A版その1-4
十数分後……
そこにはタキシードでビシッと決めた千景がいた。
「おっ! いい男だねぇ」
演劇部の部長、宍戸先輩が太鼓判を押す。
「愛はいいなねぇ。青春だねぇ。いや、僕にも好きな女の子がいるからね、よくわかるよ」
そう言って宍戸先輩は仰々しいポーズをとる。
「愛こそすべて! マイスイートストロベリー、ああ、彼女のことを思うと僕の胸は張り裂けそうになる。しかしまぁかわいい後輩たちもまた愛の詩を奏でていくのだろう。おお、命短し恋せよ中学生!! ……ってね」
「……あのぉ……」
「気にすることはない宍戸先輩はいつもああいう感じだ」
「突っ込まないの?」
「宍戸先輩対する突っ込み役は他にいる」
辰羅は気だるそうに千景の質問にそう答えていた。
「この人は素晴らしい先輩じゃないか。俺のソウルに、この人の愛がビンビンと伝わってくる。ああ、やはり人間は愛があってこそ素晴らしい。俺は愛で、ハーレム・エンド実現して見せる!!」
晴夢だけは、宍戸先輩に同調していた。
「ほっといて行こう、辰君」
「ああなった宍戸先輩は周りが何を言っても聞かないから」
「何かリアクション欲しいなら、あの人をつれてこなくちゃ」
彩花、瑠璃、魅咲の三人娘は完全にドリップしている宍戸先輩と晴夢をおいて、演劇部の部室から出て行く。その三人に背中を押されていく千景、辰羅はゆっくりとその後をついていった。
「ちょっと…どこに行けばいいんだ?」
「私の占いでは、図書室に行けばいいと出ているわ」
瑠璃がヒーローカードを手に持って、そう言った。
「……千景? 何その格好は?」
垣根空奈は、読んでいた本を机の上に置いて目の前の人物にそう問い掛けた。
「……あのさぁ、くーなー……俺は、その、さ……」
タキシード姿の千景がしどろもどろになりながらどうにかこうにか口を開く。
「あの、その、あのさ」
「……演劇部にでも入ったの?」
「なにやってんだか……あれじゃうまくいく物もいかないな」
「カップル成立の瞬間をスクープできるか、ふられた時のインタビューか……?」
「ガンバレ、千景君」
空奈に見えない位置に陣取った三人が好き勝手なことを言う。
「うまくいくよ、きっと」
瑠璃だけが、なぜか確信した口調で言う。
「私と、辰君のように……」
「一言多いぞ、瑠璃……」
辰羅が、半眼で瑠璃をにらむ。
「でも、ほんの少し、きっかけは必要かな」
瑠璃はそう言って、ほんの少し彩花の方に視線を移す。
当の綾花は真剣な表情で千景と空奈を見ている。
「あのさ、あのさぁ……」
千景は、真っ赤になって同じ単語を繰り返す。
頭の中では、告白の言葉をいくつも考えていた。
でも、今は全然出てこない。
「なんなの? 何かの罰ゲーム? それともあたしをからかっているの?」
「あの……」
その時だった。
ぱしぃ……
何かが、千景の頭を叩いた。なにかは、解らない。
だけどその時、千景のは一瞬頭が真っ白になり、そして一つの言葉を紡ぎだした。
「 」
その言葉を聞いた時、空奈は千景と同じように真っ赤になった。