暗闇のカッパ軟骨
家飲み会の後で、部屋を支配する闇。食洗機は脂っこい皿を泡だて、その隣のテーブルには空き缶の整列。皆が寝静まり、それでも飲み続ける私の手元には、開けようかどうしようか、悩むふりの缶酎ハイと、冷えたヒザ軟骨が三切れ。
スマホの明かりに照らされた、事件現場で発見されたようなヒザ軟骨は、陶器のかすれた音を経由して、熱を持った口に運ばれた。
すでにビールやら日本酒やら、ワインやらを飲み干して、良い感じを通り越して、今は凪いでいる。
やはり酎ハイを開けた、甲高い音を気にしつつ、ヒザ軟骨を噛みしめて、その塩気を炭酸で洗い流す。
肉の脂を炭酸で洗う、という感覚は「パルプフィクション」という映画で、サミュエル・L・ジャクソンが、カフナ・バーガーをスプライトでウォッシュする、と言ったあれから、私の脳裏にこびりついている。
それにしてもヒザ軟骨である。骨が美味いってどうよ? 味なんてあるのか? でも骨周りの肉は、味わい深い。リブステーキなんて、旨味の塊だ。
でも軟骨のコリコリは、それだけで飲める伝統と格式を感じる。飲み屋のレジェンド・おつまみといっても過言ではあるまい。
軟骨飲み会というイベントを起こしたいほど、軟骨の魅力は飲み助達を魅了する。
それにしても、暗闇で静かに食べるカッパ軟骨……一筋縄ではいかない。まず爪楊枝で刺そうとしても、チュルンと逃げていくのである。ましてや暗闇、ましてや酔っ払いである。
何回も軟骨を刺そうとして、逃し、諦めて酒を飲み、再チャレンジして、逃し、諦めて手で掴み食う。
爪楊枝を頑なに拒んだ骨は、歯の前にすぐさま降伏すると、その身に降りかかった塩コショウで、酒を誘引する。
一口、二口飲んで、噛み続けた軟骨は無くなりかけた。そこに思い出したかのような歯ごたえをあらわすのが軟骨である。その微かなツマミをアテに、暗闇酒は進む。
視界には人の飲んでいた残り酒。もう少し飲もうか。




