AS版その1『不測の事態』-1
「おい、今どこにいる!?」
辰羅は、携帯電話の相手に怒鳴りつける。
『ええっと、学校の地下室らしいんだけど、天井が崩れていて……そこから時計塔が見えてる!!』
「時計塔……?」
崎中学校の時計塔は、確か運動場の隅、校舎から一番遠い所に存在する。時計第の下にハードルやマット、ライン引きや石灰などの陸上部や体育祭で使う道具が入ってる倉庫がある。
『なんか、変なのがいるよ! 今綾花ちゃんに、別の所に救援を呼んでもらっている!』
電話の主はこれでも落ち着いて話を進めているようだ。が、所々うまく聞き取れない所がある。
「宍戸先輩、この学校に地下室なんてあったんですか?」
辰羅は携帯電話を切ることもせず同じ部室にいる宍戸先輩に質問を投げかける。
「いや、愛にかけて誓うけど、この学校に地下室なんて、聞いたことがない」
別に愛がどうのこうの言う必要はないだろうけど……彼も二人の女生徒が目の前で消えて混乱しているのだ。
「大変よ!!」
混乱する演劇部の部室に、一人の女生徒が駆け込んでくる!!
「瑠璃と綾花と辰羅はいる!?」
「俺はいるが、瑠璃と彩花はいない! 落ち着け魅咲、何があった!?」
駆け込んで来た新浪魅咲は別に息が上がっておらず、男子二人よりも落ち着いているようだ。しかし、彼女の口から発せられた言葉はその落着きとは裏腹に、信じられない内容だった。
「時計塔の所に、怪物が現れたって」
「ロイヤルセレナ! 天逆衆が現れた!」
レオのいつもの一言で、現実に戻される。
漫画研究会、略して漫研の活動中、自分で買ってきた白いノートにネームを描いていた途中だった。
「またなの? またなの、レオ!」
「ああ、もう大騒ぎになってる!!」
「大騒ぎ?」
瀬里奈は漫研に所属する数人の仲間にちょっと所用があると言って退室する。
「大騒ぎって、何なの!?」
「運動場だ!」
レオを持って廊下の窓から運動場を見る。
「え……? あれ何!?」
運動場は混乱していた。
もともと媛崎中学校は運動系の部活動に力を込めている方では無い。
だが、一般の中学校ではあるのです、野球部、陸上部、サッカー部、テニス部、ラクロス部などの外でやる部活動は運動場を使用していた。
時計塔は校舎から一番遠い場所にある。陸上部が部活に使う用具を出した後はあまり生徒は近づかない。野球部の人間が消えてしまったダイヤモンドを書くのにライン引きなどを取りに来るくらいだ。
その時計塔のそばで突然、爆発が起こった。
ドウン!!
「なんだなんだ?」
「花火か何かが爆発したのか?」
「まさか……この学校で、テロ!?」
「ガス爆発か何かじゃないか?」
生徒達は野次馬根性で爆発が起こった時計塔へ近づいていく。そこに、
「ワ~ボ~ワ~ル~!!」
などと言う声を上げて異形の怪物が姿を現した!!
「ど・ご・だ!! ワ~ボ~ワ~ル~!!」
それは、四つの腕を持つ少々痩せ型の身長3メートルくらいある巨体で、茶色の体色で毛が一本もない、目は濁った黄色で黒目はなく、口は鋭い牙が何本も生えていた――言うならば、ゲームに出てくるモンスター、映画に出現するクリーチャー……しかしそれは、テレビの画面やゲーム機のCGではなく、現実的な実体を持ってそこに顕現していた。
「なんだあれは!?」
「おい、誰かシルバーファングを呼んで来い!」
「いやこの場合はパープルフェニックスだろ!?」
「タンジュンキッド、タンジュンキッド、こういう時はタンジュンキッド!!」
生徒達が恐慌を起こして騒ぎ始める。
「とりあえず、逃げろ!!」
という叫びが聞こえるが、誰1人逃げようとする生徒は――実はいなかった――
非現実的な出来事に思考が麻痺しているのだ。
「う~ん、瑠璃ちゃんが特別だと思っていたけど意外と皆、シルバーファングやパープルフェニックス、タンジュンキッドの事を知っているんだね」
「綾花ちゃん、それってヒーローの人達を馬鹿にしてるよ」
時計塔の地下にあった謎の空間で、謎の怪物が出て来たために開けられた穴を見上げて瑠璃と彩花がそう言いあっていた。
「……何なんだろうね、あれは?」
「怪物……なんだろうね。ヒーロー物のやられ役って、感じだね」
謎の怪物は、
「ワ~ボ~ワ~ル~!!」
と叫びながら少しずつ移動してるようだ。
「あれがここから離れれば、脱出できるよね」
「でも、奥で倒れてる一色先輩や吹奏楽部の先輩達を助けないといけないのね」
この地下室の天井までの高さは2メートルくらいだから、2人で協力すれば出られないこともないだろう。だがそれは、怪物のそばに行くということを意味する。
「おい、ロイヤルセレナ……何処へ行くつもりだ!?」
瀬里奈は魔法少女ロイヤルセレナに変身する事もせず、2年の教室がある校舎を走り回っていた。
「ベル・ホワイト……白鈴先輩を探してるの!! あんな化け物に私がひとりで戦えるわけないじゃない!!」
思えば、白鈴愛美が2年である以外、どのクラスかどんな部活に入ってるのか、プライベートのことをあまり知らなかったのだ。
「ロイヤルセレナ……魔法少女がそんな弱気でどうするんだ!」
レオはそう叫んでいた。
「『幻影逃走兵』……!」
辰羅が意識を集中させる――
謎の怪物を遠巻きに見ている生徒達の間に、数人の学生服を着た人間が現れる。
『ニゲロ』
『ニゲロ』
現れたその数人が騒ぎ出し校舎に向かって走り出す!!
「あ、おい!!」
「わ、私も逃げよう!!」
「待って!」
ドタドタドタドタ!!
誰かが逃げ出した時、自分も逃さなければと言う意識が働いたのだ。
「ワ~ボ~ワ~ル~……デハナイ、ドコダワ~ボ~ワ~ル~!!」
怪物は、逃げていく生徒達を一瞥し何かを探すようにゆっくりと移動し始める……
逃げ出したその学生服達を追って生徒達も走り出す!
「集団心理、か。誰も逃げなければ安全だと錯覚してしまう」
「恐ろしいね。 1人だけじゃ、危険か、危険じゃないかの判断がつかないんだ」
生徒達が怪物から離れていていくのを確認した辰羅と魅咲が、怪物の死角から時計塔のそばに開いた穴に駆け寄る。
「あ、辰君だ!」
「魅咲ちゃん!」
穴の下から瑠璃と彩花が見上げている。
トン、タン!
「おい、何があったんだ」
「大丈夫、二人共?」
辰羅と魅咲が穴の中に飛び降りる。
「いったい何があったんだ?」
「う~ん、なんかさあ変な仮面をかぶせられた一色先輩がここの奥で綾花に襲い掛かってきて……で……綾花が『アーク』を使っちゃって……」
辰羅の問いに瑠璃が答える。
「『アーク』を? でも、あれって特殊能力を集めるだけの物だよね? しかも、能力者から離れた能力を集めるだけの物、あんな怪物を生み出す能力なんてないはずだよね!?」
魅咲がそう言う。
「――一色先輩を操っていた能力は今まで集められた能力とは全く違っていた――そう、この世の能力じゃなかった気がする」
綾花の話を聞いて黙り込む三人。
「とりあえず、それはここから脱出してあの怪物をどうにかしなきゃいけないな」
「『雲』を使えばすぐに出られるけど!」
瑠璃が上を眺めて言う。
「それだと私達は大丈夫だけど、奥で意識を失っている先輩達がいるの。あの人達も助けないと」
「それをするには、結局あの怪物をなんとかしないといけないということだな」
辰羅が目を閉じて考える。
「戦ったとして勝率は?」
「……俺達の戦力はわかっている。だが、あの怪物の戦力はわからない。『彼を知らず、己を知ればき一勝一敗す』――だから、50%ってところか……」
「あいつの言ってるワーボワール、って?」
「魔法少女の元いた世界だって前に聞いたことあるけど」
綾花の問いに魅咲が答える。
「え? あの魔法少女達って異世界出身なの!?」
「そう言ってたよ。三毛猫のヌイグルミが」
魔法少女と関わりのある魅咲がそう言う。
「……とりあえず、すぐに解決しなければいけない問題はあの怪物だな」
辰羅が構えを取る。
「やるしかないな……『妖気掌握』」
「そうだね……『祈力全開』」
辰羅に続き瑠璃も構えを取る。
「あ、綾花、これを持っていて……『術式解除』」
綾花にデジカメと眼鏡を渡し構えを取る魅咲。
「「「化身」」」
「戦」
「巫女」
「忍」
「「「化粧!!」」」




