S版その4-4
「センセイ! ワタシ、グレテイタジブンヲハンセイシテイルンデス! コレカラモウベンキョウシテリッパナコウコウニハイッテオヤヲアンシンサセマス! ダカラベンキョウヲミテクダサイ!」
「ヨクイッタ! オレノチシキヲゾンブンニキュウシュウスルガヨイ!」
中学生にしてみればはっきり言って派手と言わざるを得ない化粧を顔にした女子生徒が、1年D組の担任教師、島戸那智に教えを願っていた。
もちろん、女子生徒の胸元には那智の仮面が――そして、那智の胸元には女子生徒の仮面が張り付いていた。
(うう、そんな事、俺は知っている……)
那智の体が教えてくる知識は、那智自身のものだ――確かに、那智には誰かにその知識を伝えたい、教えたいと言う欲望があった。
だが、今那智の意識は女子生徒の中にあり、女子生徒の……女子生徒と入れ替わった仮面の意識の支配下にあり、見ることと考えること以外のことができなくなっている。
その女子生徒はちょっとした不良生徒だった。だが、彼女には年老いた祖母がおり、その祖母を安心させるために、不良をやめ、いい高校へ進学したいと願っていた――
那智は自分の知識を教えてくる自分の体を眺めながら、その女子生徒の記憶や心にさらされていく……自覚がないまま、那智の精神――そして意識は、女子生徒の体の中へ埋没していく…………
(すごく強く揉まれている……これなら俺のおっぱいも大きくなるよなぁ)
女子生徒の胸を揉んでいるのは、その胸元の仮面にある男子生徒も意識の、本来の肉体だ。
だが、男子生徒の意識はおっぱいを大きくしたかった女子生徒の欲望に飲み込まれていき、おっぱいを揉まれるのが女子生徒の欲望なのか、自分の欲望なのか分からなくなっていた……
(女の子の胸を揉むのって楽しいな)
女子生徒の意識も、男子生徒の胸元で本来の自分自身の体の胸を揉み続けている感触を味わいながら、ゆっくりとしかし確実に男子生徒の欲望に同化していく……
やがて仮面は……仮面の中に閉じ込められていた本来の意識は……唯一開いていた瞳さえ閉じ、完全に、仮面の中にあった意識に支配されてしまう。
(百点を取らなきゃいけないんだ。おふくろに怒られるから。だから、俺から次のテストの答案用紙をもらわなきゃ……)
(早く、鈴鹿先生に告白したいのに、私の体邪魔だわ……)
古高直介の意識も、その直介の体に入っている女子生徒の意識も、それぞれの肉体の欲望に飲まれ支配を受け入れてしまう……
自分をスポーツレディにしたかった女子生徒も、そんな彼女の密着コーチを引き受けていた体育教師も、意識はその入れ替えられた肉体に溶けてゆき、仮面の意識の支配下に落ち、瞳を閉じる――
鴨葱千景もそうだった――
垣根空奈もそうだった――
黒い茨にとらわれ、そこから生まれた仮面の意識に体を乗っ取られ、他人の体に押し付けられた意識は、自由にならない肉体の中でその肉体の欲望などにさらされて――やがて溶け込み、完全なる支配を受け入れてしまう――
媛崎中学校で起きた異変に何人もの生徒や教師が巻き込まれていく――――
「大丈夫だ! 校庭には茨が来ていない!!」
隆幸がそう叫ぶ!
「こっちだ! 皆!!」
ロイヤルセレナも隆幸に続いて校庭に出る!
「……今いるの、これだけ?」
陽子が無事だったメンバーを確認する。
最初からいたC組の生徒数人と、途中で拾った京極疾風――本当に、すぐに数えられるだけしか残っていなかった。
「くそ! なんてことだ!!」
黒い茨に覆われた校舎を見て叫ぶ男子生徒――所々校舎内の人影が見えるが、仮面に支配されていると思われる……目を細め、三日月のような口をした不気味な顔をしているからだ。
ドウン!!
突然、その校舎の一角で爆発が起こる!!
「――!?」
「『フライング』!!」
リ~~ン!!
爆発の起こった場所から、空飛ぶ箒に乗って魔法少女とその腰に捕まった女子生徒が降りてくる――!!
「ベル・ホワイト!」
箒の着陸地点にロイヤルセレナとその場にいた生徒達が駆け寄る!
「……ロイヤルセレナ! 無事だったのね!」
ベル・ホワイトもロイヤルセレナに駆け寄る。
「こんなの、全然スクープじゃないわ……!! 魔法少女が本当にいたのはすごいスクープだけど!」
ベル・ホワイトと一緒に降りてきたのは新聞部の草薙苺だった。
「手伝って! ロイヤルセレナ! まだ無事な生徒が何人かいるの!」
「え? わ、わかった! 『フライング』!」
ロイヤルセレナもステッキを箒に変えベル・ホワイトを共に校舎に開いた穴へと向かう。
やがて、一色遼子をはじめとした数名の女子生徒を助けだした――
「どうにか、助かったのかしら――?」
「いったい、あれは何なの?」
「こわかったぁ~~」
ベル・ホワイト達が助け出せたのは、当然だが女子生徒だ。
現在、無事だった男子生徒は欲望に忠実だったため無事だった小鳥隆幸や京極疾風、運の良かった2、3人と宍戸秀作……
「――!!!」
苺がは驚いて後ずさる。
「し、宍戸先輩!? 一体いつからここにいたんですか!?」
「……? 誰?」
「演劇部の宍戸秀作先輩――、一応この媛崎中学校で一番頭の良い先輩よ」
ロイヤルセレナの問いにベル・ホワイトが答える。
「つまり、私が越えるべき目標の1人って訳ね」
陽子が秀作を睨み付ける。
「これはこれは、マイスイートストロベリー苺ちゃん! いや、僕もねもうダメだと思っていたんだけど、偶然、空を飛べる親友に助けられてね。今、ここにいる!」
「空を飛べる親友?」
苺はあきれたように言う。
「うん、何か用があるってどっか行っちゃったけどね」
「しかし、運が良かったとしか言いようがないよな。あんな恐ろしいものから逃げられたなんて」
男子生徒の一人がそうぼやく――
「そうかな? むしろ、今の方が不運では無いのか?」
「「「―――!!」」」
その場にいた生徒達全員に緊張が走る――
ヤミゴロモ、カゲホウシ、クロマント――闇のような黒い衣服をまとった天逆衆三人が現れる――
「今こそ決着をつける時だ魔法少女――――」




