立飲み屋について
サッと寄れて、パッと飲める。立飲み屋はオヤジの心のオアシスです。
渡り鳥が枝に止まって一息つくように、仕事に疲れたお父さんが、家に帰る前に少しの憂さを晴らす。家庭に不和を持ち込まない、社会の潤滑油としても、程よい働きをする……そんな尊き場所、その名は立飲み。
立飲み屋に行きたいけど、何となく行き辛い方もいらっしゃると思います。かくいう私も、三十を超えるまでは、何となく行き辛かったですね。
でもサッと飲みたい時ってないですか? 暑〜い日中、これといって用事はない。かといってどこかで腰を据えて飲む気もしない、そんな時。キンキンに冷えたビールとつまみをサッと出してくれる。そんな優れものが、街にはあるのです。それが立飲み屋ですね。
さて、駅前のそこそこ流行ってる立飲み屋に入り、カウンターのお兄さんに、
「生一つ」
と頼んで、何かつまむもの……と、ここで迷う方もいらっしゃるでしょうか? そんな方には〝どてやき〟をお勧めしたいです。
これは完全に私の好みですが、牛すじの味噌煮込みが嫌いな方は、そうそう居ないと思うのです……でもないか?
まあそこは頼んでもらうとして、もう一つ頼んで貰いたいものが有ります。それはコロッケ。無かったら、フライ系の揚げ物一品。これは是非どてやきと一緒に頼んでいただきたい。
まずどてやきはすぐにやってくると思います。常に煮込んでますからね。それをつまみつつ、ビールを軽く一杯はいけるでしょうか? そしてお代わりを頼む頃には、どてやきが食べきってしまうと思います。だから二本は頼んで貰いたい。
そうして食べつ飲みつするわけですが、コロッケというのは、案外調理時間が長いものです。
下手をすると、どてやきを食べきってしまいそうですが、そこをまたグッとこらえて、一欠片だけは残しておいていただきたい。そうしないと食べきった皿は片付けられてしまいますからね。
そうして死守したどてやきの味噌を、やってきた揚げたてアツアツのコロッケに絡めて食べて貰えば……もう言うことは無いですね。美味いに決まってますね。
ええ、こうなってはビールでも、レモンハイでも、なんでもござれですよ。
そんなこんなのめくるめく立飲み屋アワーを過ごしても、たったの十分そこら。
合間に何をするかって? 私は何もしません。忙しく立ち回る店員さんの手技をニヤニヤと見守るか、隣で話し込むおっさん達の会話を聞くとはなしに聞くか、テレビなんてあった日には、それをボーッとみてますね。
そうして事件なんかがあって、犯人でも捕まろうものなら、
「やっぱりね、こいつが犯人だと思ったよ」
なんて適当な事を言って、隣のおっさんと談笑するも良し、芸能スキャンダルをつまみに、
「こんなん見て喜ぶやつの気が知れねぇなあ」
なんて言いつつ、ガン見するも良し。近くのおっさんは、ほんの少しの事でも喜んで話題にのってくれるでしょう。なにせここはおっさん達の心のオアシスですからね。
オープンマインド、しかめっ面の親父も、案外乗りは軽いものです。
もしあなたが女性ならば、モテる事請け合い。なんならビールの一杯もおごってもらえるかも知れません。
そんな時は気持ちよくおごられて下さいませ。お返しは笑顔くらいで充分です。なにせオープンマインドのオアシスですからね。