TS版『おっぱいをつけられたイケメン』-8
「…………やだ」
「お・ま・え・なぁ!」
自分に自分を否定され、怒るロイヤルセレナ。
「だって、今の私、ものすごくかっこいいじゃない! まさに正義の魔法少女って感じでさあ私が元のままだったら絶対ああはならないよ」
そう言って隆幸はふてくされてしまう。
「これは、荒治療が必要かもしれないね」
瑠璃がいう。
「というと? やっぱり小鳥君が瀬里奈ちゃんままで裸で校内を走り回るとか、美術のヌードモデルになるとかそういうこと?」
「うえ!?」
綾花の言葉に悲鳴を上げる隆幸。
「おい! いくらなんでもそんな事しないぞ!!」
ロイヤルセレナも抗議の声を上げる。
「まあ、小鳥は女に優しい奴だからな。エロ目的で女の体をどうこうしようとするような奴じゃない。遠藤の言葉じゃないが、『おっぱいをつけられたイケメン』とは今のそいつの状態をうまく言い表した言葉だ」
辰羅はあきれたように肩をすくめる。
「でも、このままじゃ駄目だろう。いくら俺にとっちゃ小鳥の『剣道部に入れ』がなくなってラッキーだとしても、こんな異常な状態を放っておくのはいいとは言えない」
「小鳥君だったら私になる運命も、魔法少女として戦っていく運命も、異世界に帰る運命もちゃんと受けいれてくれると思っていた」
隆幸が言い出す。
「それはお前の思い違いだ。確かに私……うう、一人称を『瀬里奈らしさ』に犯されてるせいで、意識しないと俺っていえない……そのせいで、決まらないけれど……俺、は、お前を、俺、として、守っていくつもりだったんだ。魔法少女だけがあんな連中と戦っているという状況が許せなかった。だからといってお前に……魔法少女になるつもりはなかったんだ……」
「……私は、戦えるわけじゃない。ていうか、今まで天逆衆が現れた時戦うなんてことできなかった……」
隆幸の目に涙がにじんでくる。
「……それで、男の子の魂を自分の体の中に入れて活躍してもらう、か。それってなんか虚しくない?」
「いくら、魔法少女ロイヤルセレナちゃんが活躍しても、それは自分じゃない、別のロイヤルセレナちゃんになっちゃってるんだよ」
綾花や魅咲が、隆幸を説得しようとする。
「……」
隆幸は涙をにじませながら黙り込む。
「もう、ちゃんと現実を見すえなさい!」
瑠璃が隆幸の顔を掴み強引にロイヤルセレナの方を向かせる。
「……お前は自分が正義の味方になれないことを悩んでいたのか?」
ロイヤルセレナは隆幸の顔をまっすぐに見つめそう口にする。
「……魔法の力を手に入れた時、私は、自分が物語の主人公になったんだと思った……でも、それは間違っていた……」
ゆっくりと自分の思いを口に出す隆幸――
「……ベル・ホワイトはどんな敵にも立ち向かっていく……それが、怪物だったって、構うことなく戦いを挑む……でも、ベル・ホワイトと私は一緒になれない、彼女の魂を私の中に入れても何も変わらない……だから、別の勇気を持った人間を探していた……」
「それが…『俺』…だった訳か……」
ロイヤルセレナは自分を見下ろす。そこにあるのは自分とは違う女の子の肉体。だが、その心の中には何にでも立ち向かっていく隆幸の勇気があるのがわかる。
「……ごめんなさい、でもロイヤルセレナが活躍するには勇気がどうしても必要だったの……」
「男になる勇気があるんだったら怪物と戦う勇気ぐらい手に入りそうだけどなぁ」
辰羅は何気なくそう言う。
「怪物だけじゃない……天逆衆に操られている人達も怖い、力を手に入れて、戦う相手の力がわかったの! 私だけが特別じゃない……皆が特別……敵も力を持っているの! だから、だから……怖い……」
「まあ、スーパーヒロイン物の敵役はどう考えても手加減してるとしか思えない愛すべき馬鹿とでも言う敵役が多いもんね」
ヒーローマニアの瑠璃がそう言う。
「よくよく考えれば、いくら力を手に入れたからって純粋無垢な少女に怪物と闘え、悪に操られた人間と闘え、っていう方が無茶苦茶なかもしれないね」
「そういう言い方をすると、魔法少女やスーパーヒロインなんて言うジャンルは成り立たないってことになるぞ」
「そういう人達に共通するのは、人並み以上に勇気があるって、こと……でも私には人並み以上の勇気はなかった……」
隆幸がうつむく。
「特訓、してみるか? 私……じゃなくて、俺でよければ付き合うぞ」
「え――? 特訓?」
隆幸が顔を上げる。
「ああ、いきなり自分を変えるっていうのは難しい。だけど少しずつ強くなればいいじゃないか。私……俺、みたいな人間に大事な体を明け渡して強くなる、そんな短絡的なパワーアップじゃなくて、日々の積み重ねで少しずつ強くなっていくんだ。実際さ、テレビの魔法少女やスーパーヒロインは陰で努力しているんだと思うぞ。テレビでは敵と戦うところ以外はカットされてるけど目に見えないところでは様々な努力をしている――そうだろ、ヒーローマニア?」
ロイヤルセレナは瑠璃に同意を求める。
「まあ、そういうところはアニメじゃ描かれないのかもね」
「地道な努力、修行、特訓……そういう言葉が嫌だっていうんなら、そうだな……魔法少女としてレベルアップするためにすることと思えばいい。私も付き合うからさ!」
「……」
差し出されたロイヤルセレナの手を、隆幸がつかむ……
「あ~あ、おいらの魔法少女がパワーアップするいい機会だったのになぁ」
レオが残念そうにつぶやいた。
「さあ、体を元に戻してくれ!」
「魔法が使えるのはあなたの方よ、小鳥君……」
隆幸の言葉にちょっと意外そうな顔をするロイヤルセレナ。
「あ、そうか……そういえば、そうだった……」
「私に、力を与えていたあの仮面は、もうない。だから、あなたが体を取りもそうとしたら抵抗する術は私にはもうなかった……」
「そうだったのか……」
「その前に『私らしさ』をあなたに注ぎ込み、元に戻れなくしてしまう――仮面をかぶせられた私はそう、思っていた――」
隆幸はそう言って、目を閉じる――
「確か、こういう、呪文だったよな――『ウィルルーム・オープン』!!」
魔法による力が二人の精神の扉を開ける――
「ごめんなさい、やっぱり私は……」
隆幸が何かを言おうとした時、ロイヤルセレナの唇と隆幸の唇が触れ合う――




