TS版『おっぱいをつけられたイケメン』-2
「『おっぱいをつけられたイケメン』とは……性転換幻想、すなわち、
Trans Sexual Fantasy――略してTSFの中で使われる単語。
エロやスケベなどの邪道な目的がなく、さらにもっと言えば自分の意思でなく異性の体に転じた者のうち、女体化……そう、男性から女性に転じた者をさす言葉。
本来とは違う性にされた事に対する戸惑い、恐れ、怒りなどを感じながらも、
自分らしく、そして男らしくあろうとする者を事を指す言葉。
自分のものとなった女性の体を大切にし、決して自らはエロ展開になることはせず、あくまで自分の道を貫く。
それは、女性の姿でありながら、まさに『漢』、女の中の、『漢』!!
ただし、こう呼ばれし者は必ず『イケメン』であることが、絶対条件!!
――――そう、すなわち、このハーレムエンドを目指すナイスなイケメン、この遠藤晴夢のように――――!!
抜粋『遠藤晴夢名言集』tamia☆KARI書房刊より。近い将来刊行予定!!」
「何本気で意味の無い事をしゃべりまくっているんだ!!」
ドゴ!!
再び晴夢を蹴り飛ばす辰羅。
「第一、TSFはTrans Sexual Fantasyじゃなくて、Trans Sexual Fictionだろうが!!」
「おお、さすがツッコミキャラクターの辰羅君!! 的確!!」
「褒めているわけではなさそうだな。しかし俺がツッコミキャラクターだとしても、この事態に突っ込んでどうにかなるわけじゃないぜ」
そう言って、辰羅は自分は小鳥隆幸――だと言う少女、由良瀬里奈に向き直った。
「いったい何があったのかはわからないが下手な嘘で俺達をだまそうっていう感じじゃなさそうだな。しかし、本当にお前小鳥隆幸なのか?」
「だからそうだと言っている! といっても、当事者である俺自身はっきり言って信じられないんだから無理もないかもしれないが……」
そう言って自分の体、すなわち瀬里奈の体をぺたぺたと触ってみる……さすがに良識があるらしく、デリケートな部分は触るのを避けてはいるが……
「どうだい? 男には本来あるはずないおっぱいが自分の胸についている感想は?」
ボッ!!
晴夢の言葉に意識していなかった胸のふくらみを感じてしまい顔が一気に赤くなる瀬里奈。
「お前は黙っておけ!!」
バゴ!!
辰羅は再び晴夢に一撃を加える。だが、頑丈なこいつことだすぐにまた復活してくるだろう……
「なんかこいつは、お前が本当に小鳥隆幸で、その由良瀬里奈って言う女の体に閉じ込められている事を受け入れているみたいだけど、俺にはどうも信じられん……いくつか聞いてみても、いいか?」
そう言って近くにあった椅子に腰掛ける辰羅。
「あ、私も聞いてみたい」
綾花もそれに賛同する。
「……俺はこんなところで時間を潰しているわけにはいかないんだ。俺の体――どうなってかわからないけれど、俺本来の体を探さないと」
「じゃちょっと待ってなさいよ。いま瑠璃ちゃんにメールしておいたから、しばらくしたら来てくれると思うよ。瑠璃の占いはよく当たるから」
「まったくあてにならない」
いつもの通りの言葉を辰羅がいう。
「とりあえず、お前は本当に隆幸なのか?」
「だからそうだって言ってだろ! しつこい奴だな」
瀬里奈は少女の声で男っぽい喋り方をしている。
「由良瀬里奈自身が隆幸を演じている……または、催眠術か何かで自分は小鳥隆幸だと信じこまされている……そういうことではないよな!」
「ハア、そんなことはあるわけないだろう!」
「そう言い切れる根拠は? って、いうか、俺が今言っていることは、人間の人格が入れ替わったなんていう話よりも、現実的だとは思うけどね」
「う……」
そう言われて瀬里奈は返す言葉がなくなってしまう。
「それにさあ、私もちょっと気になるんだよね。ねえ、コトリ君」
「〝コトリ”じゃない〝オズ”!! ~~っ、こんな事になってイライラしているのにいちいち、訂正させるな!!」
綾花の胸元をつかみ威嚇しようとする瀬里奈。
「……小鳥君は、〝コトリ”って、呼ばれるといつもそう返すけど、その後にそこまで怒ることはないよ。瀬里奈ちゃんが小鳥君の事をそこまでよくわかってないって、言うのなら今いる瀬里奈ちゃんは小鳥君の演技をしている瀬里奈ちゃんってことになるね」
「つまり、俺の言ってることが正しいってことか……」
綾花の説明に首を振って納得しようとする辰羅。
「だけど――そうじゃないとしたら……」
綾花は少し目を伏せ、何かを考え込むように……
「あ、そうか!! もしかして!!」
突然、何かを思い出したかのように動き出すと自分の机の横にかけてあったカバンから黒い色の袋に入った小さな小物を取り出す――――
「ちょっと来て、瀬里奈ちゃん!」
「な、なんだよ?」
綾花に手をひっぱられて、強引に教室から出される瀬里奈。
綾花が瀬里奈をひっぱっていった先は女子トイレだった。
「お、おい! 俺は今別にしょんべんなんかしたくないって!」
「女の子がそんな言葉使っちゃダメ!」
そう言って綾花は瀬里奈をともなって個室のひとつに入る――!
「なんだなんだ?」
「綾花のやつ、どうしたっていうんだ?」
辰羅と晴夢もついでに教室を出てきたが、さすがに女子トイレまでついていく気はなく外で立ち止まる。と、
「うわあああああああああああああ!!」
中から、女性の悲鳴が響き渡った!!
「なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!?」
瀬里奈は真っ青になってそう繰り返す。
「しっかりして! これは女の子にとってとても大切なことなの!!」
綾花は、小物の中に入っていた道具を取り出し瀬理奈のデリケートな部分に……
「うわっ!! ちょっと何するんだ!! やめてくれ!! あ、あうう!!」
「ちょっと黙ってて! 私だって他人にこれやるのは初めてなんだから!!」
「何をやってるんだ?」
「男にはわからないことだ放っておこう」
辰羅と晴夢はトイレの中の事には関わらないことに決めた。
「うわっ! 血、血! なんでこんなところから血が出てるんだよ!?」
「どうやら、中身は男っての本当みたいね! 生理のことぐらいちゃんと勉強しておきなさい!」
「生理……おい、それってまさか……」
しばらく、綾花による生理のレクチャーが行われることになる。
そして、すっかりと憔悴し、生気が抜けたきったように見える瀬里奈と綾花が女子トイレから出てきたのはしばらく時間を置いてからだった。
「まったくあの程度で騒ぎ出すなんて本物の女の子じゃ考えられないわね」
「こんなことで信じてもらえるとは思っていなかった……」
ついでに、自分が女の子の体であることを自覚できたのだろう。少ししぐさも女の子らしくなっている。
「ちょっと、刺激がすごすぎた……」
「あとで感想を聞かせてくれ」
「いい加減にしろ!!」
バゴ!!
今日何発目になるかはわからない辰羅の蹴りが、晴夢のぶっ飛ばした。
「とりあえず、何でそう言う事になったのか、説明してくれないか? なにか、力になれるかも知れないないだろ」
辰羅が瀬里奈の体の隆幸にいう。
「冷静になって考えると、俺の元の体を探すのが先の様な気がするが……さっきの事で探しに行く体力なんて残ってないから話すだけ話してみる……」
少々疲れた声で、瀬里奈はは話し始める……
「たっだいま~~!!」
「聞いてよ、今さっき、とんでもない変態がでたんだよ! もう、最悪!!」
話が始まる直前、新浪魅咲と翡翠瑠璃が1年A組の教室に戻ってきた。
「ああっ!! タンジュンキッドが完成してる!! すごい、感激!!」
「よく完成させたわね。さっきまで最低なゴミ屑を見ていたから、これでも芸術品に見えるよ」
魅咲が完成したばかりのタンジュンキッドの頭をポンポンと叩く。
「あれ、その子誰?」
タンジュンキッドに注目していた女生徒二人は、そこに別のクラスの少女がいるのに気付いた。
「話、初めていいかな……」
「話?」




