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車海老サーガ

 活き車海老に因縁ありーーそれは正に戦記サーガと呼べる、静かなる台所王国を揺るがす、一大叙事詩であったーー


 ついにこのエッセイにつけたタグ〝残酷な描写あり〟の真価を発揮する時が来た! いざ紐解かん、呪われしわが台所王国に封印せし円環の理を。


 ……とまあ、煽るほどの事では無いんですが、贈り物などで活き車海老などが届くと、そこから格闘が始まるわけです。


 活き車海老、それは一般家庭に来て困る、三大〝活き食材〟の一つと言えるのではないでしょうか?


 残り二つはサザエとホタテでしょうか。そこら辺の設定は甘いですがご容赦を。よく見ると結構グロいし、殻は硬いし、ホタテなんて指を挟まれたり、身の危険もありえます。水も吐かれるしね。


 サザエも困ります。私はコリコリのサザエの刺身が好きなんですが、生きてる奴をなんとか引きずりだそうとした事はありますか?


 あれは……出る訳ないですね、刺身をとるには砕かないとダメなんでしょうか? それともコツがあるのかな? 超濃い塩分の水にいれるとか? なんにせよ、


「俺はお前を刺身にしたいんだっ!」


 という私と、


「生きる、生きる、生き延びる!」


 と身を縮めるサザエとの間で、生存競争が起きる訳ですよ。その力たるや、蓋に挟まれた指が、赤くなるほど強いです。


 諦めた私は、全部をグリルに入れて、〝残酷焼きの刑、醤油まみれ地獄〟という最終判決を下して、無事にチュルンと肝まで出されたコリチュルのそいつで、日本酒をいただく訳ですが……殻に残ったおつゆをいただきながら、


 〝あゝ、また刺身にできなかった〟


 という、一抹の敗北感も脳裏によぎる訳ですね。その点ホタテなんかはまだ取り組みやすい敵な訳ですが、生き物をさばくあの手応えは、普段切り身等しか扱わない現代人たる私には、結構な負荷となる訳です。


 でも家族の手前〝こんなんもできんのか、どれ父ちゃんに任せておきなさい〟という虚勢は崩せずに、海産物をさばく訳ですね。本当は一番ビビってるくせに。


 さて、ここで活き物三羽ガラスの長兄たる、活き車海老の登場です。こいつが一番活きが良い。


 発泡スチロールのケースにおが屑に包まれて届く車海老。初めてこれを手にした時は、跳ねるエビによって、台所から床までまんべんなくおが屑だらけにされてしまいました。


 おが屑は水に触れると、手にまとわりつくわ、流しは詰まるわ、散々な目に合う訳です。さらに海老の生臭さが移っていて本当に困る。


 最近では大きめの袋を用意して、そこにドサッ! とおが屑ごとぶちまけ、そこに手を突っ込んで、車海老を冷水にポンポン入れる事にしています。


 なぜ冷水か? それは、仮死状態にするためです。この行程をしなかった時は、跳ねる車海老にビビる俺、ワチャワチャと抵抗する姿は、まるでエイリアンか、遊星からの物体X。当方はヤラレ役のモブおっさんな訳で、さばくのに腰はひけ、結局姿焼きか、酒を垂らしての残酷蒸しという、ざっくり料理にもっていくしかなく、選択肢を失うはめになります。


 やはり車海老の数だけ、色んな料理を食べたい! 生はもちろん、天ぷら、頭の素揚げ、エビしゃぶや中華炒めなんかも良いですね。


 贅沢なところでは、殻を炒めてスープを作り、それでカレーを作って、エビを軽く焼いたものをトッピングするなんて事もしたいです(スパイスは、無印良品のカレースパイスミックスが好きです。辛いもの好きの私には、辛味パウダーが丁度良い。頭皮から滝のような汗が吹き出ます)これなんか生で食べられる海老を敢えて加熱する贅沢感に心が震えますね。


 さて、冷水で仮死状態になった海老達を、今度は殻を剥いていく訳ですが、これがまた手強いんです。

 何せ活きですからね。殻の身離れが超絶悪い。


 最初にこれに取り組んだ時は、あまりの身付きの良さに、取り出した身はボロボロ、エビの残骸と化してました。〝それでもお父ちゃん、暴れるこいつらに一歩もひかず、頑張ったんですよ?〟という言い訳をグッとこらえて、握ってる時間が長すぎて、ぬるみが出た車海老を見つめたものです。


 そうして何度も対戦した現在、奴らの防御の核たる甲殻鎧を剥く方法は進化をとげております。

 なんだかんだといって、大好物だから、機会があったら買ってもらってるんですよね。従って経験値も溜まり、レベルも上がっております。


 氷水から取り出すと、おもむろに足を全部掴んで捥ぐ! さらに第三関節に下から指を入れると、一気に上へ下へと殻をムキムキ。


 そうして頭部と足、殻などの出汁組、身の部分とに分けられた車海老は、爪楊枝で背抜きをされて皿に並べられる訳です。


 ここで攻守交代、マイワイフが、手際よく揚げ物等の準備を始め、私はつまみ食い用に貰った刺身にワサビをタップリとそえて、ソファーにどっかりと身を沈めるわけです。


 長かった死闘にエビの角がささり、指の一部はヒリヒリとしていますが、それもまたご愛嬌。


 プリプリのエビ身を味わいながら、純米酒をキューッとやれば……あの抵抗と、狩猟本能に沸き立った魂、そして命をいただく有り難みを、純米酒の神様がホンワリと包み込んでくださるという訳ですね。


 そこに届く海老天、頭部と足の素揚げ、追加の刺身に蒸し海老。なんならそこへ海鮮カレーライス。テーブルは車海老パーティー会場と化し、贖罪しょくざい食祭しょくさいへとステージを変え、我ら一家は断罪の天使となってにえを喰らいつくし……新たなる車海老戦記(サーガ)が刻まれます。

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