TS版『おっぱいをつけられたイケメン』-9
そこは不思議な空間だった。
全体にもやがかかっているようで、遠くは何も見えない。
まるで雲の中にいるようだ……
――ここは、二人の精神の部屋。
雲のように見える小さな微粒子は一つ一つがそれぞれの『自分らしさ』『自分の記憶』『自分の感情』などの精神のかけらで構成されている――
――精神の集合体、それが『魂』と呼ばれるものだった。
今この場には、二つの『魂』がある――
――由良瀬里奈と小鳥隆幸――
「そちらに行けば、俺の体に戻れるんだな。……一日も経っていないのに、何か随分と久しぶりのような気がするな……」
「……小鳥君、私の体に留まってくれる気は……無いよね?」
未練がましく瀬里奈が言う。しかし、隆幸の答えは決まっている……
「俺は魔法少女になる気はないよ。魔法少女ロイヤルセレナが活躍したいのならば、お前が特訓して強くなれ。その相手ぐらいなら俺がしてやる」
そう言って、隆幸は自分の体の方へ向かっていく。
――そのまま隆幸が隆幸の体に戻れば、この部屋にある、隆幸の精神のかけら達も隆幸の体へと戻っていく――そして、残された瀬里奈の魂と精神のかけら達は、瀬里奈の肉体へと戻っていき、何も変わらない元の由良瀬里奈へと――
「――いやだ――!!」
瀬里奈は、大きく手を振りかざす!!
「――!?」
「いやだ、そんなの、いやだ!!」
瀬里奈は自分の魂と精神を大きく揺り動かし、隆幸に迫る!!
「何をする!?」
瀬里奈の思いがけない行動に驚く隆幸。が、そのまま瀬里奈の魂と精神の波をまともに食らってしまう――
しゅわあん!!
「――くっ!」
瀬里奈の魂の攻撃に、膝をつく隆幸の魂――そして、隆幸の精神は大きくかき乱される!!
「いったい何を!? また俺をおまえの体の中に入れようって、いうつもりか!?」
抗議の声を上げる隆幸――――
「違うよ、ううん、もしかしたらその通りなのかもしれない――」
何か悲壮な決意をした表情で、瀬里奈が言う。
「やっぱり、私はあなたの勇気が欲しい……」
瀬里奈は自分の魂と精神を使って隆幸の魂の一部を、無理やり分離させてしまう――!!
「あ……」
瀬里奈の魂の前に隆幸の魂の一部と、乱された精神のかけら達の三分の一を奪い取り、もう一人の隆幸を作り出してしまう――!!
「「な……!?」」
自分の体に向かっていた隆幸と瀬里奈によって作り出されたもう一人の隆幸が同時に声を上げる。
「「お前、一体何をするつもりだ!?」」
二人の隆幸は全く同じタイミングで同じ事を言う――違うのは、大きさくらいか――
「小鳥君の、勇気――ごめん、これだけちょうだい……」
瀬里奈は自分が作り出した小さな隆幸を抱きしめる――
「ええ!! お、おいこら!?」
「ええ!! う、うわああ!!」
今度の言葉は違っていた。大きな隆幸は瀬理奈に対し抗議の声を上げていたのに、小さな隆幸は抱きしめられたところから瀬里奈の魂に吸収されていく悲鳴を上げたからだ。
「何を考えているんだ――こんな事してなんになる!?」
「何を考えているんだ――これが、お前の勇気を得る方法?」
大きな隆幸はわけわからず騒ぐだけだったが、瀬里奈に吸収されていく小さな隆幸は、瀬里奈の心がわかってしまい狼狽する――
ポコン!
「あ――」
瀬里奈にほとんど吸収され、かろうじて顔だけが瀬里奈の胸元に残るだけだった小さな隆幸――その隆幸を吸収した分瀬里奈の魂からも小さな瀬里奈が弾き出されてしまう――
「ああああ、やめろ、やめてくれ!!」
小さな瀬里奈は悲しそうな顔を元の自分――瀬里奈の本来の魂と、小さな隆幸の顔に向けると、そのまま大きな隆幸の方へ走り出ししまった――自分の居場所が、瀬里奈本来の魂にもうないことがわかっているからだろう。
「それを受け入れるな!! それを受け入れたら!!」
「ごめんね、小鳥君――」
自分の胸元で騒ぎ出す小さな隆幸の顔を瀬里奈の魂は優しく抱きしめた。もうこの隆幸は自分の一部だ。自分の意に逆らうようなことはできないはず――
「ごめんね、小鳥君――」
小さな瀬里奈も、同じセリフを言い、大きな隆幸に取り付いた。
「――!?」
先ほどまで、魂に受けた衝撃で何かが足りなくなっていた隆幸に、小さな瀬里奈は融合してしまう――瀬里奈と同じように隆幸の胸元にも小さな瀬里奈の顔が付いた状態となる――
「ごめんね、小鳥君――私はどうしても、変わりたかった――活躍できない魔法少女なんて、 いやだったんだ――実際、あなたの魂を持った魔法少女ロイヤルセレナは私の理想だった――でもそれをあなたは拒否した――だから、あなたの魂の一部をもらうことにしたの――」
それは、瀬里奈の肉体に帰っていく瀬里奈の魂が言ったことなのか、それとも隆幸の魂の一部となった瀬里奈の魂のかけらが言ったことなのか? あるいはその両方か……?
「お、目覚めたみたいだな」
目を覚ました隆幸が見たのは、覗き込んでいた辰羅の顔だった。
「おーい、お前はどっちだ? 小鳥か? それとも由良か?」
「それは……」
辰羅の問いに隆幸は答えようとする――
『私の事は黙っていておいて……』
隆幸の心の中で、隆幸じゃない人間の声がする――それが意味することとは……
「……御陵辰羅、俺はこの体に戻ったからには剣道で決着をつけるぞ……」
「お、こっちは小鳥に戻ってるみたいだな。そちらはどうだ?」
辰羅はかしまし三人娘が様子を見ている瀬里奈の方へ声をかけた――
「……」
魔法少女ロイヤルセレナはが活躍しだすのはこの後、しばらくしてからである――




