AS版その2『魔法少女エース』-5
「うわっ! 何この堅苦しいうさぎは! せっかく貰うんだったらさあ、この間のカピバラがよかったんじゃない?」
瑠璃から連絡を受けてやってきた魅咲は、キャロを見て、写真を撮りながらそう言う感想を出した。
「なぜ、フォウ・リンス殿が人気なのだ?」
理解できないと言う表情のキャロ。
「まあ、使い魔にするなら犬とか猿とかよりも珍しい動物の方がいいもんね」
「マジュ・リッツ殿はオオカミだぞ……」
同僚の名誉のためにキャロは付け加えておいた。
「それよりも、何人もの人間に話して大丈夫なのか?」
「私は魔法少女じゃないから、魔法少女のルールは適用されないんだよ」
綾花はにっこりとそう言う。その笑みに、何か邪悪なものが含まれているような気がするのは気のせいだろうか?
「ステッキが一本しかないんでしょう? これじゃ三人で変身できないね」
「あれ? 魅咲ちゃんは魔法少女になりたかったの?」
興味深げに魔法少女のステッキを観察していた魅咲の言葉に、綾花が反応する。
「私個人が魔法少女になるんじゃなくて、みんなで変身するの。そうだ、苺先輩なんかもくわえてみるのも面白いかもね。苺先輩だったらスイートストロベリーなんて魔法少女になるかも」
「くしゅんっ」
「あれ、苺ちゃん? 風邪?」
小さなくしゃみをした草薙苺に、白鈴愛美は心配して声をかける。
「そういうことじゃなくて、なんか誰かが噂をしてる気がする――私自身がスクープになっても何もいいことないのに……」
苺はそう言って、教師から与えられた『変態注意』の資料を学級新聞に盛り込むべく、作業を開始した。
「……やっぱり、気になるな……」
瑠璃は、うさぎのヌイグルミをからかっている友人二人を眺めながらそう言う。
「あの、三毛猫の言ったこと……」
――『やがて来るその日のため』――
グレン・ナジャはそう言っていた――
「ちょと、見てみるか……」
瑠璃は意識を少し上に上げる……
――螺旋階段を上っていくようなものだ――
人より少し高い所に行けば、低い場所にいる人よりも遠くが見える――
高い所に行けば高い所に行くほど人よりもずっと遠くが見える。
そのかわり細かいところはわからない。
意識を高いところにやれば、遠くが――本来ならば見ることのできない未来と言う遠くが見える。
これが、瑠璃の持つ予知能力というものだった――
『星占部』
かつて古代日本にあった未来予知の能力を持った集団――
その末裔である瑠璃もその力を持っていた――
それを……人に説明することは難しい。
自分がこれこれこういう風にして未来を予知することができる――というようなことを説明しても、人は信じてくれないだろう。
人は、自分が経験したこと以外は信じることができないものなのだから。
そしてまた、この螺旋階段を上っていくような感じの予知のやり方は瑠璃独自のものだ。
瑠璃の祖母、翡翠瑪瑙も予知の能力を持っているが、瑪瑙の予知は瑠璃とは違った形でやるものらしい。
瑪瑙のおかげで、自身が予知の能力を持つことが当たり前になっていた彼女は、能力を消すことなく成長して来た。
だけど、同じ能力者である辰羅や綾花ならいざ知らず、能力を持たない人間に能力を信じてもらう事は本当に難しい――
だからこそ、自身がこの予知能力を使う時の事は誰にも言わない。
そしてその結果、得られた未来の情報を人に話すかどうかは自分が決める。
どうしても他者に教えたい情報は、ヒーローカードを使った占いと言う形で他者に教える。
『めがね・メガネ・眼鏡!!』
仮面をつけた人間が、そこら中の人間に眼鏡をつけまくっている――
「……」
螺旋階段の手すりから、ほんの少し先の未来を見る。
他人より高いところにいる分、ほんの少し遠くが見える――それと同じ感覚で未来が見える。
『眼鏡ヒロイン魅咲ちゃん!!』
友人が迷惑がっている。
そして、ロイヤルセレナとベル・ホワイトの二人が眼鏡をばらまいていた仮面の人間と対決している――
新しい魔法少女はその未来にはまだいない――綾花はまだ魔法少女エースにはならないのだろう。
『さぁ勝負だ!! 今度こそ決着をつけてやる!!』
体育の授業をやっている。男子は剣道の授業らしい。
喜々として竹刀をかまえる小鳥隆幸が見える――が、対戦相手は見えない――
「……」
ところどころで見えない部分がある。何かの影に隠れていたり、逆に光り輝いていてそのもの自体を直視できない、ということもある。
何事にも完璧な能力というものは存在しないのである。
瑠璃はもっと螺旋階段を上ることにした。
高くなれば高くなるほど先の未来が見える。逆に細かい事はわからなくなる。そして、見えたのは――
『お前達シンプル族は滅びる運命だ。このナンカイ大魔王の手によってな』
見えたのは、スーパーヒーロータンジュンキッドと、その最強の敵であるナンカイ大魔王の最終決戦だった。
シンプルランドという、架空の国で繰り広げられる様々な事件。
その黒幕であったナンカイ大魔王との最終決戦はタンジュンキッド史上最高のベストバトルと言われている――
『ボクは負けない!! 必ずお前に勝つナンカイ大魔王!!』
勇ましくタンジュンキッドの最後の戦いは、幕を開けた――
「え?」
瑠璃は現実世界に意識を戻した。
予知できた未来は眼鏡がかけた人が増えることと剣道の授業がある事、そしてタンジュンキッド対ナンカイ大魔王の最終決戦――
「って、タンジュンキッドとナンカイ大魔王の戦いはテレビでこの間やっていたよね……」
「何をやっているんだ?」
瑠璃の後ろから声がかかる。
「あ、辰君――」
用事が終わって教室に戻る途中だったんだろう。そこに見知った人間がいたから声をかけてきた。
御陵辰羅にとってはその程度のことだった。
「さっきのは辰君の『シックス・フェイク』、か……」
「おい、何なんだあのうさぎは? 勝手に動いてるし勝手にしゃべってじゃないか!」
辰羅は魅咲と綾花はがいじっているキャロに目を向けている。
「……」
第六感『シックス・センス』に対し嘘がつける能力『シックス・フェイク』――
予知をしていたら、未来とは全く関係のないものが見えた。
読心術を使っても、相手の考えがわからない。
サイコメトリーで過去とは全く関係のないものを感じた。
第六感系能力に対し嘘がつける『シックス・フェイク』は、使用者本人が能力使用を自覚していないことが多い。
実際、辰羅自身も能力を使ってるいる自覚はないのだろう。
だが、辰羅が『シックス・フェイク』を持ってることは間違いのない事実――
だから、瑠璃は辰羅の未来を見ることができない。
瑠璃が見る未来に、辰羅は出てこない。
辰羅が投げたサイコロの出る目を瑠璃は予知することができない。
「シックス・フェイクを持った天逆衆のために何人もの星占部が犠牲になった。予知を外す予知能力者なんて、何の価値も無いから、朝廷によって処分された、か……」
そしてそれを逆恨みした星占部の人間が、皇賀忍軍を雇い天逆衆抹殺を画策した――
「……ま、いっか。未来を知りすぎても面白い事がある訳じゃないし――」
そう言って瑠璃は辰羅と共にキャロをいじるべく、魅咲と綾花のもとへ歩み寄っていった。




