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第10話 常時依頼

本日2話目の投稿となります。

第9話 酒場 〜 孝太郎の事情 から お読みください。

 翌朝、何故かスッキリとした目覚めを迎えた孝太郎は、街の北東の森へと向かっていた。


 ゴブリンが多く見られるという噂を聞いたためである。


 保存食として、昨日の二人組から聞いたパンと干し肉は買って出ている。


 北東の森と呼ばれる場所は、徒歩で四半日程度の距離であるらしい。


 今は、街から延びる石畳で舗装された街道をひとり歩いている。


 街道の前後に人影は見えず、貸切状態である。


 左右に広がる草原と畑の風景は、その雄大さに最初こそ感動モノであったが、変化のない風景に既に飽きてきている。



 結果として、常時依頼であるゴブリンの討伐と薬草の採取の依頼を受けた形になってはいるが、薬草の採取はサンプルが手に入らない段階で諦めている。


 元の世界、と言っても日本限定だが、薬草の類の知識は一般人に比べれば格段の知識を持っている。


 毎年の山篭りで身につけた知識である。


 しかし、生えている植物は元の世界のそれとは違っており、仮に非常に似た植物を見つけたとしても薬効がそのとおりである保証はないからである。


 よくよく考えてみれば、この世界のゴブリンの姿も知らない事に気付く孝太郎。


 この世界のゴブリンは、所謂ゴブリンの姿をしているのだろうか、という疑問に突き当たる。


「とりあえず襲ってきたそれっぽいのを狩っておけばいいか。いや待てよ、萌えキャラみたいなのだったら躊躇しちゃうよな〜」


 街道が平和な上に、周囲の風景に変化がなく、歩くこと以外にする事もない暇な時間を妄想で潰している。



 21パターン目のゴブリンの姿の妄想が纏まる頃、目的の北東の森の入り口に到着した。


 北東の森は、街から比較的近い事もあって、ハンターに限らず素材の採取に訪れる人も多い。


 街の近くに住む猟師にとっては、主な狩場と言ってもいいだろう。


 故に、森の中で他の人と遭う可能性も十分にある訳であり、動くモノを片っ端から狩っていくという訳にはいかない。


 街道沿いの森の外縁部は、人が入ることもあって、灌木も少なく比較的明るい。


 浅いところに用はないとばかりに、躊躇うことなく奥へと踏み入って行く孝太郎。


 

 人がそうそう足を踏み入れない領域まで来たのだろうか、鬱蒼と茂る樹木に覆われ空は見えなくなって久しい。


 昼なお暗いという表現がしっくり来る風景である。


 既に道らしい道は無く、孝太郎は獣道と呼んだようが方がいいような小道を進んでいた。


「ゲギッ」


 耳障りな叫びとともに、茂みから飛び出てきたのは緑色の肌をした人型。


 服とは到底呼べないボロで腰の辺りを隠している以外に防具の類は身に着けていない。


 手には何処かで拾ったような錆びたショートソードが握られている。


 牽制の意味を込めて飛苦無を放つ。


 狙いは顔面、速度も本気の5割り程度だ。


 飛苦無は避けられることもなく、緑色の人型の顔面に深々と突き刺さった。


 トサリと軽い音をたて、人型がうつ伏せに倒れる。


 まだ生きているとは考えづらいが、右手に飛苦無を構え、倒れた人型が未だ握っている剣を踏みつける。


 もう一方の足で肩口を蹴って仰向けにする。


 絶命していることを確認すると、顔面に刺さった飛苦無を回収する。


 その刃は緑色の体液で濡れていた。


 一匹目の襲撃のようなものを撃退した孝太郎は、周囲を警戒する。


 初の獲物に喜んで、剥ぎ取りをしている間に他のモンスターに襲われるというのは、ゲームでも小説でも定番化している。


「ゲギョ」


 少し離れた場所から声が聞こえた。


 先程の緑の人型と同じ声だ。


 長柄と荷物をその場に置き、両手に飛苦無を構えて声の方へと走る。


 そこにいたのは緑の人型が三体。


 剣を持っているのが二体、残りの一体は棍棒だ。


 実力差があっても3対1は厳しい、瞬間的にそう考えた孝太郎は一気に間合いを詰める。


(まずは一番動きの悪い奴から仕留める!)


 だが、その心配は杞憂に終わる。


 一体、一体の攻撃は剣技と呼べるようなものではなく、三体の連携も取れていない。


 一息で三体の脇を掠めるように走り抜ける。


 三体は、またもトサリと乾いた音を立てて倒れた。


 三体の首からは。緑色の体液が溢れるように流れ出ている。


 すれ違いざまに、攻撃を避けながら、人の頸動脈にあたる部分を飛苦無で切り裂いたのだ。


 飛苦無は、さほど大きな武器ではない。


 刃の長さは手に隠れるほど。


 柄を握り込めば、手刀とそう変わらない範囲にしか届かない。


 それでも首に一撃で致命傷を与えることができるということは、両者の間に隔絶した実力差があるということだ。


「五匹ぐらいまでなら問題ないか。しかし、人型でも忌避感とかない事に我ながら呆れるね」


 孝太郎の偽らざる感想だった。


 肌も緑で、血も赤くないことで忌避感が生まれていない可能性もある。


 赤い血を流す人型、あるいは人を殺す時がこないとは限らない。


 その時に忌避感は生まれるかもしれない。


 そういう意味では、ゲームに近い感覚で最初の獲物を屠る事ができた事は、ある意味幸運であったかもしれない。


 また同時に小さくないリスクを背負ったことにもなる。



 周囲を警戒するが、他に襲ってきそうなモノの気配はない。


 長柄を回収し風呂敷を解く。


 中の箱から剥ぎ取り用のナイフを取り出し、討伐証明である左耳を切り離す。


「死体損壊のイメージが強いな」


 山中の修行で、自分で獲物を捌くのは当然であったし、人型を殺すことにも忌避感は生まれなかった。


 しかし、人型の死体から耳を切り取るという行為には、少なくない忌避感が纏わりつくことに、感じる孝太郎自身が驚くのだった。


「耳以外に取るものもないか。そういえば魔石とか在るのか?」


 一体を目の前に解体するか悩む孝太郎。


「やめとこう」


 在ると判ればやるが、今ここでやるのは心の負担が大きいと思った故の判断だった。


 耳の切り落としだけでも忌避感を感じた程である。


 人型ではない獲物の時に確認しよう、そう自分を納得させる。


 木箱の中に切り取った耳を入れると、紐で長柄へと括り付ける。


 箱の中の調理用ナイフは出され、パンや干し肉と一緒に風呂敷の中へと収まっている。



 その後、孝太郎は一度森の入口まで戻ってみた。


 来た道を辿るでもなく、方向だけ定めて進む。


 森に踏み込んだ場所と寸分たがわぬ場所へ出た。


 山篭り修行を何年も経験している孝太郎の能力の一端である。


 これで、位置が大きくズレるようであれば、孝太郎の培った感覚が役に立たない世界であるか、森自体の磁場やその他の乱れなどによって、樹海のような人の感覚を迷わせる効果があることになる。


 今回の実験で、孝太郎の感覚はこの世界でも十分に使えることと、人を迷わせる何かがあるこ確率は低いことが予想できた。


 大丈夫だと判断した孝太郎は、再度、更に森の奥深くまで踏み入って行く。


 ゴブリンの姿を求めて森の奥へと歩を進めていると、茂みの向こう側に気配を感じる。


 更に近づいたところで、突然の雄叫びとともに気配の主は茂みを飛び越えて殴りかかってきた。


 気配が読まれている時点で奇襲には成り得ない。


 孝太郎は、軽やかなバックステップでそれを躱す。


 襲ってきたのは、先程の人型と同様に緑色の肌をしているが、その身体は比べ物にならない程巨大だった。


 さっきのゴブリンの上位種か、はたまたこれがゴブリンなのか。


 そうなると先程倒したのは何かということになるが、ゴブリンの姿を知らないのだから、出会った敵は全部倒すしかない。


 長柄を立木に預けると、飛苦無を構える。


「見敵必殺ってね」


 大型の緑肌は、木の根で作られたような木製の棍棒を振るっている。


 身長差を利用した上段からの一撃は、当たれば骨折では済まなそうである。


 大型の緑肌が次の一撃を放とうと振りかぶったところで、孝太郎は一瞬動きを止める。


 次の瞬間には、それまで以上の速度で脇をすり抜けざまに膝裏への斬撃を加える。


 振り上げた棍棒を振り下ろすこともできずに振り返る大型の緑肌。


 しかし、孝太郎は棍棒の間合いの外まで距離を取っている。


「ち、浅かったか」


 膝裏の腱を狙った斬撃だったが、思ったよりも皮膚が堅く、切断には至らなかったようだ。


 しかし、確実にダメージは与えられているようで、動きが目に見えて悪くなっている。


 もう一度目の前で動きを止めて見せる孝太郎。


 大型の緑肌は、先の攻撃で懲りたのか、振りかぶらずに横薙ぎに殴りつけようと棍棒を振るう。


 地面を滑るように、横薙ぎの棍棒をくぐり抜け、先程とは逆側へ回り込み、膝裏へ飛苦無を刺し込む。


 斬撃では浅かったので、刺突に切り替えたのだ。


 これは流石に浅いということはなく、大型の緑肌は膝を折る。


 その瞬間には、孝太郎の次の刺突が頸部を抉っていた。


 膝を折った勢いのまま前へと倒れる大型の緑肌は小型のものより派手な音をたてた。


 生命力が強いと見えて、暫くは起き上がろうと藻掻いていたが、頸部から流れ出る緑色の体液の量が減ってきた辺りで動かなくなった。

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