A版その5-3
――魔法少女失踪事件――
事の起こりは、3年前に起きた一人の少女の行方不明事件だった。
当時は、新聞にも大きく取り上げられ、マスコミも様々な憶測や仮説を仰々しく報道していた。
その中でいくつかわかっていることを拾い上げてみる
行方不明となった少女の名前は『神山桂花』行方不明当時中学2年生13歳。
良く言えばロマンチスト。悪く言えば厨二病――
夢見がちな女の子で、自分は異世界からのだと、周りの友人に話ていたと言う。
後、この世界には許してはいけない”悪”がいて、自身はそれと戦っているとも言っていた。その”悪”が何なのか、今となっては確かめるすべがない――
そして、彼女が行方不明となる数ヶ月前から媛崎中学校には魔法少女がいると言う噂がたっていた。
『魔法少女エルドラーナ』
噂になっていたのはそんな名前の魔法少女だ。
実際に見た人間は少なかったし、ほとんど都市伝説の域を出ない話だった。
見たと言う人間も、コスプレ少女だとか、夢とか言う人間が多く、本物だと言う人間はほとんどいなかった。
実際に本物の魔法少女がいるという噂が流れ始めるのは彼女が行方不明となって数ヶ月後……『魔法少女リザ・クルージュ』が現れてからだった。
やがて、魔法少女リザ・クルージュには、仲間の魔法少女がいると言う噂になり、それが『魔法少女クインローズ』……
魔法少女クインローズが活躍しだすと、やがてリザ・クルージュの名前は聞かれなくなっていった――
それと同時に、再び1人の少女が行方不明となった。しかし、なぜか周りの人間はその少女が消えた事を、まったく気にしていなかった。
いや、その少女自身の記憶が周りの人間から消えていた――そういった方が正しいかも知れない――
クインローズの次に現れた『魔法少女トゥインクル・アロア』、そしてその次の『魔法少女サーヴィン・メプル』――その名が人々の口から聞くことがなくなった時―― 1人の少女の存在が世界から消え、そして……人々の記憶からも消えてしまう――
だが、存在そのものが完全に消えてしまったと言う訳では無い。その少女がちゃんと存在していたという痕跡は、調べれば調べるほど見つけることができた。
記憶が消えているといっても、それは表面上のことだけらしい。
サーヴィン・メプルの噂が人々の口から聞くことがなくなったとき、行方不明とり人々の記憶から消えた少女『南九条楓』――
彼女の幼馴染、浅科星羽は姉である浅科梨乃亜にかけられた逆行催眠術により、幼馴染の楓の事を思い出していた。
その時より、超常自衛隊は動いていた――正確には1人目の少女、神山桂花が消えた時から情報は入っていた。ただ、超常の力が働いての行方不明事件なのか、妄想好きの少女が消えただけなのか判断がつかなかったので、その時は警察主導で動いていた。
2人目の『安西薫』、3人目の『道堀万由子』、そして4人目の『風祭かもめ』……これに『南九条楓』を加えて行方不明者は5人……
このうち、失踪届が出ているのは神山桂花のみ――
あとの4人は家族や友人などの親しい者たちの記憶から消えていたために、失踪届が出ていなかった――
手掛かりは、消えた記憶と魔法少女――
ここで超常自衛隊はこの学校に何があるのか――それを知る必要があると気づいた――
だが、ちゃんとした失踪届さえ出されていない現状、おおっぴらに動くわけにはいかない。
そこで、今年新中学生になる少年少女達の中で、超常能力を持っている子供たちを一クラス分、この学校に入学させることにした。超常自衛隊に協力するリトルエージェントとして――
南九條楓の幼馴染、浅科星羽、開発段階で機密動作テスト意味合いも含めたガイノイドtype‐003・鈴鹿珊瑚をサポートに任命し、魔法少女の操作が始まった――
あわよくば、超常能力持ちの生徒達が撒き餌になってくれかもしれない………この計画の立案者は、内緒でそう思っていた――
「今活躍している、あの2人の魔法少女――ベル・ホワイトとロイヤルセレナだっけ? ――その記憶も、あいつらが消えたら消えてしまうのかもな……」
スターフェザーの装備1つである双眼鏡で遠くの戦いの様子を見ながらそういう浅科星羽。彼はとりあえず、時計塔の上でこの戦いを見守ることにしていた。
魔法少女と仲間たちの戦いは今もまだ続いている。
仮面に体を乗っ取られた生徒達はまだ参戦していない。
当面の敵は黒い衣服を着た2人……カゲホウシとクロマントだろう。
「ねぇ、そこのコスプレ!」
下から一色遼子が星羽に声をかけてくる。
「……なんだ?」
「今一体どんな状況になっているの?」
「……魔法少女の仲間たちの方が優勢だ。黒いやつを一匹吹き飛ばしたからな」
「そういうことを聞いてるんじゃない! クラスメイト達を乗っ取ったあの黒い茨や仮面は何なのか? 元に戻すためにはどうしたらいいのか? そもそも元に戻るのか? そういうことを聞いているの!?」
遼子は時計塔の窓から出て星羽の横まで上ってくる。
「そんなこと、オレが知るわけないだろう」
「そんな無責任な! 私は嫌よ! あんな気味の悪い笑みを浮かべたままの人間と同じ教室で授業するなんて!」
自分勝手な事しか考えていない女、それが一色遼子――
「だったら直接聞いてみればいいじゃないか」
「え~~! あの連中に近づくの、怖いもん! 私はやだ!」
「……どうしろって、言うんだ?」
星羽には、まだ魔法少女達のそばで祈りを捧げている陽子とカメラを構える苺がまともに見えた。
テッテテテテテッテッテッテ~♪ テケテケテッテテケテケテッテ♪
突然、星羽のズボンのポケットからこの場にそぐわない明るい音楽が流れてくる。
「うん?」
「誰かからの着信か?」
そう言って星羽は携帯電話を取り出した。
「もしもし、こちらは今、取り込み中なんだけど?」
『あ、浅科先輩ですか? そちらは今どういう状況になっています?』
携帯電話から聞こえてきたのは知った声だった。
「――御陵か。お前達は今、どこで何をしている?」
『音楽室でワーボワールの狼と、黒い植物の親玉みたいなのを捕らえている状態』
電話の向こうから聞こえる御陵辰羅の声はかなり落ち着いている。危機的状況にある媛崎中学校の生徒の声とは思えない――
「そっちは安全なのか?」
『安全というか、全く状況がつかめないので。なんか廊下に黒い植物がたくさんあって、今、ブラック・モノボルのやつに排除させようとしてるところ』
「排除? あの黒い茨をどうにかできるのか?」
「え? 本当!?」
黒い茨をどうにかできる――その言葉に遼子も反応する。
『まあ、この植物は、ブラック・モノボルの力によって生み出されたそうだから―――』
「……」
ブラック・モノボルというものが、どういうものなのかはわからない。が、状況打破の方法が見つかったかもしれない、と言う希望が生まれたのは事実だ。
「いいか御陵、こっちの状況を説明するぞ。まず、今、大半の生徒達が黒い茨の生み出した仮面に体を乗っ取られている――」
『は? 体を、乗っ取られている……?』
「詳しく説明すると………




