S版その1-1
S版その1
ふざけるな……ふざけるな……何なんだなんなんだよ……なんでなんであんな奴にあいつに彼女ができるんだよ……なんで俺には彼女ができないんだよ……
「だったらその欲望を叶えてみたらどうだ?」
「誰だ?」
「俺はヤミゴロモ……」
そこには、上から下まで真っ黒な衣装に身を包んだ何者かが立っていた。
「天逆衆のヤミゴロモだ」
「あれ? なんでこれだけしかうちのクラスきていないんだ?」
媛崎中学校1年C組の担任、古高直介は全校集会に集まった自分のクラスを見渡してそう言った。
今の時間は毎月の月初めに校長先生からありがたいお言葉を聞くために全校生徒と全教員が体育館に集合する、全校集会の時間である。ここ、媛崎中学校ではそんな事に時間をとるくらいなら、部活や下校の時間を一時間早めろと生徒達から絶賛大不況な時間である。
だからといってそれをサボる事はいいはずがない。
今の1年C組には男子生徒は大体いるが、女子生徒はほんの数人しかいなかった。
「あ、男子のほうでも京極君がいません」
一人の男子生徒がそう言った。
「女子生徒大多数と京極か……何かあったのか?」
古高先生は少し考え込む。周りの他のクラスを見てみるが、特に変わったところがあるわけじゃない。A組も、B組も、D組も、いない人間がいたとしても一人か二人だろう。
「おーい、今日の日直は誰だったっけ?」
「あ、私です」
残っていた女子生徒の内の一人が、手を挙げる。
「由良か。悪いが教室をちょっと見てきてくれないか? 先生は別の場所を見てくる」
「わかりました。由良瀬里奈、言ってきます」
ほんの少し面倒臭そうに、日直の女子生徒、瀬里奈は体育館を出ていった。それに続いて古高先生も別の場所を探しに行った。
――数分後、1年C組の教室――
「京極君……? なの……?」
1年C組の教室は、異常な光景に変貌していた。蜘蛛の巣のような粘着性のある白い紐のようなものは何人もの女子生徒を絡め取り、とらえている……気を失っているのか、とらわれている女子生徒は誰一人として目を閉じたまま動かない。
そんな教室中でただ一人、男子生徒が立って動いていた。それが男子生徒中ので唯一全校集会にきていない京極疾風である事はおおよそ予測がついた。
だが、疾風は今、へんてこりんな仮面をかぶり、ジリジリと瀬里奈の方ににじり寄って来ている。
「ねえ、知ってるう……? 鴨葱千景にさぁ、彼女ができたんだって。あいつがすっごく自慢していたよ……」
「?」
瀬里奈は鴨葱千景なる人物を、知らない。だからこそ、疾風が何を言っているのかわからない。
「……千景はさあ、小学校時代からの俺のライバルなんだ。だからさあ、あいつには絶対に負けたくないんだよ……」
へんてこりんな仮面をつけたままで、疾風が蜘蛛の巣のような物にとらわれている女子生徒の一人に手をかける。
「誰でもいいよ……千景のやつに負けないよお、俺の彼女になってくれよ……」
変な仮面をつけたまま、疾風は気を失っている女子生徒の一人の顔に……その唇に、自分の唇を、近づける……
「俺の彼女に……なってくれ……
「ちょ、ちょっと! やめなさい!!」
瀬里奈はそれを制止すべく声を上げる!
「もちろん、君でもいいよ瀬里奈ちゃん……」
近づけていた顔を離し、ゆっくりと瀬里奈のほうに体の向きを変える疾風……仮面の下から見える瞳が、狂気の色をはっきりと宿している……
そしてそのまま飛びかかってきた!!
「あぶな~い!!」
飛びかかってきた疾風を、横から飛び込んできた白い人が弾き飛ばす!!
ドンガラガシャ~~ン!!
派手な音を立てて、周りの椅子や机、気を失ったクラスメイトを何人か巻き込んで疾風は転がった。
「あ……あなたは……?」
「大丈夫?」
白い人……いや、白い衣装をまとったその人物……見る限り瀬里奈とそう年代は変わらなそうだ。でもその特徴的な衣装には覚えがあった。
「まさか……新聞部の記事に載っていた……魔法少女?」
「あら? 私のことを知ってるの? そう、私こそこの媛崎中学を悪の天逆衆から守る正義の魔法使い、ベル・ホワイトよ!!」
ビシッ!!
ポーズをとる白い人……魔法少女ベル・ホワイト!!
「魔法少女……本当に、いたの……? あの記事はデタラメだとばかり思っていた」