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A版その3-3

「あれ? 苺先輩だ。何かのスクープですか?」

 魅咲が、A組の教室に入って来た5人の先輩達の内、一人の顔を見てそう言う。どうやら、その人物こそ媛崎中学2年A組新聞部部長、草薙苺その人らしい。左胸に付いているネームプレートにも『草薙』とある。

「草薙編集長、よ。魅咲ちゃん。いつになったらきちんと呼んでくれるの?」

 苺は半眼で魅咲を睨み付ける。

「それが苺の後輩? 優秀そうね、新聞部も安泰そうね」

 ネクタイの色から苺と同じ2年だとわかる女生徒が、そう言う。

 残りの3人のうち、 1人は同じネクタイをしていることから2年、残りの2人は3年だとわかる。

「自己紹介させてもらうわ」

 3年の1人、ネームプレートに『一色』とある、が、口を開く。

「私は媛崎中学校吹奏楽部部長一色遼子。そして、副部長の」

「多々守です。よろしく」

 そう言って頭を下げるもう1人の3年。

「丹波っす」

「仙谷よ」

 後ろの2年も自己紹介する。

「それで、神城綾花は誰?」

 遼子が1年A組のクラスメイト、ついでにその場にいた隆幸や陽子の顔を見渡す。

「私ですけど?」

 綾花はとりあえずそう言って手を挙げてみる。

「あなたが神城先輩の妹さん?」

「はい、そうですが……」


 ガタガタガタ!!


 4人の先輩は一斉に動き綾花を取り囲む。

「苺先輩、何が起きるんですか?」

 1人動きがなかった苺に魅咲が尋ねる。


「「お願い、吹奏楽部に入って!!」」


 4人の先輩達は一斉にそう言った。

「な、何ですか一体……」

 驚いた表情で先輩達を見返す綾花。

「だってあなたはあの神城真一先輩の妹なんでしょう? だったらあの有名な世界的バイオリニスト、神城菫の娘って事よね!」

 遼子が勢いこんで話を進める。

「神城菫…?」

 辰羅が隣にいた瑠璃に聞く。

「確か、ヨーロッパで活躍しているバイオリニストのはずだよ。でもまぁ同じ名字だからって綾花ちゃんと親子だなんて思いもしなかったけど」


「…………」


 綾花はゆっくりと立ち上がる。

「なんで私が吹奏楽部に入らなくてはいけないんですか?」

「媛崎中学の吹奏楽部は去年まで、ものすごく優秀だったの。神城先輩がいたからね。でも、神城先輩が卒業した今では前までのレベルがなくなってしまったのよ」

「だから、神城先輩の妹であるあなたに吹奏楽部に入ってもらいたいのよ!」

 綾花の答えに3年の先輩2人がそう言う。

「そうなんですか?」

 瑠璃が近くにいた2年の丹波に尋ねる。

「私達2年が卒業した神城先輩の演奏を聴いていたのは半年ちょっとの間だっただけどね、すごかった。本当にすごかった……私達が同じ楽器を使っても同じ音楽を奏でる事は不可能だって……そう思っていた……」

「だから、お願い! 神城先輩の妹で神城菫の娘なら、かなり音楽力が高いでしょ! 吹奏楽部に入って!!」


 ユラリッ……


 綾花が瞬間的に4人の先輩の間をすり抜ける。

「!!」

 いつの間にか、綾花の手にバイオリンが現れていた。


 ……♪~~♬・♪~~♬……♪~~


「――!!」

 美しい音色が1年A組の教室内に満ち溢れる。

「すごい……」

「綺麗な曲……」

「音楽で一番はあの子なのね……」

 周りから感嘆の声が溢れる……

「見ての通りです、私の音楽の腕はお兄ちゃんやお母さんには遠く及びません。吹奏楽部に入っても役に立たないと思います」

 綾花はそう言ってバイオリンの演奏を止めた。

「いや、十分に高いレベルだと思うけど」

「辰羅君、ここは突っ込む所じゃないよ」

 どこからか取り出したケースにバイオリンをしまいながら綾花はそういう。

「かなりレベルが高いと思うよ。吹奏楽部に入ってくれれば即戦力になるわ!」

「そうよ、演劇部なんかやめて、吹奏楽部にきてよ!!」

「バイオリン以外ではどんな楽器ができるの!?」

 テンション高くそう綾花に詰め寄る多々守、丹波、仙谷の3人。

「先生からもお勧めしますよ神城さん」

 そこにいた鈴鹿先生までもがそう言ってくる。ところが、

「……」

 吹奏楽部部長の遼子だけは、無言だった。

「……部長、神城さんに入部してもらいましょうよ」

 同じ3年の多々守がそう言う。

「綾花ちゃん、演劇部をやめちゃうの?」

 瑠璃が綾花にそう聞く。

「今すぐに答えをもらおうとは思っていません――少し考えていてもらえますか?」

 遼子は突然そう言った。

「え? なんか今すぐ答えが欲しいって感じだったですけど?」

 綾花は不思議そうにそう言う。

「もうすぐ昼休みは終わります。多々守、丹波さん仙谷さん。教室に戻りましょう。草薙さん協力していただいてありがとうございます」

「え、部長?」

 それ以上は何も言わず遼子はA組の教室を出ていった。

「待ってよ」

 他の4人の先輩、ついでにA組の生徒ではない隆幸と陽子もA組の教室を出ていった。




(神城真一……どうしてあなたは私をいつまでも苦しめるの……?)

 一色遼子は幼い時から音楽について英才教育を受けてきた。

 同年代の人間で彼女以上の音楽センスを持った人間はほぼいない……そう信じてきたほどに。

 しかし、媛崎中学に入学したときに軽い気持ちで覗いた吹奏楽部の部室ですべてがブチ壊れてしまった。

 世界的なバイオリニストとして尊敬と、いつか越える目標としていた神城菫の息子、神城真一……彼は遼子の上をいつも行っていた。

 神城真一が高校入試のため吹奏楽部を辞めるまでの間、彼女は彼に対する劣等感をいつも持っていた。その反面真一のレベルの高さに少しでも追いつこうと必死になっていた。

 そして……神城真一が卒業し媛崎中学を去った今でも彼に対する劣等感は消えていない……

 それは友人である多々守も知らない事。

 神城真一がいなくなってから吹奏楽部のレベルが落ちた――


 もし自分が神城真一並みのレベルを持っていたならばそう言われることはなかっただろう。

 追いつこうとしても全く追いついていない存在。遼子の中で真一はどんどん大きな存在となっていた。


 そんな時、1年に神城真一の妹がいることを知った。

 演劇部に入部したらしいその女子生徒を吹奏楽部の仲間たちはどうにか引きぬけないかと今回の勧誘に至ったわけだが、遼子の目的は違った。

 血が、血統が、神城菫の遺伝子が全てではないとそう思いたかった。


 だけど、神城綾花は想像の上をいった。


 彼女はあのバイオリンの演奏だけで自分よりも上だと証明してしまった。

 母や兄には及ばない。


 ――――でも、あなたには負ける気は無い――――


 そんなことを言われたわけではなかったが何故かそう言われたような気がした。


「い~い欲望を持ってんじゃん!」

「!?」

 天井から遼子を見下ろす真っ黒な人がいた。

「このボク、クロマントの手下として働けるかどうか試してやる!!」

 仮面が――遼子の顔を覆う!!

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