S版その1-4
「今だわ!!」
ベル・ホワイトは瀬里奈の前まで走り、彼女の手からマジカルソードを返してもらう!
「行くよ!! 最高必殺技!! 『ベル・ホワイトスペシャル』!!」
リリリーン!!
ベル・ホワイトの放った魔法による光の柱が疾風を包み込み、
「あ、が、がが……かの、じょ……」
ついに彼を沈黙させた!!
ポト……
そして、彼の欲望を増長させていた天逆衆の仮面が落ちる。そのまま疾風はバタリと倒れこんだ。それと同時に、疾風が吐き出していた蜘蛛の糸も消えていく。
「く……油断した!!」
瀬里奈の光に驚き、硬直していたヤミゴロモが悔しそうにそう言う。
「まだやる!? ヤミゴロモ!?」
「当たり前だ……!!」
再び対峙し、にらみ合うヤミゴロモとベル・ホワイト。だが、
「いいえ、ここは引いて下さい――」
シュワワワワワン……ッ
空間がゆがみ、三毛猫のような姿をしたヌイグルミ――やっぱり動き、しゃべる――が現れる。
「わ、またなんかでた!」
瀬里奈は倒れている疾風や女の子たちを助けるのも忘れ、目を丸くする。なぜかはわからないが、疾風が倒れピンチは終わったような気がする。
「預言者グレン・ナジャ、か……」
ヤミゴロモは、グレン・ナジャと呼ばれた猫のヌイグルミに対しゆっくりと構えを取る。
「今ここでお前を倒す……それがいいかもしれないなぁ。なあグレン・ナジャ……!!」
そう、威圧するヤミゴロモ。しかし――
「……帰りなさい天逆衆……帰ってあなたの仲間、カゲホウシとクロマントに伝えなさい。新たなる魔法少女が誕生した事を――」
「――!!」
ヤミゴロモはゆっくりとグレン・ナジャから視線を移動し、瀬里奈を見る。
「……なるほど、新しいワーボワールからの避難民を見つけたということか……これは、あの二人にも伝えたほうがいいな……」
そう言って来た時と同じように闇を集め姿を消す……
「ふぅ~~っ」
ベル・ホワイトは大きなため息をついて近くにあった椅子に腰を下ろす。
「ありがとうグレン・ナジャ! まさか来てくれるなんて!」
「いいえ、私がきたのはあなた方を助けるためではありません。彼女に会うためです」
「え?」
グレン・ナジャが、瀬里奈の前に移動する。
「私はグレン・ナジャ。ワーボワールから来た預言者です。由良瀬里奈……いえ、ロイヤルセレナ……」
「ロ、ロイヤルセレナ……?」
「え? じゃあ私の後輩って事? うれしいな!」
ベル・ホワイトが瀬里奈の手を取って喜ぶ。
「え、ええっと……」
困惑する瀬里奈。
「私が……魔法少女……?」
「……レオ」
「はいっ!」
グレン・ナジャの後ろから黒いヌイグルミのような姿をした生物が現れる。
「おいらはレオ! よろしくな! ロイヤルセレナ!!」
「ええっと……何なんだろう……? これ……黒猫?」
瀬里奈は黒いヌイグルミ、レオを指さしそう言う。
「失敬な! おいらは黒彪だよ!」
瀬里奈の目の前にやってきたレオは、目じりを釣り上げて怒ったようなしぐさを見せる。
「クロヒョウ……てか、展開が速すぎてついていけないんだけど……」
「てっいうか、本当にこの子も私達と同じワーボワール出身の、魔法使いなの?」
瀬里奈と同じように、ベル・ホワイトも信じられないようだ。
「……ならばこれを……これを使えば信じる事が出来るでしょう」
グレン・ナジャが瀬里奈に玩具のようなステッキを渡す。
「なにこれ? おもちゃ?」
「念じてみてくださいあなたの本当の姿を……」
「こういう風にやるんだよ『チェンジ』」
リンッ!
ベル・ホワイトが一瞬光り輝き姿を消す。
と、そこには媛崎中学の制服であるブレザーを着た少女が立っていた。首元にあるタイの色から瀬里奈より1つ上の学年、二年の女子生徒だとわかる。
「フフン……いい、この姿の時は白鈴愛美って呼んでね!」
ベル・ホワイト、いや、白鈴愛美はそう言って制服のままステッキをかまえる。
「いくよ……、魔力解放・変身!! 『ベル・ホワイトフルスロット』!!」
リンリンリン、リリ~~ン!!
白鈴愛美の全身が光を放ち、
「鳴り響くは純白の音色、希望伝える音を運ぶ正義の使者ベル・ホワイト!! ここに見参!!」
リリン!! ビシッ!! ダン!! ブギュ!!
得意げなポーズをとるベル・ホワイト。
「って、あれ……? ブギュ?」
「踏んでる、京極君を踏んでる!!」
決めポーズを取った時、そこに倒れていた疾風を思いっきり踏みつけていたベル・ホワイトだった。
とりあえず気を失っている女の子達や疾風をそのままにしておくわけにはいかないので、椅子に座らせる。
「あ、そうそう。その子たちにこのお守りを上げてください」
グレン・ナジャは小さなお守りをベル・ホワイトと瀬里奈に渡す。それはちゃんと気絶していた女の子達と疾風の分だけあった。
「それが魔法少女や我々ワーボワールの者達との絆となります。天逆衆が再び襲ってきても守ってあげることが出来るでしょう」
ヌイグルミの顔はわからないが、グレン・ナジャは笑っているようだった。
「さ、あなたも変身をやってみてロイヤルセレナ」
ベル・ホワイトが瀬里奈に変身を催促する。
「ええっと……」
「心のままにやってみたらいいんだよ」
「そうだ難しいことなんて何もない」
レオとパクも瀬里奈を見上げそう言う。
瀬里奈はさっき見た戦いと、ベル・ホワイトの変身を見て、魔法がある事をもう疑ってはいなかった。しかし、自分がそれを使うとなると別問題だ。
「やってみればいいのです。あなたにはその資格があるのですから。魔法の力を使うという資格が、ね……」
グレン・ナジャのその言葉で背中を押されたのだろう。瀬里奈は意を決して前を見る。
「魔力解放・変身!! 『ロイヤルセレナオーロラデビュー』!!」
キラキラキラ、バシュ~~ン!!
「光あまねく未来へ導く荘厳華麗な太陽の申し子、その名も尊きロイヤルセレナ! ここに推参!!」
ビシッ! バシッ!!
ポーズを決めた瀬里奈!!
「これが……私……ロイヤルセレナ……」
「そうです……かつて、ワーボワールが天覇の魔女ジョアンナに滅ぼされようとした時、平和だったこの世界に避難させられた赤ん坊達……そのうちの一人が、あなたなのです……ロイヤルセレナ」
グレン・ナジャが、ロイヤルセレナの額に手を当てる。
「まだ、ワーボワールの事を思い出すのは難しいのかもしれません……ですが、あなたの本当の世界の事を思い出し、きちんと我々の力……魔法を使いこなせるようになった時、ワーボワールに帰還することがかなうでしょう……」
「……」
グレン・ナジャに当てられた額から、ロイヤルセレナに少しづつ、魔法の知識が与えられてゆく……
「まずは、この荒れた教室を元通りにしてみなさい」
「え…? あ、はい……」
いろいろな事が起こって忘れていたが、ベル・ホワイトと仮面をかぶった疾風、そしてヤミゴロモとの戦いで、1年C組の教室はくちゃくちゃになっていた。
それを元に直すのは、かなり時間がかかりそうだ。しかし……
「魔法を使えば、すぐに直せる……」
「あ、やったのは私だから、私が直そうか?」
ベル・ホワイトが横から口を出す。
「いや、いいですよ先輩……私、ロイヤルセレナがやってみます」
ベル・ホワイトをさえぎり、ロイヤルセレナがステッキをかまえる。
「時の女神よ……この場にあるものを在りし日の姿に戻したまえ……『キュアー』……」
ポワポワポワワンッ!
教室中が淡い光に包まれ、机や椅子が元通りになってゆく。
やがて、倒れて気を失っている疾風を残し、全てが戦いが始まる前に戻っていった。
「ふう……」
「はじめてにしては上出来です」
「フフ……これからよろしくね、ロイヤルセレナ」
ベル・ホワイトが笑顔で後輩を歓迎する。
「はいっ! よろしくお願いします! ベル・ホワイト!」
笑顔で握手をする二人の魔法少女。
それを三匹のヌイグルミのような生物が見守っていた。
「新しい魔法少女誕生を記念して、ハイ! チーズ!」
パシャ!
魅咲がデジカメで、ロイヤルセレナとベル・ホワイトを写真に収める。
「うん?」
「へ?」
あまりに自然で、ごく普通に写真に撮られたため、一瞬事態を飲む込めなかった。
グルグル眼鏡をかけた女の子……1年A組新聞部、新浪魅咲――彼女は一体いつの間にここに現れたのか?
「あ、もう一枚いい? ハイ! チーズ!!」
パシャッ!
再びデジカメで写真を撮る魅咲――!
ロイヤルセレナもベル・ホワイトもついつられて、ピースをしてしまった。
「……あ、あなたも、魔法少女の関係者?」
「わぁ……漫画に出てきそうなグルグル眼鏡」
ロイヤルセレナはその眼鏡少女に聞き、ベル・ホワイトは少女がかけている眼鏡に興味を示す。
「こういうのって、眼鏡を外すと美人だっていうのが定番だよな」
「そうなの? おいらの好みかな?」
パクとレオが見上げながら言う。
「び…美人…彼女……」
気を失っているはずの疾風が、ほんの少し反応する。
「……あなたはどなたですか?」
グレン・ナジャが一同を代表し、眼鏡少女に質問をする。
「私? 私は魔法関係者じゃなくて、コ・レ!」
眼鏡少女が左手につけている腕章を見せる。そこに書いてあったのは……
「新聞部?」
「その通り!! 私こそ、媛崎中学新聞部、期待の大型新人ジャーナリスト、1年A組新浪魅咲――その人!!」
「ああ、苺ちゃんの後輩?」
「知っているのか? ベル・ホワイト?」
パクがベル・ホワイトにそう言う。
「うちのクラスの苺ちゃんが新聞部だけど……」
「あ、うん、草薙苺先輩ね、可愛いよ」
「苺ちゃんにも後輩ができたんだ。私にもできたし、時間は流れていくものなんだね」
ウンウン……と、ベル・ホワイトが感慨深げに首を振る。
「それで、あなたは? 何のご用件でここに来たのですか?」
「うん、スクープを取りにきたの。魔法少女が二人もそろっているっていい光景じゃない?」
パシャパシャ!
眼鏡少女……魅咲は、再びデジカメをかまえ、写真を撮る。
「……申し訳ありませんが、こういうことはオフレコにしていただきたいのですが……」
「え? なんで?」
キョトンとした表情をグレン・ナジャに向ける魅咲。
「ワーボワールの魔法使いと天逆衆との戦いは秘密事項です。悪いのですが、あなたの記憶と、あなたの持つカメラの記録を、消させていただきます!!」
バッ!!
っと、グレン・ナジャが動く!! しかし――
「ちょっとそれは嫌だから、逃げさせてもらうわ!」
その動きを予想していたように、魅咲はグレン・ナジャを避け、廊下に出て駆け出す!
「ま、待ちなさい!!」
すごいスピードで駆け出して行った魅咲を、グレン・ナジャが追いかけていった。
「……な、なんだったの?」
「大丈夫、グレン・ナジャは預言者だからね。未来がわかっているから、あの子はすぐ捕まって、記憶を消されちゃうよ」
「き、記憶を!?」
レオの言葉に、ロイヤルセレナが驚愕の声を上げる。
「当たり前の話だけど、魔法使いは秘密の存在だからね……こういう処置もあるんだ」
「ベル・ホワイト、この男の記憶も消しておかないと!」
レオがロイヤルセレナを慰めるように言い、パクが倒れた疾風に駆け寄る。
「ええそうね……記憶を消す魔法は……ちょっと難しいんだよね……」
ベル・ホワイトが疾風の頭に手を当てる。
「ええっと……記憶の女神よ……この男の記憶から、天逆衆に操られた記憶と魔法使いに関する記憶を消したまえ……『ガデス・デリート』!!」
リィィィィィきン……
ベル・ホワイトの手から白色の淡い光があふれ、疾風を包み込む。
「はい、これで大丈夫。これでこの子の中から天逆衆に操られていた時の記憶と、私達の記憶は消えたはずよ」
「……魔法って、すごいんだね」
「何言っているんだ? 君も、すぐこういうことができるようになるよ。なんたってこのレオのパートナーなんだから」
ロイヤルセレナは、少し不安そうな瞳でレオを見る。
「大丈夫だって! 私もパクと出会った時はちょっと不安だったけど、すぐに忘れたよ。魔法は、楽しいからね」
ポンッ!
ベル・ホワイトがロイヤルセレナの肩を叩く。
「じゃ、白鈴愛美と由良瀬里奈の姿になって全校集会に行きましょ」
「え? はい、そうですね。あ、でもその前にみんなをちゃんと起こさないと!!」
ここにはまだ気を失っている女の子達と疾風がいる。
新たな魔法少女が誕生したのはいいが、まだまだこの物語は前途不安のようだ。