A版その2-4
隆幸が持っていた剣が宙を舞う……
「あ……」
隆幸は呆然と、手の平を見る。
『俺の勝ちだ!!』
辰羅が、堂々と勝ち名乗りを上げる。それは、台本にある台詞なのかそれとも本心なのか……?
『かくして愛のために戦った2人の騎士、片方は勝利の栄光と美しき姫の愛を得、もう片方は敗れ去った。 2人は勝者敗者の違いがあるど、深き愛を持っていたと言う事は全く変わりない……そう、愛こそがこの戦いの元凶、愛ゆえの結末、愛のための光と闇……』
宍戸先輩が朗々と自ら手がけた脚本のモノローグを読み上げる。
『姫……俺の勝ちです。俺の求婚、受け入れてくれますね?』
そして、 〆は辰羅と瑠璃の芝居……
愛の伝道師、宍戸先輩脚本による歯の浮くようなラブシーン……
『ええ、喜んで……』
辰羅が扮する騎士が瑠璃を引き寄せ、そして……互いの唇が近づき合い……
~~♪~~♬~~♬~~♪
いつの間に手にしたのか、メイド服の綾花がバイオリンでムードたっぷりの曲を奏で始めている。
「いいぞ~!」
「やれやれ!!」
「おい、御陵! ちょっとそこかわれ!」
「見せつけてんじゃねえ!!」
その様子を見学している生徒達から、冷やかしの声や怒気を含んだ声が上がる。
しかしそこで、舞台装置が作動し、舞台の幕が下りてしまった……
「ふ~~……」
大きくため息をついて瑠璃を引き離そうとする辰羅。しかし瑠璃は離れようとせず、辰羅に抱きついてきた。
「おいおい、もう、幕は閉じたんだ。芝居は終わったんだよ……!」
「ええ、いいでしょ? キスぐらい!」
~~♪~~♬~~♬~~♪
綾花のバイオリンはまだ続いている。
「ふっふっふ。カメラの準備はバッチリだよお二人さん!」
そう言ってデジカメをしっかりとかまえる魅咲。
「ああ、愛は素晴らしい!!」
宍戸先輩も、平常運行だ。
「おい! 隆幸!! お前、何か言ってくれ!!」
辰羅は幕の降りた舞台上の中で唯一味方になってくれそうな人間に声をかける。
「……」
その相手、小鳥隆幸は完全に放心状態だったがだんだんと目に光が戻ってくる――
「辰羅……お前……」
その、地の底から響き渡るような低い声……
「あ……声をかけた相手、間違ったかな?」
「剣道部に入れ!!」
隆幸が大声で叫んだ!
「――!!」
「やっぱりお前は、俺と一緒に剣道をやるべきだ!! 演劇部なんかはやめて、剣道部に来い!!」
恐ろしいまでの剣幕でそう叫ぶ隆幸。
「う~ん、御陵君は演劇部の貴重な部員なんだけどね……」
宍戸先輩がその様子を見ながらそうつぶやいた。が、隆幸はお構いなしに辰羅を剣道部に勧誘する!
「俺はもう、1年でレギュラーをもらっている! その俺と互角であるお前が加われば、全中剣道界に媛崎ありと呼ばれるようになる!!」
あくまで互角……隆幸はそう言っている……
「だあああ、いい加減しろ!!」
辰羅はたまらずに叫んでしまった。
「まあこれも、一つの愛、か……」
「ねえ辰君、あなた……さっき、『幻影刀刃』を使ったでしょ?」
瑠璃がポツリと、そう言う。
「あ、気づいていたか」
「能力を持たない人に能力技を使うなんて、何を考えているの?」
「隆幸は、はっきり言って強いんだよ。2年前よりもはるかに強くなっていた。あれ以上やっていたら、俺は歯止がきかなくなっていただろう……だから、能力を使ってでも早めに決着をつけたかったんだ……」
「……それはつまり、小鳥君の実力を認めてるって、ことか……羨ましいなぁ、私なんか全然辰君に認められてないもんの」
そう言って、ヒーローカードを取り出す瑠璃。一枚、引き出す。
「シルバーファングのバーニングバージョン……この占いの結果は……」
「あてにならないだろ、お前の占いは」
結果を聞きもせず、辰羅はそう切り捨てた。
「うう、やっぱり私は辰君に認められてないんだね。辰君が認める人ってどんな人なの?」
「……綾花かな? あいつの音楽センスは凄まじいものがある……」
「……イジワル……」
目に涙をためて、瑠璃はそう言った……
『幻影刀刃』
サムライ・風雷が秘伝書によって覚える奥義のひとつ。
マモノが風雷のいる方向ではなく、別の方向が気になりそこに攻撃を繰り出すようになる。
秘伝書はそう簡単に手に入れることができないが、効果は抜群。
この奥義を使うと、マモノ達は風雷を攻撃せず、まったく別の方向に攻撃を繰り出すようになる。もちろんそこに別のマモノがいたら、そのマモノにダメージが当たるようになる。
特に、大勢のマモノが出てくるマモノハウスでは非常に効果的である。
tamia☆KARI書房刊『不思議迷宮 サムライ・風来の戦い ゲーム攻略本』より抜粋
「辰羅!! 剣道部に入れ!!」
「…………」
その次の日より、隆幸は事あるごとにA組来るようになったという……




