第0話 プロローグ
その日、ハンターパーティー「創造の槌」の一行は、素材を集めに来た地下迷宮でイレギュラーを引き当てていた。
「創造の槌」は、中央大陸ミドラスの北東部に位置するロードリア王国のカフェルという街を拠点とするハンターパーティーである。
中級に区分されるそのパーティーの特徴は、その成り立ちと編成にあった。
成り立ちとしては、五人のメンバー全員が生産系の本業を持っていること。
生産系の本業の材料費を浮かせるために、仕入れの一部としてハンター稼業をしている。
そのため、ハンターを本業としている者とのハンターとしての稼ぎの差はいかんともしがたい。
しかし、長年の積み重ねにより、中級に区分される程度のランクに達していた。
編成としての特徴は、メンバーの中にエルフとドワーフがいることだ。
その数が極端に少ないエルフがメンバーにいることに加え、ライフスタイルがほぼ対極にある両者が同じパーティーにいるというのは、かなり珍しい事と言えよう。
しかしながら、前衛としての能力に秀でるドワーフと後衛としての能力に長けるエルフの二名がいることで、パーティーの地力は二、三段底上げされているのは事実であった。
一行は、素材集めの最後に、ドワーフが必要としている鉱石の採掘場所へとやってきていた。
地下迷宮の中でもやや深い場所にあって、どん詰まりとなっているその場所は、ドーム状の空間になっており、それなりに広い。
この場所の問題点は、自分達が入ってきた通路以外に通路が無いことである。
以前にも、3匹のケイブエイプと呼ばれる猿人型の迷宮モンスターと遭遇し、激闘の末生還したこともある。
今回の探索行でも十分な素材が既に確保され、一番重い鉱石の採掘が終われば地上へと戻る予定であった。
しかし、一つしかない通路方向から迷宮モンスターが近づく気配を斥候役の狐獣人のスカウトは感じ取った。
「通路から何か来る。大型が一匹」
「ケイブエイプか?採掘は一旦中止、戦闘準備じゃ」
しかし、一行の目の前に姿を現したのは、見慣れたケイブエイプではない。
丸太より太い四本の腕を具え、その身を金色の装飾品で飾った見上げるような巨体。
ケイブエイプの上位種キングケイブエイプ。
「な、なんだってこんなやつが。こんな浅いとこで出るような奴じゃないだろ!」
呪詛にも似たつぶやきを漏らしつつ、全員が戦闘態勢をとる。
しかし、戦闘の趨勢は初撃で決した。
キングケイブエイプの放った一撃は、最前列で盾を構えたドワーフの戦士を横殴りにとらえ、その体を壁面まで吹き飛ばした。
壁まで飛ばされたドワーフは、なんとか壁を蹴るように着地する。
その衝撃は頑丈なドワーフにしても大きすぎた。
一旦は地面に立つが、その場に崩れるように倒れる。
狐獣人のスカウトとのもう一人の戦士が牽制する間に、エルフの神官と錬金術師の魔法使いがドワーフに駆け寄る。
「足をやられた。骨だ」
エルフの神官と魔法使いは、ドワーフを壁の僅かな窪みへと引きずっていった。
魔法使いは、その窪みを利用して、魔法による障壁を展開する。
障壁の発動直前に、牽制していたスカウトと戦士が滑り込んできたのは、長年組んだパーティーの功と言えよう。
「とりあえず障壁を張ったが、長くは持たんぞ」
エルフの神官の治癒呪文で足の負傷は治せるかもしれない。
しかし、その間に障壁は破られるだろう。
障壁が消えてしまえば、その後は誰かを犠牲にして、誰かが生き残るという手段しか残っていない。
「創造の槌」には、唯一現状を打開できるかもしれない切り札があった。
エルフの神官の持つ「エルフの秘宝」にして「遺なわれた魔法」でもある召喚魔法が込められたオーブと呼ばれる宝珠がそれだ。
一度使うと、一月は魔力の充填が必要ではあるが、強力な神獣を文字通り召喚することができる。
「やむをえません、オーブを使いましょう」
エルフの神官が、オーブを使うのはこれが初めてというわけではなかった。
「創造の槌」のメンバーは、過去に何度も、このオーブによって危機を免れた事があった。
兼業ハンターでありながら、全員が中級まで生き残ることができた最大の理由でもあり、パーティー最大の秘密でもある。
「頼む。すまんな」
「しかし、今回はこちらの身動きが取れません。倒しきれないかもしれませんよ」
「その時はその時じゃ。動けんワシが殿を務めるわい」
エルフの神官は、頷くとオーブを取り出し、その力を解放する。
円形の魔方陣が浮かび上がる。
その魔方陣から光の柱が伸び、その光量を増す。
一瞬の後、更に光は膨れ上がり、一際眩く輝くと、それは集束へと向かう。
光の柱が消えた後には、青白く光り輝く巨大な狼の姿があった。
神獣エルダーフェンリル。
この世ならざる世界に住まい、古の契約に基づきエルフを助ける者。
その爪と牙は敵を切り裂き、その咆哮は敵を縛ると伝えられる。
しかし、その巨体をもってしても、眼前の敵の大きさには遠く及ばない。
加えて、召喚したパーティーは戦力となれず、エルダーフェンリルのみでの撃破が必要である。
全員が生きて迷宮を出られる確率は、そう高いものではないと、パーティーメンバー全員が考えていた。
しかし、オーブの力を解放した神官エルフは以前の違いに気付く。
「あれは……?」
エルダーフェンリルの傍らには、初めて見る発光体があった。
その発光体は、人の形をしており、エルダーフェンリルの体と同じ色に光り輝いている。
いったい何者なのか。
神獣と共に顕現するとすれば、精霊か神の類なのかもしれないが、古からの口伝にもその様な者は伝わっていない。
「急いでくれ、あまり長くは持たんぞ」
障壁を張る魔術師の声に、エルフの神官は祝詞にも似た叫びを発する。
「神獣たるエルダーフェンリルよ、古の契約に基づき、その力もて敵を討ちませい!」
その言の葉により、エルダーフェンリルは遠吠えを放つ。
パーティーの周囲にそれまでのものとは比べ物にならないドーム状の障壁が張られた。
更にエルダーフェンリルは、その巨体を宙に躍らせ、その牙と爪をもってキングケイブエイプに襲い掛かる。
一方のキングケイブエイプは、それを迎撃しようと縦横に四本の腕を振り回す。
エルダーフェンリルの爪や牙は、致命傷こそ与えることはできながったが、キングケイブエイプの体に少なくない傷を作っていく。
しかし、パーティーはエルダーフェンリルが発するセリのような呻き声を耳にする。
その牙で首を狙いに行った跳躍を、キングケイブエイプの棍棒が捉えたのである。
大きく飛ばされたエルダーフェンリルは、壁面を四脚で蹴って激突のダメージを緩衝して着地する。
その隙を逃すまいと、迫撃をかけようとするキングケイブエイプ。
その時、それまで動かなかった光る人型が動いた。
その手から放たれた刃物は、ほぼ直線でキングケイブエイプの頭部へと飛んでいく。
しかし、気配を察して振り返ったキングケイブエイプの頭部の飾りに弾かれてその軌道を変え、迷宮の石壁に刺さって止まった。
邪魔をするなとばかりに、光る人型にむけ威嚇をするキングケイブエイプ。
その瞬間、エルダーフェンリルの遠吠えのような咆哮が響く。
相手の動きを縛る効果がある咆哮だ。
過去の戦闘では、火力を集中してたたみかける場面であったが、現在の「創造の槌」の面々は、このエルダーフェンリルの作り出した隙を上手く使えない。
パーティーの全員がしまったと感じたその時に、件の光る人型は四本の光を放つ。
その光は、先程と同じ刃物の投擲であった。
しかし、その飛翔する速度は遥かに速い。
四本の光は、それぞれ眉間、左眼、人中、喉の中央を捉え、刃物の柄まで深々と刺さった。
一瞬の静寂のあと、キングケイブエイプはよろけると、仰向けに倒れて大きく痙攣し、二度と動くことはなかった。
どうやら「創造の槌」は、今回も一人も欠けることなく地上へ戻れそうである。
◆◇◆◇◆
同じ頃、暗黒大陸とも呼ばれるノヴェラ大陸のとある場所で、長きに渡って失伝していた魔法が発動した。
召喚魔法。
エルフの一族が、宝珠と呼ばれる秘宝を使って時空を超えて強力な存在を呼び寄せる召喚術と呼ばれる秘術を使えることは、ごく一部の者には知られていた。
しかし、同様の効果を生み出す魔法としての召喚魔法は、古の魔法書にその存在は確認されているものの、その魔法の法則を知る者は皆無だった。
「ふむ。とりあえずは成功したか。だが課題も多い……」
術者の呟きの傍らでは、異世界から召喚された異形の魔物、その何本もの触手はぬらぬらと灯りを反射しながら、明らかに意思を持って蠢いていた。
投稿はじめました。
プロットはありますがストックはありません。
不定期投稿になると思いますがよろしくお願いします。
2017/1/29 表現を一部修正 誤字脱字句読点を修正




