A版その3-1
「というわけだ辰羅。剣道部に入れ。そして俺と共に悪と闘え」
「断る。ってゆうか何がというわけだ? しかも何で俺が悪なんかと戦わなければいけないんだ? そーゆーのはシルバーファングにでも任せておけばいい」
昼休み。弁当っを食っている御陵辰羅の前にB組より現れた小鳥隆幸がそう言っている。
「天逆衆、 魔法少女達が戦っている悪の名だ。この学校を支配しようとしている」
「……」
辰羅はそれに答えを返そうとせず、弁当を口の中に入れる。
「突っ込まないの?」
その様子を見ていた神城綾花がそう言った。
「突っ込む気力すらねえよ。話が飛躍しすぎている。そもそも、魔法少女なんて魅咲がでっち上げるだけだろ?」
「それは違う!! 俺はこの目で見た、魔法少女は存在する――それと、魔法少女が戦う悪もな……」
隆幸が拳を握りしめ力説する。
「なあ、コトリ……」
「コトリ、じゃない、オズだ!!」
辰羅はそこでやっと箸を止めて隆幸を直視する。
「お前が騙されてないか?」
「な……!?」
「魅咲のは、まだいい。あいつははっきり言ってシャレやっている。誰に頼んでいるかは知らないが、コスプレをしてもらってそれを写真おさめて魔法少女だなんて冗談をやっている。そもそもあいつの作る新聞なんて昔から捏造だらけのゴシップ系新聞だ」
「え? 辰羅君て、魅咲ちゃんと昔から付き合いがあるの?」
「……言ってなかったか? 俺と魅咲は同小だったんだよ」
「そうだったの? 私は辰羅君と瑠璃ちゃんが同小だと思ってたんだけど?」
意外そうな顔で綾花は言う。
「……瑠璃は別の……確か、京都の方の学校だったらしいぞ。俺だって詳しくは知らない」
辰羅は弁当を食べ終わり弁当箱の蓋を閉じる。
「そんなことはどうでもいいから俺と一緒に剣道部に入り魔法少女を助けよう!」
隆幸が強い口調で言う。
「小鳥……、お前周りが見えているか?」
「へ?」
辰羅の言葉に隆幸は周りを見る。
「あいつ……大丈夫か?」
「魔法少女って新浪が新聞で書いてるだけの存在だろ?」
「あのゴシップ新聞を鵜呑みにする奴っているんだなぁ」
「……」
周りにいるA組の生徒達が隆幸と辰羅、そしてそばにいた綾花を遠巻きにしてヒソヒソと話している。
「そういえば、新浪は? あいつも魔法少女に会ってるはずだ!」
「魅咲ちゃんは瑠璃ちゃんと一緒に鈴鹿先生の所へ行ってるよ」
「呼ばれたのは瑠璃だけなんだけど、スクープのにおいがするとか何とか言ってついていった」
「鈴鹿先生の?」
A組担任、鈴鹿珊瑚は英語の教師だ。B組でも、英語の授業は彼女が担当している。隆幸は若くて綺麗な英語教師の姿を思い浮かべる。
と、噂をすればなんとやら、
「みんな!! 聞いて~~!! 鈴鹿先生がお見合いをするらしいよ!!」
大きな声を上げて魅咲が飛び込んでくる!
「違います!! 占いが得意だと言う翡翠さんに恋愛運を占ってもらっただけです!!」
「結構良かったよ、鈴鹿先生の恋愛運!」
その後ろから当事者の鈴鹿珊瑚と翡翠瑠璃が教室に入ってくる。
「今度の学級新聞のスクープはこれだね。鈴鹿先生の新たなる名字!! なんて名前になるんですか? 彼氏さんのお名前は!?」
「新浪さん、いい加減にしてください!」
教師らしく注意する鈴鹿先生。だがその赤い顔は何かを雄弁に物語っている。
「ひ、人のものになるというのであればもう珊瑚先生を俺のハーレムに加えることができないじゃないか……!」
教室の後ろの方で一人、そう言って嘆いている生徒がいる。
遠藤晴夢だった。
「新浪!!」
担任教師を中心にしたざわめきをさえぎって隆幸が魅咲を呼ぶ。
「おや、コトリ君?」
「しつこい! 俺はオズだ! そんなことよりもお前、魔法少女がいることを証明できるような!」
「……」
ほんの数瞬、魅咲は隆幸を見つめる。
「苺先輩がさあ、あれボツだって」
「え?」
残念そうな顔で魅咲はそういう。
「やっぱりさあ、あのヌイグルミを手に入れられなかったのが大きな失敗だよね。結局写真だけじゃただのコスプレ写真しか見えないもの。次は絶対にあのヌイグルミを手に入れるよ」
ヌイグルミというのはあの時にいた魔法少女の使い魔のことだろう。
それを言う魅咲の顔はいつものグルグル眼鏡で見えないために、本気かどうか窺い知ることができない。
「……お前、それでいいのか? 本当の事を書いていてもインチキを呼ばわりされてそれでいいのか?」
隆幸は震えながらそう言った。
「仕方ないじゃん。真実なんてわかる人だけに伝わればいいと私は思ってるよ。それに、こうして皆が私が書いた新聞を読んでくれたことがわかるだけで充分だよ」




