A版その5-2
(今のうちに……)
ヤミゴロモは、ブラック・モノボルにA組のクラスメイト達が気を取られているうちに、音楽室を出ていこうとする。
「何処へいく気だ? 似非天逆衆……!」
「――どけ、お前に係わっている暇は無い――」
ヤミゴロモの前に現れたのは御陵辰羅だった。
「お前になくても俺にはあるぜ! お前らが『天逆衆』を名乗っている限りな!」
辰羅の右手に妖力が集まる――
「――!? その力は……!!」
「正体を見せろ! 偽者やろう!!」
グオン!!
「「「―――!!」」」
ヤミゴロモに直撃した辰羅の妖力が、ド派手な音を立てる!
バン!!
壁に貼り付けになるヤミゴロモ――――ではない、壁に貼り付けになったのは、ヤミゴロモの体を包んでいた黒い衣服のみだ――!
中身は、黒い衣服をはぎとられ、壁の前に転がっている……
「……お前は……!!」
そこにいたのは、一匹のヌイグルミだった……
「――犬――?」
「……オオカミだ……」
そう、そこにいたのはオオカミのヌイグルミ――
A組の何人かはこのオオカミのヌイグルミと、面識があった。
「マジュ・リッツ――!?」
綾花が、そのヌイグルミの名前を呼ぶ。
「じゃないかも? 似たようなヌイグルミだったら、私にはわからない」
「私も前にあれを見たことあるけど、同じ種類のヌイグルミだったら見分けつかないよね」
綾花の言葉に魅咲も続く。
「確かあいつって、三毛猫のヌイグルミ――預言者とか言ってたグレン・ナジャの護衛とか言ってなかったっけ?」
「それがなんで偽物の天逆衆を名乗っていやだったんだ?」
何が何でもそのことを解明しようとしている辰羅はマジュ・リッツに詰め寄る――
「……あの時、そこの女――魔法少女エースに顔を見られていたのが間違いだったか……」
「私は魔法少女ないよ。ただの聖柩使いだ」
そう言って、アークをマジュ・リッツに向ける綾花。これでもし、マジュ・リッツが何かの魔法を使ってきても、その魔力を吸収封印してしまえる――
「……っち!」
それがわかったのか、マジュ・リッツは軽く舌打ちをする。
「……魔法少女と敵対していた天逆衆の正体が、魔法少女に力を与えていたワーボワールの1人だったって事?」
「なんだそれ? 所謂マッチポンプって事?」
「マッチポンプって?」
「マッチで火をつけて、ポンプで火を消すこと……騒ぎを自分で起こして、自分で解決する人の事を、そう言うんだ」
周りのクラスメイト達も、ざわざわと囁き合っている。
「魔法少女とワーボワールの事をきちんと調べてみる必要があるようだな」
辰羅がマジュ・リッツを見下ろす形で立つ。
「……いいのか、そんな事をしていても……今、この学校で何が起こっているか……わかっているのか?」
マジュ・リッツは辰羅を見上げ、不敵に笑う……
「……?」
「今、この学校は……この学校の生徒大半が大変な目にあっている。そこにいる、ブラック・モノボルの魔術で体を乗っ取られて、天逆衆の先兵になっているんだ」
ドン!!
辰羅が、壁を蹴る!
「似非、だ! お前達は偽物の天逆衆だろうが!」
「そんなことよりも、学校の仲間たちを心配しろ。ブラック・モノボルの力は大変なものだぜ」
「そうなのか?」
クラスメイトの一人が、珊瑚のそばにいるブラック・モノボルに問い掛ける。
『ワガマホウハ、タシャノヨクボウノキュウシュウ……ワガブンシンハタシャノニクタイニヤドリ、ヤガテヤドヌシトイレカワル。ソシテヤドヌシヲオイダシ、ニクタイヲノットルノダ!』
ブラック・モノボルの長い説明に、顔を見合わせるクラスメイト達――――
「何を言ってるのか、全然わからん」
「分身って、これ?」
女子生徒の一人が珊瑚にとりつこうとして失敗した仮面を拾いあげる。
『オオ! オマエナラヨクボウヲキュウシュウデキソウダ!』
仮面がそう言い、
ブワッ!!
突如ブラック・モノボルと同じ黒い茨を出す――!!
「『パトロキネシス』――!」
ボウッ!!
『ヒグ!!』
女子生徒の体の周りに炎が出現し、黒い茨を焼く!!
「――!! 何!?」
『ホノオ!?』
マジュ・リッツとブラック・モノボルが驚愕する。
が、周りのクラスメイト達のほぼ大半は驚いてすらいない。
「ちょ、ちょっと!! どうなってるの!?」
遠藤晴夢はマジュ・リッツ達のように驚いているようだが……
「なんだ? 知らなかったのか?」
「この、1年A組は、人数合わせのためにいれられたほんの数人を除いて」
「全員がこういった能力を持つ能力者集団なのさ」
クラスメイト達が、口々にそう言い出す。
「な―――――!?」
さすがにこれは、マジュ・リッツには予想外だったようだ……
「この学校で起こっている魔法少女失踪事件を解決するために超常自衛隊の依頼により、送り込まれたリトルエージェント達――それが、俺達だ!」
辰羅がそう言い放った――!




