娼婦風パスタ(プッタネスカ)
色々所用を済ませた休日の午後、子供二人を置いて、奥さんが美容室に出かけた。
この状況、大歓迎である。奥さんにとっては、偶のお出かけ。乳幼児を抱える母にとって、自分の事に時間を使えるのは相当貴重な事だ。
これでだいぶポイントを稼げると、俺も嬉しい。何せ今月は何故か外飲みの予定が重なっているのだ。私だけ出かけるのはしのびない。
ヤンチャな長男と遊びながら、ぐずる長女を抱っこして寝かしつける。しばらくして疲れた長男も指をしゃぶりながら、抱っこの催促をしてきた。
二人を寝かした頃には、もうすぐ奥さんが帰ってくる。そこでもう一つのプチ・サプライズとして、奥さんの好きなパスタ料理を作ろうと、冷蔵庫を開けた。
目に付いたのは、だいぶ前に買った黒オリーブ。私は緑のフレッシュなオリーブ漬けで酒を飲むのが好きだが、セット売りの黒オリーブは、どうにもツマミとして物足りなく、放置されていたのが10粒強。
早速スマホで「パスタ 黒オリーブ」と検索すると、何百件ものレシピが出てきた。
それを何気にスクロールしていく。なになに? ジェノベーゼソースが一位か、しかし我が家にそんなシャレオツな一品はない。
と、そこで娼婦風パスタ(プッタネスカ)というレシピが目に止まる。しかもそこにはJOJO第四部に出てきた、トニオのレシピを再現とある。
かの億泰が涙をちょちょぎらして食べたパスタが再現できる? これは取り組むしかあるまい! と用意する具材をチェックした。
そこには、パスタ 200g、ホールトマト 1缶、黒オリーブ 10粒、にんにく 2斤、アンチョビ 4枚、鷹の爪 1本、オリーブオイル 適量、塩 適量とある。
アンチョビ……無いな。ここはベーコンの細切りで代用だ。鷹の爪は子供がたべられないからなしにして、後の材料は有る。
うむ、これはいける、いけるぞトニオォォ!
謎テンションのまま、湯を沸かし、塩を投入。そこにスパゲッティーを入れて、10分茹でる。間にソースの作成だ。
オリーブオイルに刻んだニンニクとベーコン。これを炒めている間に、オリーブの漬け汁を切って、ホールトマトをボウルに移し、適当に潰す。
ニンニクがきつね色になってきたところへ、ホールトマトを投入、続いてオリーブも投入した。
あれ? かなりシャバシャバだぞ? こんなに水っぽくて良いのか? と煮詰めようとしたところで、タイマーがピピピッとスパの茹で上がりを知らせる。
私は茹で過ぎた麺類が大嫌いだ。伸びるのが嫌だから、ラーメンの時は、家族が揃わなくても一人食べ始めるほどである。
ええい、ままよ! と意を決してパスタをソースに投入! しばらくなじませていたら、何とも美味そうな色艶になって来た。そこへ、
「あら美味しそうね!」
と帰ってきた奥さんの髪型を激褒めして(嘘じゃ無いんですよ? ただ一割増しでテンションを上げただけで)出来上がったスパゲッティーを皿に盛り付ける。
今日の晩メシはこれだけ! さて、冷蔵庫のビールでも開けて……という段になって、驚愕の事実がっ!
何とビールが一本も冷えてないのだ! おう、なんてこったい! 我が家にはワインなんてシャレオツな液体がある訳もなく、棚には少量買い置いてあるぬるいビールが二本あるのみ。
それを掴みつつ、しょうがない、久しぶりに氷ビールをやるか。と、若干肩を下げながら食卓に向かうと、奥さんが、
「私は炭酸にこれね」
とカルピスを注いでいた。ふ〜ん、カルピスか。なんだか氷を入れたビールよりは美味そうだな……なんて考えていると、気が変わった。
買い置きの甲類焼酎を取り出すと、自分のグラスにもカルピスソーダを作り、焼酎を注ぐ。いわゆるカルピス・ハイってやつだ。
普段あまり甘い物で割らないが、久しぶりのカルピスの匂いも悪く無い。
それを一口やりつつ、アンチョビをベーコンで代用した、インチキ・プッタネスカを一口頬張れば……美味い!
普段はあまり成功したことの無いパスタが、これほどうまく作れるとは。あれか、ソースの汁気が勝因か。
そこへ粉チーズとタバスコを振りかけて食べる。カルピス・ハイをグビグビ。オリーブを絡めたもう一口の余韻を、さらなるハイでシュワシュワと洗い流す。
日々是好日、パスタ開眼ばんざーい! とテンションも上がり、焼酎の濃度も上がってきたところで、急に胸が痛くなってきた。
甘いから飲みやすくてグビグビいくが、アルコール度数的にはビールの倍近いのだ。それを急激にいって胸が痛くなる、良くあるやつだ。
「ウググ」
と呻いて地面に丸くなる。それを見て喜ぶ嫁……まあこんな休日も悪くは無いな。
少し恐妻風に書いてますが、決して鬼嫁ではないです。そして少し素敵な旦那風に書いてますが、実際は残念オヤジです。創作物ですからね〜(´・Д・)」




