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S版その2-1

「私は、この学校で一番になる!!」

 入学した時に、そう言う目標を立てた女子生徒がいた。

「クラスの生徒で一番になるために、学級委員長は私がやります!」

「勉強もトップクラスの人間です!! ……さすがに、1年全体ではトップを取ることは難しいですね……でも必ず一番になってみせます!」

「この学校の生徒の一番、つまり生徒会長になる! だから生徒会選挙の時は私に入れてください!」

 少女は常日頃からそういう風に言っていた。

「今の1年が生徒会長になる生徒会選挙は、まだ1年以上先の話だろ?」

 別のクラスの誰かがそう言っていたが彼女は気にしていなかった。

 彼女の名は夏樹陽子という。媛崎中学校で通っているクラスは1年B組だ。

 陽子がB組のクラスに入る前に、いつもやっていることがある。それは、

「達は笑顔も一番にならなきゃいけない。一番に見る顔が笑顔だとみんな私の笑顔を覚えていてくれるから!!」

 そう言ってクラスの教室に入る前には必ず鏡で笑顔をチェックしていた。

「みんな、おはよう!!」

 チェックした笑顔で元気な声で挨拶しながら教室に入る……それがいつもの陽子だった。


 ――しかし――


「え……?」


 そこは、1年B組の教室ではなかった……

 陽子の顔が曇る……さっきまでチェックしてたはずの笑顔が不安げな表情に変化する。

 教室よりもほんのちょっと狭いくらいの窓のない薄暗い部屋だった。天井はLED蛍光灯があるはずなのに不確かな光を放つ訳のわからないものが設置してあると言う不確かさ……部屋はガランとしていて隅のほうにテレビが何かのアニメを放送している。その前に、上から下まで黒づくめの人影が三角座りで座っていた。

「えっと……」

 陽子は慌てて振り返ると一目散にその部屋から逃げようとする。が、彼女の背後もまた似たような空間だった――

 ここは、あきらか様に媛崎中学では無い。そう確信する――

「何……これ……? なんなの?」

「わらわの招待は気に入らぬか?」

 テレビの前に座っていた黒づくめの人(?)が、立ち上がる。まるで宙に浮いてるかのように滑らかに、足音も立てずに陽子の前まで移動して来た。

「きゃ!」

 陽子は逃げようとするが、その黒づくめの人は、黒い手袋をした手で陽子をつかみ、逃げられないようにする。

「……感覚が、ない……!?」

 陽子はその手はただの手袋が自分の腕に置かれているだけだ、というような感覚を感じていた。しかしその手は振りほどくことができなかったし、外すこともできなかった。

「わらわは天逆衆、カゲホウシ……良い欲望を持っておるようじゃの」

 黒い人――天逆衆・カゲホウシを名乗る人物は、空いているもう片方の手に不思議な文様の仮面を出現させる。

「さあ、その欲望を強さ、わらわに見せてみるが良い」

「あ、ああ、あ……きゃああああああああああ!!」

 陽子の顔に仮面が被せられる――!!




「「一番!! 一番!!」」

 隣のクラスから、そういう大声が聞こえてきたのは授業中の事だった。

「何? 一体!!」

「なにが一番だ?」

「うるさい!」

 周りのクラスメイトたちが騒ぎ出す。

「「一番!! 一番!!」」

 どうやら、隣のクラスで全員がそう連呼しているようだ。

「静かに。ちょっと行って注意してきます」

 1年C組の担任古高直介は生徒達に静かにするようにいいわたし、教室から出て行く。

「一番といえば……隣のクラスにはいつも一番一番と言っている女の子がいたな。俺の彼女になってくれないかなぁ……」

 首から小さなお守りをかけた京極疾風がそうぼやいている。


「……ロイヤルセレナ、天逆衆だ……」

「え……?」

 カバンの中からレオが顔を出して瀬里奈に小さくそう告げた……

「いってみよう!」

「う、うん……」

 教師である直介は注意のために出ていっているとはいえ、今はまだ授業中のはずだ。しかし、大声で

「「一番!! 一番!!」」

 とうるさく騒いでいる隣のクラスがある限り、授業になりそうにない。

 瀬里奈はほんの少しあたりを警戒するとゆっくりと人目につかないよう、教室を脱出した。


「「一番!! 一番!! 一番!!」」

 廊下に出ると1年B組から聞こえてくるその声は一段と大きくなっている。もはや、B組の生徒全員が叫んでいるのは明らかだ。

「おい、どうなっているんだ? 何を騒いでいる?」

「ドアがあかないぞ!」

「うるさいです、静かにしてください!」

 C組の担任教師、古高直介だけでなく、D組の担任教師、島戸那智やA組の担任教師、鈴鹿珊瑚もいる。そして、野次馬根性の高い他のクラスの生徒達数人、廊下に出ていた。

「事件かなぁ? スクープになるといいなぁ」

「新浪さん、不謹慎なことを言わないでください」

 デジタルカメラを構えてそう言っている新浪魅咲に、担任教師の珊瑚が注意をしている。

「鍵でもかけているのか? 開けなさい!!」

 そもそも教室のドアには鍵などついていないはずだ。それなのにドアは開こうとしない……

 直介が、強引にドアを開けようとする。

「島戸先生、手伝ってください!」

「ああ!!」

 男性教師二人がB組のドアを強引に開けようとする。

 だが、ビクともしない。

「「一番!! 一番!!」」

 中からはずっとその叫びが聞こえている。


「これが、天逆衆の仕業なの……?」

「うん、そうだよ。間違いない!」

 瀬里奈とレオが誰にも聞こえないようにそう話している。が、

「へえ、これでやっている犯人に、心当たりがあるのかしら?」

「!!」

  そんな2人の会話を耳ざとく、聞きつけた者がいた。

「新聞部の……!!」

「そうです、私が新聞部1年、新浪魅咲です!!」

 グルグル眼鏡の女の子、新浪魅咲がにっこり笑ってそういった。

 彼女は前回の戦いでロイヤルセレナを見ている。だからレオが話していることも、もしかしたら知っているのかもしれない。って、いうか、もしかしたら……正体がばれているのかもしれない……!!

「で、さっきの話だけど、この事件を引き起こした犯人に心あたりがあるの? 天逆衆なんて言っていたけれど?」

「天逆衆? 平安時代から戦国時代に至るまで朝廷に逆らっていたという妖術師集団の事か?」

 島戸那智先生がそう言ってくる。

「え? 知ってるんですか?」

 瀬里奈は驚いて声をあげてしまう。D組の担任、島戸那智――歴史学に造詣の深い現国の教師である。

「過去に滅びた妖術師集団が今何の関わりがあるんだ? いい加減な事を言ってるんじゃない!」

 そう言って直介とともに再びドアを開けようと一生懸命になる那智。

「……ロイヤルセレナ、ここからはあの教室に入れそうにない……」

 レオが、周りから気付かれないように小さな声で瀬里奈にそういう。

「でも、どうしたら……」

 瀬里奈も小さな声で周りに気づかれないように、特に口元に笑みを作って時折こちらに顔を向けている魅咲に気づかれないように……

「いったん外に出よう。空飛ぶ魔法を使えば、B組の教室に入れるはずだ」

「うん」

 瀬里奈は周りに気づかれないよう警戒をしながら一人+一匹で校舎から出ていった。






「魔力解放・変身!! 『ロイヤルセレナオーロラデビュー』!!」


 キラキラキラ、バシュ~~ン!!


「光あまねく未来へ導く荘厳華麗な太陽の申し子、その名も尊きロイヤルセレナ! ここに推参!!」

 校舎の影で誰にも見られないよう変身するロイヤルセレナ!!

「じゃあいくよ、『フライング』!!」

 次に使ったのはステッキを空飛ぶ箒に変える魔法だ。

「いくよロイヤルセレナ!!」

 レオが箒の先端に乗りその後にロイヤルセレナが腰掛けるような格好でのる。

 周りの風が箒に集まるような感覚があり、ロイヤルセレナとレオを乗せたまま箒が浮かび上がる。


 シュン!!


 そのまま空を飛び、3階の1年B組の教室の窓の前まで移動する。


「「一番!! 一番!! 一番!!」」

 B組の中は異様な光景だった。生徒達、そして担任教師までもが皆同じようなポーズを取り同じ言葉を繰り返している。それを先導してるのは教壇の上に立つ一人の仮面をつけた少女だった。

「さあ、私を称えなさい。私はこの媛崎中学校で一番になる者、夏樹陽子!!」

 人差し指を天に向けてナンバーワンのポーズをとって一番!! 一番!! と繰り返している陽子。他の人間達はその動きをトレースしている。

「レオ、あの仮面って……」

「うん、間違いなく天逆衆の仕業だよ」

 ロイヤルセレナはそのような光景に圧倒されながら呟く。それに答えを返すレオ。

「この窓、鍵があいてるよ」


 ガラガラガラ!!


 多少派手な音を立てて窓が開く。その音に気付いて、陽子が顔をロイヤルセレナに向ける。

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