TS版『おっぱいをつけられたイケメン』-1
「これで、終了っ!」
「やっと終わったか……」
「お疲れ様!! じゃ、帰ろう」
一年A組の教室で、御陵辰羅、遠藤晴夢、そして神城綾花が出来上がったオブジェを見て、そう言った。
「まったくせっかくの芸術品を完成させたっていう感慨はないのか?」
辰羅が早々に教室を出ていこうとする晴夢に言う。
「……せっかくの完成、といってもこれでは……」
晴夢が1年A組の皆で制作した、学園祭展示用のオブジェを見る。
オブジェには、わかりやすく、作りやすく、そして有名な物が選ばれた。
さらに、このクラスにはヒーローマニアがいる。
そう、1年A組のオブジェは――タンジュンキッド――だった。
「俺としては、こんなオブジェよりハーレムエンドを目指して動いた方が有意義だと思っている」
周りでは、オブジェ制作を手伝っていたクラスメイト達が続々と帰宅の準備をしている。晴夢も、その中に加わる。
「第一、今日中にこれを完成させようって言ったのは瑠璃ちゃんだろ? あの子はどこへ行ったのさ?」
そう、だから1年A組の生徒達はがんばったのだ。外で何か騒ぎが起こっていても、タンジュンキッドを完成させるまで、黙々と……
「なんか、魅咲ちゃんが呼んでるって言って、ずっと前に出ていったよ」
綾花がそう言う。
「占い師だもんね彼女は。そういう事もあるだろう。じゃ、俺はハーレムエンド目指して、出発!!」
そう言って、教室のドアを開ける晴夢。そこで、ピタッと固まった。
「――?」
「ハァハァハァ……」
息を切らせた女子生徒が、一人で廊下に立っていた。
「……君は……?」
走ってきたのだろうか? 息を切らし、少し震えている。
「1年C組の由良瀬里奈ちゃん――だね! どうしたの? 俺のハーレムに入りに来てくれたのか!?」
満面の笑みを浮かべて両手を広げる晴夢。
「さあ、遠慮することはないよ。僕の胸に飛び込んでくるんだ。そして、一緒にハーレムエンドを目指そうじゃないか!」
それを無視して、教室に入り中にいる生徒を見渡す瀬里奈――そして、
「ここに、俺はいないか!?」
そう言った――
「……?」
「誰か探しているの? ええっと……由良瀬里奈ちゃん」
綾花が瀬里奈の前に行き、手をとる。
「っ!!」
バッ!
瀬里奈は慌てて綾花の手を払った。
「?」
キョトンとした表情で瀬里奈を見る綾花。
「あ……あっと、ゴメン、ちょっと人を探していて……」
「誰を? ……もしかして、瑠璃ちゃんとか魅咲ちゃんとか? ごめんね今の2人はこの教室にいないんだ」
「いや、そうじゃなくて……」
頭を振りながら否定する瀬里奈。何かを一生懸命考えているようだ。
「探してるのは……俺、なんだけど……」
「……オレ?」
訳が分からないという表情をする綾花。
「訳のわからない事を言う奴だな。〝俺”なんて言う奴がどこにいるっているんだ」
辰羅が話に加わる。と、
「――御陵辰羅!! お前には関係ない!!」
瀬里奈は急に声を荒げた。
「……? はあ、なんだそりゃ? 由良とかいたっけ、俺はお前と初対面だと思うが?」
「――!!」
瀬里奈の顔が青ざめる!
「――うう……とにかく、ここに俺がいないのら、用はない、邪魔したな!!」
そう言って1年A組の教室を出ていこうとする瀬里奈を。だが、
「ちょっとちょっと、慌ただしく出ていくことはないじゃないか。何か困り事があるならこの遠藤晴夢が助けになってあげるよ。そして俺のハーレムエンドに加わってくればいい」
そう言って晴夢が瀬里奈の前に立ち下がった。
「どけ!! 俺はお前になど興味はない!!」
瀬里奈は晴夢をドアの前からどかそうとする。
「何か、荒っぽい女の子だね。大人しそうな外見なのに」
綾花は瀬里奈の肩に手をかける。
「何があったのか知らないけどさ、誰かを探しているならば、瑠璃ちゃんを紹介してあげるよ。あの子の占い結構よく当たるから」
「あいつ占いはアテにはならないけどな」
いつも通りの言葉を辰羅がいう。
「とりあえず、あいつをよび戻すか。今日は演劇部も休みだしな」
「――演劇部などやめて、いい加減剣道部に入れ! 御陵辰羅!」
「――へ?」
演劇部の事を言った辰羅に瀬里奈が反射的にそういった。
「あ……」
そう、反射的にそう言ってしまった。いつもこの1年A組の教室で御陵辰羅に対しいつも言っていたから――瀬里奈じゃない……
それを言っていた人物は――
「小鳥隆幸?」
辰羅は呆然とした表情でそのセリフを言う人物の名前をつぶやいた。
「え? コトリ君?」
綾花はそう聞く。
「〝コトリ”じゃない〝オズ”だ!!」
そのセリフにも瀬里奈は反応してしまう――
………………………
周りにいた生徒達が、瀬里奈に対し冷ややかな視線を投げかける。
そこにいるのは由良瀬里奈――1年C組の女生徒だ。
顔立ちは可愛らしく十人いれば五人が可愛いと言い、もう五人は美しいと言うかもしれない。
髪の毛は黒く、肩の辺りまで伸ばしている。
着ているものは媛崎中学校の女子学生服。
胸は少しずつではあるが膨らんできている。
最近ブラジャーを買ったらしい。かすかではあるが、その存在を服の上からでも見ることができる。
校則であまり派手なアクセサリなどはつけられないが、小物には結構気を使っているらしい。可愛らしいアップリケが靴下などにつけられている。
どこからどう見ても、ごくごく普通の女子中学生の姿だ。
――実は由良瀬里奈にはもう一つ他人には知られていない姿があるが、ここでそれを語る必要はないだろう。
その、どこからどうみても由良瀬理奈であるその少女は……由良瀬里奈ではないらしい――
――小鳥隆幸――
この1年A組の教室では名物になっている男子生徒だ。
小学校五年の時このクラスの御陵辰羅に剣道の試合で敗れ、同じ中学になった時辰羅を剣道部に勧誘してくる1年B組の男子生徒。
名字を正しく『オズ』と読まれることはまずなく、『コトリ』と読まれることが多いためそれをよく否定している――
ただし、小鳥隆幸はちゃんとした男子生徒であり、今ここにいる女子生徒とは似ても似つかない――由良瀬里奈、小鳥隆幸。双方の知り合いがここにいる人物を見た場合必ずこの人物は由良瀬里奈だと答えるだろう。
だが、今までの由良瀬里奈の反応は小鳥隆幸がこの教室で見せていたものに違いなかった。
「瀬里奈ちゃんて、演劇に興味あるの?」
綾花が瀬里奈に聞く。
「え、演劇?」
「うん、そっくりだったよ。上手だね、小鳥隆幸君の演技!」
「え……? えっと…俺は……」
知り合いの男子生徒がいきなり女子生徒に変身したのでなく、よく知らない女子生徒が知り合いの男子生徒の演技をしている……綾花はそう判断した。
「まったくだ。演劇に興味があって演劇部に入りたって言うなら俺が宍戸先輩に口をきいてやってもいいぜ。まあ、あの人は基本くるものは拒まずって人だけど」
辰羅も瀬里奈を演劇希望の生徒だと判断した。が、
「誰が演劇部などに入るか!? それよりも、お前が剣道部に入れ!!」
瀬里奈、いや、隆幸か、は、いつも通りの反応をしてしまう。
……………………
再び周りの生徒達の視線が瀬里奈に集まる。
ここにいる由良瀬里奈は、自分たちの知っている小鳥隆幸なのだろうか?
それぞれが自問していく。
「フム、つまり小鳥君は『おっぱいをつけられたイケメン』となった訳か。うん、そうゆう子も俺のハーレムエンドには歓迎するよ!」
「何を訳のわからない事言っている!!」
ドガ!!
辰羅は一人で納得し、訳のわからない単語を作り出した晴夢を蹴り倒した!




