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第13話 狼討伐

 センパイのアドバイスに従って、門の近くで行商人を探す。


 運良くデーゼ行きの行商人を見つけることができた。


 行商人は、以前宿でエールを酌み交わした二人組だった。


「いいとも、乗っていきな。その代わり何かあった時は、早い者勝ちだぞ」


「早い者勝ち?」


「はっはっは、いくらハンターが同行してるとはいえ、美味しい獲物は渡さないって意味だよ」


 流石は元ハンターだ。


 他の行商人では、聞けない台詞だ。


 残念ながら道中は平和なもので、獲物の取り合いなどは起きなかった。


 二人組の行商人の駆る馬車は、3日目の昼にはデーゼの村に到着した。


 孝太郎は、村の入口で馬車を降りる。


「お世話になりました」


「いいってことよ。頑張れよ、だが命あっての物種だ。気をつけてな」


「俺達は、3日ぐらいはデーゼにいる。その後は、カフェルに戻る予定だ。何かあったら言いな」


「ありがとうございます」


 二人組の馬車は、街道沿いに村の中央にある2階建ての建物が集まった辺りへと進む。


 おそらく、商館や宿屋はその辺りにあるのだろう。


 周囲は広大な小麦畑が広がっている。


 二、三軒の家の集まりが点在している。


 絵に書いたような辺境の田舎といった風景である。



 デーゼの村の南側の入口、その東側がフォレストウルフの群れが目撃された森だったはずだ。


 孝太郎は、特に構えた様子もなく森へと入っていく。


 森の中に人影を見つけた。


 二人の女性らしい人影は何かを見張るでもなく、森の奥を眺めている様に見える。


 調査依頼を受けているハンターがいる事を思い出す。


 情報があるか聞いてみるつもりで、近づいて行く。


「こんにちは。ハンターの方ですか?」


「ああ、そうだけど。あんたは?」


 当然のことながら、突然声を掛けてきた男には警戒している。


「私はコタローといいます。フォレストウルフの討伐で来たんですが、ギルドで調査依頼の方達もいると聞いていたので、ご挨拶にと思いまして」


「アタシ達はウィンディア。お察しのとおりハンターだ。森の調査の依頼で来てる。アタシがリーダーのリーナ、こっちがラナだ。ふたりとも戦士系さ。あと一人スカウトのベッツってのがいるが、今、丁度経路の偵察中でね」


「ウッドタグなのは見れば分かるが、お仲間はどうした?」


「いえ、ひとりです」


「ソロで狼の群れを狩ろうってのかい?」


 パーティーを組んでいない事を告げると、二人の表情は怪訝なものに変わった。


 できるだけ関わり合いたくない、といったところであろう。


「どうでもいいけど、こっちに迷惑のかからないようにしておくれよ。こっちも着いたばかりでね。渡せるような情報はないよ」


 初心者のソロなどは、早く追い払うに限るとばかりに、必要最低限のことだけを畳み掛けるように告げられる。


「そうですか、ありがとうございました」


 偵察に出ているというメンバーを待ちたいところではあったが、面と向かって「情報はない」と言われては、それ以上そこに留まる訳にもいかない。


 歓迎されていない雰囲気を肌で感じながら、孝太郎は森の探索を始めた。


 狼がいそうな場所程度の情報でも、あるとないでは大違いである。


 孝太郎は、森全体の地形の把握から始めなければならなかった。



 同じ頃、森の中をデーゼの村へ向かい疾走する者がいた。


 ハンターパーティー「ウィンディア」のスカウト、ベッツである。


 ベッツは、犬獣人の女で、人間と比べて身体能力は高く、嗅覚も数倍は鋭い。


 森を調査するための経路の偵察に出ていた彼女は、一頭のフォレストウルフに襲われた。


 彼女の鋭い嗅覚は、フォレストウルフの存在を感じ取っていたし、Dランクに手が届きそうな彼女にとって、フォレストウルフは脅威たり得なかった。


 フォレストウルフの奇襲を躱し、ナイフを投げて牽制する。


 怯んだところを距離を一気に詰めて、ショートソードで斬りつける。


 動きの鈍ったフォレストウルフの側面に回り込むと、その首にショートソードの切っ先を突き立てた。


 ほっとするのもつかの間、新手が現れた事を嗅覚が告げる。


 その数4。


 風下から近づかれ、距離は余りない。


 風上の此方の存在に気づいていない可能性は低いと思うが、音をたてないに、そろりそろりと距離を取る。


 フォレストウルフ2頭ならば、勝つ自信がある。


 3頭でも、1頭目の仕留め方次第で何とかなるかもしれない。


 4頭となると無理だ、1頭目を仕留めている間に襲われる。


 致命傷にはならなくとも、動けなくなったところで詰む。


 幸いにも、ある程度の距離を稼ぐことに成功した彼女は、デーゼ村方面へ離脱を開始する。


 しかし、仲間の死体を見つけたからか、逃げるベッツに狩猟本能を刺激されたのかは不明だが、突如、4頭のフォレストウルフは彼女の後を追い始めた。


 必死に逃げるベッツ。


 しかし、獣人の健脚をもってしても、四足動物を振り切ることは叶わず、じりじりと距離を詰められる。


 途中、手持ちのナイフを投げて牽制し、狼の群れが散開して追い始めるまでの間で、僅かな距離を稼ぐ。


 しかし、それももう尽きた。


 森の入口では、仲間が待っているはずだ。


 合流さえできれば、フォレストウルフ4頭ならば仕留められる。


 その希望へ向かって走る。


 森の中の小径を走る彼女は、その視界に人影を捉える。


 若い男だ。


 このまま行けば、近くを通った時にフォレストウルフが男を襲うかもしれない。


 それも自分が助かる一つの道だったが、彼女は男のいる場所を大きく迂回し始める。


 そこでまた、距離が縮んだ。


 これ以上縮めば、完全に飛びかかられる距離になってしまう。


 ベッツは目を疑った。


 残り少ない距離を犠牲にして迂回したというのに、迂回された本人が大きく回り込んで正面から走ってくるではないか。


 フォレストウルフに追われている事に気づいていないのか。


「おおか……むれ……逃げて……」


 大声で警告を発したつもりだったが、限界に近い走行の途中では、滑らかな言葉など紡げるわけもなく、声量も張れなかった。


 男は、その警告に気付かないかのように速度を上げて突っ込んで来る。


 もう、迂回は無理だ。


 こうなれば、ここで迎え撃つか。


 見ず知らずの男が死のうがどうでもいいが、自分のせいだという事だけが引っかかる。


 佩いているショートソードの柄に手を伸ばす。


 ベッツに残された最後の武器だ。


 その瞬間、疾風の如き速さで走る男とすれ違う。


「大丈夫だ。そのまま走れ」


 すれ違いざまに、男は確かにそう言った。




 孝太郎は、此方へ向かって走ってくる女性を見つけた。


 話しかけて情報をもらおうかと思い、その場に立ち止まるが、走ってくる女性に余裕がない事に気付く。


 彼女は、孝太郎のいる辺りを回り込むように大きく進路を変えた。


 直後に4体の獣が彼女を追っていることに気付く。


(トレイン状態ってことか)


 大きく進路を変えたのは自分を巻き込まない様にするためだとも。


 孝太郎は、その女性の正面へ回り込んで、速度を上げて走っていく。


 すれ違う直前に女性が何か言ったようだが、内容は聞き取れなかった。


「大丈夫だ。そのまま走れ」


 そう言い残して、すれ違う。


 4頭のフォレストウルフは連携が取れていた。


 目の前に躍り出てきた新たな獲物に躊躇なく襲いかかる。


 宙を駆ける2頭と地を駆ける2頭。


「立体殺法ってか」


 4頭同時に相手にするために、孝太郎は自らも宙へ身を躍らせる。


 踏み切りと上体の捻りで錐揉み状態を作り上げ、4体の作る死の檻へとダイブする。


 『鴉』と『鵲』を両手に構え、錐揉みの回転エネルギーを上乗せする。


 狙いを違えず、空中の2頭と地の1頭は、その切り離された首だけが大きく軌道を変えて落下する。


 残る1頭も背骨を断ち切られており、最早動けなくなっている。


「真田流刀術【つむじ】の変、【疾旋】といったとこか」


 見事に決まった自らの技と、新調した『鴉』と『鵲』の斬れ味に満足そうに微笑む。





 「大丈夫だ。そのまま走れ」


 そう言われ、すれ違ったベッツは、直後に濃密な血匂に振り返る。


 人の血の匂いはしない。


 フォレストウルフの血の匂いだけだ。


 走るのをやめ、へたり込む。


 一瞬でフォレストウルフ4頭を屠る凄腕の男。


 信じられないものを見るように、その男を凝視する。


 その男は、何事もなかったかのように、涼やかに佇み、こちらに向かってニコリと微笑んだ。

視点の変換が上手く伝わっていれば幸いです。

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