喫茶店のお兄さん
あれから3時間ほど経過した。
目の前には馴染みの風貌をした男がいる。勿論恋愛対象内ではない。
その人は今をときめく俳優と少し目元が似ている。雰囲気に関してはもろ被りだけど特に何も感じない。でもこれだけは言える。この人、深川純は間違いなく私の女友達が喰いつく部類。
頭の片隅でそう思いながら純さんのいれたコーヒーを飲んでほっと一息ついているとだ。
「優子ちゃん、クマすごいよ…」
前から思っていたけどタートルネックにエプロン姿の純さんは女子力が高い。
「純さんこそ、長髪やめなよ。飲食店のオーナーでしょ」
一端グっと黙るけど世話焼きの純さんは続ける。
「僕のことはいいの。せめてコンシーラー塗りなさい。せっかく可愛い顔してるんだからさ」
「はいはい。はーい」
「………」
呆れているようだ。
純さんとの付き合いは幼少期までさかのぼる。
私の両親は人づきあいが上手な人間でいつも人の輪の中心にいたリア充タイプ。一方で純さん一家は転勤族でどちらかというと優しすぎて損をするような惜しいタイプ。ある日、純さんのお母さんが近所の老害主婦にいびられていた。そのときに手を差し伸べたのが私の母でそれ以来、七草家と深川家は親交をもつようになったのだ。
純さんの風貌と性格はきっとお母さん譲りだと思う。一緒に近所で遊ぶたびに花冠を作ってくれたりピカピカの泥団子を作ったりと手先が器用で純さんの女子力の高さは嫌というほど見てきた。
「純さんのお母さんのくれるケーキって本当に美味しかったんだよね」
「何、藪から棒に」
「んーメニュー表見てたら思い出しちゃったの。お母さんは元気?」
純さんは苦笑して
「また老害主婦に目つけられてる。少しは耐性ついてきてるけどね」
「あはは。美人で人がいいから嫉妬されちゃうんだろうね」
本来なら私の母が仲裁してくれるんだけど、その母も数年前に亡くなってしまった。だからといって父が仲裁に入ったらよからぬ噂を流されるのは目に見えてる。
そして純さんは母が他界してることを思い出したのか少し気まずそうだった。
だからだろう、純さんが話題を変えてきたのは。
「…優子ちゃんはこれからどうするの?」