第9話 酒場 〜孝太郎の事情
やっと10話目です。
よろしくお願いします。
1階へ降りてきた孝太郎は、空いているテーブル席へと着く
部屋まで案内してくれたウエイトレスを見つけ尋ねる
「いらっしゃい。何にしましょう?」
「肉料理と飲物を貰おうか。お勧めは何かある?
「野牛の煮込みか焼いたものがお勧めですよ。飲み物はエールが良く出ますね」
食べ盛りの孝太郎としては、煮るという選択肢を選ぶ余地はない。
一方、エールというものは、酒の類であろうことは想像がつく。
この世界で、自分の年齢は果たして成人に達しているのか疑問に思うが、この世界の成人の年齢を知らない事に気付く。
そもそも飲酒に年齢制限があるのかどうかも知らないのである。
「焼いたものとエールを頼む」
赤毛で三つ編みのウエイトレスは、ペコリとおじぎをすると厨房へと向かい、オーダーを告げた。
元の世界でのファミレスやファーストフード店でのオーダーの繰り返しに慣れている孝太郎には些か不安を感じる対応だ。
エールはすぐに出てきた。
舌先で、ちろりと舐めてみる。
味見と言うよりは、ほぼシッピングである。
薄い褐色の液体は、甘味とこくがある。
炭酸も弱く、泡も僅かしか立っていない。
アルコールの強さまでは、経験不足で分からないが、1杯や2杯程度ならば酔っぱらって動作に問題が出ることはないだろう。
ある種の覚悟を決めた孝太郎は、ジョッキを煽り、満たされたエールの半分を流し込む。
「いい飲みっぷりだな兄ちゃん」
隣の席にいた二人組に声を掛けられる。
二人とも小肥りの中年男性で、酔いで顔が赤くなっている。
「見たところハンターかい?」
「ええ、まだ駆け出しですが」
孝太郎は偽りのないところを返す
「そうか、俺達も元ハンターだったんだがな、今は行商人だ」
「へえ?何を商っていらっしゃるんです?」
「おお?あんたハンターらしからぬ口をきくな」
「商ってらっしゃるてえ程の物はねえが、街で仕入れた物を辺境の村で売り、辺境の村で仕入れた物を売る何でも屋だ」
「でも辺境の村にはなくてはならない方々じゃないですか
「おお!そうなんだよ」
「正直、街で店を開く資金ぐらいは貯まってるんだが、俺達が開拓したルートを任せられる奴がいねえ。」
「元ハンターとかじゃないとな」
「護衛依頼とかあるじゃないですか」
「辺境の村へ行って帰って10日以上だ。その分を商品に上乗せしたら、売れる物も売れなくなっちまう。護衛を雇わなくても自分達だけで行って来れる奴らがいればいいんだがなぁ」
「とはいえ、俺達も寄る年波って奴で、いつ迄続けられるか判らんしな。兄ちゃん、誰か心当たりはないか?」
「残念ながら、今のところは。そう知り合いも多くなくて、すいません」
「いいんだよ。兄ちゃんが謝ることじゃない」
その後も、孝太郎の料理が出てくるまでの間、二人組と取り留めのない話をして過ごす。
その中でも、この街を出発する時に必ず買うという保存食としてのパンの話や、辺境から仕入れる干し肉の中で一番美味いのは何処の店に卸しているなどの情報は、今の孝太郎にとって有益なものだった。
孝太郎のテーブルに料理が運ばれてくる。
野牛を焼いたものだ。
野趣溢れるとはこの事か、夜営地で食べたフェルの料理よりある意味ワイルドである。
どこの部位かは分からない牛肉が不揃いに切られ、3枚重なっている。
ソースの類などかかっていはいない。
味付けは、荒く削り出した岩塩のみ。
胡椒などの香辛料はこの世界に無いのだろうか、などと考えながら肉の塊と格闘する。
味覚的にはやや不満が残るものの、胃袋的には満足のいく一品だった。
食べ終わった孝太郎は、未だ談笑しあう2人組の男に挨拶をして自室へと戻る。
固めのベッドに仰向けになる。
エールのせいか、元の世界の事が遠い昔のように感じられ、無性に懐かしく感じる。
こちらの世界に転移する直前のこと。
元の世界で世話になった様々な武技の師匠達こと。
学校のクラスの仲間とは、余り深く付き合った記憶がないが、クラスのイベントには毎回誘ってもらっていた。
そういえば、転移する直前にも海に誘われた。
育ててくれていた叔父夫婦のこと。
妹のこと。
「栞は元気でやってるかな……」
孝太郎には事情があった。
孝太郎は、この世界に来て忍者として生きていく事を決めていた。
忍者、いわずと知れた戦国時代の戦闘集団である。
体術、剣術は言うに及ばず、必要によって情報操作まで行う戦闘のエキスパートが忍者である。
太平の世になり、忍者はその数を減らした。
また、明治維新からの近代化によって、忍者はその役割を終え、歴史の中に消えていった。
しかし、いくつかの流派では、科学の進歩著しいこの平成の世まで、その持てる技を継承し続けていた。
歴史や経済の裏側には、裏側のルールがある。
その裏側で活躍している者の中に、少数だが確実に忍ぶ者は存在していた。
祖を辿れば安土桃山時代まで遡れる忍の一族、それが孝太郎の一族だった。
中でも孝太郎は、嫡流に数十年ぶりに生まれた男子であったため、一族は歓喜し、その持てる技の全てを彼に伝えようとしていた。
思い出してみれば、物心つく頃には、遊びといえば修行の要素の入ったものであった。
テクスチャ柄の布を使ってのかくれんぼや、1メートルの高さの壁の上を走る鬼ごっこは、一般には異常の範疇に入るだろう。
小学校に入ると、一族の営む道場に通うようになった。
月水金曜は剣道、火木土曜は拳法であった。
しかも、孝太郎が通う時間帯は、道場に他の門弟はいなかった。
孝太郎一人を師範自らが稽古をつけるという徹底ぶりであった。
小学校高学年の頃には、孝太郎の身体能力は同級生のそれを大きく上回っていた。
その頃になると剣道や拳法の道場では、春休みやゴールデンウイークを利用して、全国に他流試合に行くようになった。
そして、夏休みに始まったのが『山籠もり』である。
山菜や茸の採取にはじまり、渓流での魚釣り、飛礫や罠を使っての猟と獲物の解体といった食料の自力確保と、普通に暮らすのには必要のない技能も身に付けていった。
当然最初から一人でできるわけもなく、父親から教わりながらの修行であったが、本人はちょっとハードなキャンプぐらいの認識しかなかった。
孝太郎を取り巻く状況は、彼が小学校五年生の春に更に変化した。
父親が亡くなったのである。
交通事故だった。
母親は、彼の妹を出産してしばらく後に既に亡くなっており、彼と妹は伯父にあたる人物に引き取られた。
伯父の家の子供達は既に独立しており、実の子と同様に育てられていた。
親戚とはいえ、他人の世話になるのは心苦しい気持ちも幼いながらにあったのだが、件の一族である、とある条件の元に大学卒業までの生活と学費の全ての面倒をみると約束してくれた。
その条件というのは、修行の継続である。
この瞬間から、彼の修行は彼と妹の生きるための糧となった。
彼が修行をすることにより、彼と妹の生活が保証されるのだ。
これが、孝太郎が抱える事情である。
幼い頃からの修行漬けの毎日で、親しい友達ができる訳もなく、友達と呼べる存在はいなかった。
中学に上がると、身体能力も更にあがり、同時に同年代とのその格差も著しいものとなった。
体育の授業などでは実力をひた隠しにして、平均的な成績を心掛けた。
学業の方はというと、実力を隠す必要もない程度の成績であった。持っている知識は膨大であったが、一方向に特化し過ぎていたためである。
この頃から、友人がいない事に焦りを感じはじめるが、同年代と共通する趣味もなく、修行漬けだ時間もない孝太郎は、学校では相変わらず独りだった。
自由になる時間は、友達と遊ぶという選択ができない時間帯であった孝太郎が、次第にゲームやコミック、ラノベなどに心の拠り所を求めるようになったのも無理からぬことであろう。
妹の事を気に留めながらも、あの一族の娘として育てられたのだからと心配には至らない。
元の世界のあれこれを懸想している間に、何時しか孝太郎は眠りに落ちていた。
作者が思ってる以上に物語が動きません。
どうしたものでしょう?
ブックマークしてくださった方がいらっしゃいます。
ありがとうございます。
他の作者様の書かれていた、モチベーションが上がるという意味が解りました。
相変わらずストックはありませんので、今から次話を書き始めます。




