A版その3-4
――放課後――
「お兄ちゃんは、お母さんの才能を受け継いでいるの。だから音楽的な事に関しては物凄くよくできるの。私は、駄目、お兄ちゃんほど才能がない」
綾花はそう言って笑う。
「そうか? 時々演劇部でもバイオリンとか弾いてはいるけど素晴らしい演奏だと思うぞ」
「そうそう、即興芝居であそこまでムードにあった曲をあっさり演奏できるなんて、才能以外の何物でもないと思うけど?」
綾花と一緒に演劇部の部室へ向かっている辰羅と瑠璃がそう言う。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、あれは昔からよくお母さんやお兄ちゃんと一緒に弾いてた曲を演奏してるだけだよ。楽譜を見ずに弾ける曲は実はそんなにないの。それに私、バイオリンとかならある程度弾けるけど、吹奏楽器とかは苦手なんだよね。息がほとんど続かない」
「そういや、綾花ちゃんが縦笛とか吹いてる所見たことないなぁ」
「本当なら、バイオリンよりも縦笛の方が簡単なんだろけどね」
「羨ましいなぁ、私はどれもそこまで上手くないし」
瑠璃が笛を吹くようなジェスチャーをしてみる。
「……吹奏楽器以外だったらどんな楽器が演奏できるんだ?」
「ピアノは弾ける程度だよ。ちなみに、ベースやギターなどの軽音楽器も弾こうと思えば弾ける。ドラムも叩いたことがあるよ。でも、どれもお兄ちゃんにはかなわなかった」
「……それって結構羨ましいな、私は一人っ子だし」
瑠璃が頬を人差し指で掻きながらそう言う。
「……そういえば辰君には兄弟いるの?」
「俺? 俺には……兄貴がいっぱいいる」
辰羅は遠い目をしてそう言う。
「……前にも同じ様な事を言ってたような気がするけどさあ、実際は何人くらいいるの? まさか10人くらいいるとか言わないよね?」
綾花が、自分自身のことから話題がそれたのをいいことに辰羅の兄弟に話題を振る。
「まさか、その倍はいる」
こともなげに、辰羅はそう言った。
「……その倍って……20人!?」
綾花がびっくりして叫ぶ!
「正確には、21人だ。臨之介、兵之介、闘之介、者之介、皆之介、陣之介、列之介、在之介、前之介、急之介、如之介、律之介、令之介、富之介、士之介、山之介、鷹之介、子之介、牛之介、寅之介、卯果、そして、この俺辰羅――二十二男だ」
「……まじ? 二十二人兄弟なの?」
綾花が呆れた表情で言う。
「いや、俺の下に二十三男の巳斗と二十四男の馬牙、そして長女の椿がいるから全員で二十五人兄弟だ」
「冗談だよね?」
「いや、マジで。ちなみに、一番上の臨之介兄さんの息子……つまり俺にとっては甥にあたる真之介さんは、俺の倍以上生きてる」
「年上の甥って……まるでマンガの中の話みたいね……」
綾花が完全に呆れた表情で言う。
「って、言うか、二十男まで〝之介”がついてて、どうして辰君の一個上からはついていないの?」
どうでもいいことに興味を示す瑠璃。
「親父は……女の子が欲しかったらしい……だけど産まれてくる子供、産まれてくる子供、全員が男だったんで、親父は20人目ぐらいで娘が生まれることを諦めて孫にかけたらしい。だから、甥の方に卯之介や竜之介、辰之介がすでに存在していたんだ。ちなみに、卯果兄さんは今高一だか、寅之介兄さんまではかろうじて一番上の甥、真之介さんよりも年上だ。だいぶ歳が離れてる」
特に気にする様子もなく辰羅はそう言って話をしめた。
「……まぁ、辰君のお父さんが頑張ってくれたおかげで辰君が今ここにいるんだから感謝すべきなんだよね」
「……あまり深く追求するなよ。突っ込むのがややこしくなる」
辰羅はそう綾花に返した。
そうこう言ってるうちに三人は演劇部の部室に着く。
「やあ、今日も愛のために演劇にうちこもうか!」
すでに部室にきていた宍戸秀作が三人を出迎える。
「相変わらずテンション高いね宍戸先輩は」
苦笑しながら辰羅が部室に入り、続いて瑠璃と綾花が部室に入ろうと……
「あれ?」
瑠璃と綾花が動きを止める。
「ここ、どこかな?」
そこは、演劇部の部室ではなかった。
音楽が、聞こえてくる。誰かが楽器を奏でているようだ。
それも、1人や2人じゃない。何人かの合奏のようだ――
「窓がない……ね、ここどこだろう?」
真っ白な壁に薄暗い光……二人は、とりあえず音楽が聞こえる方向へ進んでみた。
「待っていましたよ、神城綾花……」
薄暗い場所を進んだら、広い場所に出た。そこには何人かの生徒達がいて、思い思いの楽器を演奏していた。
――その中の一人が、立ち上がり二人を見る――
その人物は顔に不可思議な文様が描かれた仮面をかぶっていた……
「……? その声……もしかして、吹奏楽部の一色先輩?」
綾花は昼休みに1年A組の教室に来た先輩を思い出していう。
「ええ、そうよ……あなたに私達の音楽の素晴らしさを知ってもらおうと思ってこういう場所を用意したの」
その仮面の下の瞳が欲望でギラギラしているのが分かる。
「……何やってるんですか? ここ、吹奏楽部の部室なんですか?」
「……『魔女・ボーンネッド』……」
瑠璃がヒーローカードを一枚引く。それは、パープルフェニックスに出てくる敵役の魔女のカードだった。
「――綾花ちゃん、逃げよう!!」
瑠璃は綾花の手を取り走り出す!!
「え! う、うん!!」
綾花は一瞬戸惑ったがすぐに瑠璃と共に走り出す!!
「逃がさないわ」
一色遼子がトランペットをかまえる。
~~♬!!
遼子がトランペットを演奏すると、音楽が波動のように発せられる!!
「くっ!!」
その音楽の波動に向けて瑠璃がヒーローカードを投げつける!!
バチバチバチ!!
「――!!」
波動に当たったヒーローカードが燃え上がる――!!
遼子の放った音楽には相手を打ち止めす破壊の波動が込められていたのだ。
「わ、私の大切なヒーローカードが!!」
瑠璃はそう嘆くが、足を止めようとはしない。破壊の波動は彼女たちのほんのすぐ後ろまで迫ってきている――が、
「今のは……?」
燃え上がるカードと波動を見た彩花の足が止まってしまう。
「綾花ちゃん、ダメ!!」
瑠璃が叫ぶ!!
「さあ、神城綾花……私の音楽の力を思い知りなさい……」
遼子は再びトランペットをかまえる……
「………魔法………」
~~♬!!
トランペットから音楽の波動が発せられる………
「……い……」
綾花の体が硬直して動かなくなる。
「綾花ちゃん!!」
瑠璃が大声で叫ぶ!!
「そこで、それを使っちゃダメよ!!」
波動が綾花に触れる――
綾花は右手の手のひらを上に向けてその波動を受け止める――その手に赤黒い小さな箱が出現している――
「え……?」
遼子の動きが止まる。
波動が綾花が出現させた小さな箱に吸い込まれていく――
波動だけでは無い、遼子の持っていたトランペットに込められていた魔力も、遼子に力を与えていた後の吹奏楽部員達の演奏の魔力も、そして……天逆衆・クロマントによってかぶせられた天逆衆の仮面の力すらもその小さな箱に全て吸い込まれてしまう――!!
「『アーク(聖櫃)』――!!」
綾花はその手に出現させた箱を、そう呼んだ……
パタ……
仮面の力を失って遼子は倒れてしまう。彼女の後ろで演奏していた吹奏楽部員達も、彼女達を操っていた魔力が切れたことにより次々と倒れていく――
「綾花、ちゃん……大丈夫!?」
心配そうに瑠璃がそう言う。
「うん、ごめん……ビックリしたから使っちゃった……」
そう言って箱の蓋を閉じる綾花……
「まあいっか、とりあえずここどこなのかわからないけど危機は去ったみたいだしね」
そう言って瑠璃は助けを呼ぼうと携帯電話をを取り出し……
「――!! 綾花ちゃん!!」
「――嘘!!」
ドウン!!




