へ降りていくと、ウィンディアの面々は既に朝食を摂っている最中であった。
孝太郎も朝食のセットと弁当を注文する。
朝食セットは、パンとスープと燻製肉の簡単なもので、味付けは塩だけだったが、美味いと言っていい絶妙の塩加減だった。
食事を終え、受け取った弁当を風呂敷に包んで、金剛杖の先端に括り付ける。
「変わった荷物だね。バッグとか持ってないのかい?」
「はは、様式美ってやつでね」
「?」
風呂敷包みは、孝太郎の美意識によるものであったようだ。
無論、他人にそれを理解しろというのは無理な話である。
森の入口で、昨日ベッツが偵察した経路の説明を受ける。
波形を描くように森を縦断するコースで、3日で森の反対側へ出る計画である。
途中何かあれば、予定は遅れるだろうから、ゆっくりと歩いているような余裕はない。
波形の頂点は、森の端に近づく経路になっているので、何か問題が発生した場合は、そこから森を脱出する算段だ。
孝太郎が先頭を進み、ベッツ、リーナ、ラナと続く。
各々の間隔は約25メートル、先頭から後尾まで75メートルあれば、包囲されるような事はまずない。
逆に、森の中なのでこれ以上離れると逸れる可能性が高まる。
先頭のポジションは、スカウトであるベッツが譲らなかったが、敵と不意に遭遇した場合の戦闘力、ウィンディア三人の連携の妨げになる可能性が高いことを説き、バックアップを頼む形で、渋々了承してもらった。
武装は、孝太郎が長苦無と飛苦無それに金剛杖を担いでいる。
ウィンディアの面々は、ベッツがショートボウを担ぎ、ショートソードを佩いている。
バックアップ要員としては、遠隔攻撃ができるのは強みだ。
リーナはバスタードソードを背負を背負っていた。
戦闘になれば、メインということになる。
他のメンバーは、リーナに合わせるように連携を組んでいくはずだ。
殿でもあるラナは、ロングソードを佩き、ラウンドシールドを背負っている。
後方から襲われた時の用心も兼ねてのことだ。
敵の存在が確実で、出会った瞬間に戦闘になるのであれば、武器を構えて進むところだが、起こるかどうかもわからない戦闘のために武器を構えて進むのは、非効率的である。
半日を過ぎた辺りからゴブリンの姿を頻繁に見かけるようになった。
ちょっと深い森であれば、ゴブリンの10や20はいてもおかしくはないが、その頻度と数は明らかに多い。
一体で出会う事はなく、少なくても三体、多いときは五体以上の集団で徘徊している。
遭遇した場合は、孝太郎が速やかに対処しているので、ウィンディアのメンバーまで戦闘になることは、なかった。
「ゴブリン共が蔓延ってるね。ちょいと数が異常だ」
大樹の根本の開けた場所をキャンプ地にして、夕食の準備をしながらリーナが言う。
「確かにね。大きな集落でも出来てるのかしら?」
「大きい集落が出来ると、上位種が出たりするのか?」
ラナの相づちに、孝太郎が元の世界のファンタジー理論の確認をする。
「上位種ってのはなんだい?」
「いや、だからゴブリンジェネラルとかゴブリンキングとかさ」
「確かに強い個体に率いられた集落とかは大きくなるけど、ゴブリンキングとかは聞いたことがないね」
「あいつらが王制を理解するとも思えないしね」
ゴブリンは強くなってゴブリンなようである。
ここでも孝太郎のファンタジー知識は役に立たなかった。
そもそもが空想や妄想の類が殆どであるのだから、役立つ情報が少ないのは道理だと思い直す。
夜営は見張りを立てて、焚き火の周りで仮眠をとる程度であったが、孝太郎にしてもウィンディアのメンバーにしても慣れたものである。
翌朝、焚き火の跡を始末して、夜明けとともに探索を再開する。
堅く焼き締めたパンと干し肉を齧りながら距離を稼ぐ。
不可解な事に、あれだけ多かったゴブリンの数が減ってきていた。
森の中心部に向かっているのであり、多くなるのが通常であるのにだ。
「ゴブリンが減ってきたな」
「気をつけてね。何者かが狩ってる可能性もあるわ」
ゴブリンを狩っているからといって、こちらの味方であるとは限らない。
一行は、暫く進んだ所でその答えを目撃することになる。
少し間が空いてしまいました。
よろしくお願いします。




