A版その2-3
「なんでって言われても、兄貴達から止められたからなあ」
辰羅はほんの少し思い出しながらそう言う。
「何!? たった数人の人間に止められたからって剣の道を閉ざしたと言うのか!?」
「数人って……」
「へぇ、辰君って、お兄さんいるんだ」
「知らなかったの? 瑠璃ちゃん」
瑠璃がどうでもよさそうなところに興味を示す。
「てっきり、辰羅君の事なら、大抵の事は知っていると思っていた」
綾花がそう言う。
「う~ん、私と辰君、出会ってまだ一年も経っていないからあんまり知っている事って、少ないんだよね」
「え? 私、辰羅君と瑠璃ちゃんて同じ小学校の幼馴染だと思ってたけど?」
意外そうに言う綾花。
「幼馴染が恋人関係になるというのは現実の世界ではあまりないことだ
と言うよ。実際に私と辰羅は同じ小学校だけど、友達程度にしか思ってないもの」
魅咲が、そういう。
「あ、そういえば魅咲って、結構辰君と付き合い長いんだよね。今度、いろいろと教えてよ。辰君のお兄さんの事とか」
瑠璃が魅咲の手を取ってそういった。
「辰羅のお兄さん? 確か二十人くらいいたと思うけど?」
魅咲は、ほんの少し考えるそぶりを見せてそういった。
「……」
それを聞いた綾花はほんの少し呆れた表情見せて辰羅の方を向く。
「突っ込まないの?」
「いや今は、そういうことを話してる時じゃないんだが……」
ここで隆幸が声を上げる。
「俺はあの2年前の敗北を忘れることができないだ。だからこそ御陵辰羅……お前と決着をつけたい!!」
ポーズを付けて正々堂々宣言するような格好の隆幸。
「決着ねえ……一体どうしたら決着なんて事になるんだ?」
「剣道の試合でだ!」
「だから俺はもう剣道をやってないんだ。小学5年の時に辞めている……」
「お前は俺のライバルだ! 剣道をやっていないなどという事は許さない!!」
しばらく、二人の男子生徒の不毛な言い争いが続く。
そこでフト、綾花が何かを思いついたように手を挙げた。
「じゃあさ、こういうのにしてみたらどうかな?」
『かくして某国の美しき姫、ラピスラズリ・ネフライト姫をめぐり、2人の騎士が決闘をすることになったのです。ああ、いつの世も美しき姫は男達を惑わせる。愛ゆえに、いや、愛があるからこそ、男達には争いが尽きない――』
演劇部部長宍戸秀作が、長々とナレーションを読み上げる。
配役は、ラピスラズリ・ネフライト姫に翡翠瑠璃、その姫をめぐって争う2人の騎士が御陵辰羅と小鳥隆幸と言う感じだ。
「お、演劇部の即興演劇か」
「いいぞーやれやれー!」
体育館のステージ上で始まった演劇に、バスケットボール部や卓球部などの体育館使用の部活動の人間やそれを見物に来ていた暇人達が見物人となって歓声を上げる。
「あれ? お前うちの部活動の小鳥じゃないか? なんだ? 剣道部をやめて演劇部に入ったのか?」
剣道部の先輩らしき人が隆幸に声をかけたりもしている。
『ああ、私のめぐって2人が戦うなんて……やめて、私のために戦わないで!』
瑠璃が台本にある台詞を読み上げる。
『姫様、ここは危のうございます。お下がりください』
綾花は姫に仕えるメイドといった役どころだ。
「あっさりとこういう舞台を用意できたのはさすが演劇部って所ね」
舞台袖でデジカメをかまえそう言う魅咲。
演劇部の部室は体育館にあるステージの裏にあり、衣装や舞台装置をすぐに用意できる。これは、宍戸先輩を始めとした演劇部の各先輩たちの功績らしい。
とりあえず、瑠璃や辰羅、綾花達の演劇に注目する。
『姫は俺のものだ、お前には渡さない!』
「ええっと、と、とりあえず、勝負……」
唯一、演劇部でもないのに舞台に上がっている隆幸はしどろもどろになっている。台詞は覚えてないし、口調も完全なる棒読みだ。
『……行くぞ!!』
演劇部の小道具である模擬刀をかまえ、突撃を始める辰羅!!
「くっ!」
隆幸は腐っても剣道部の剣士、同じように剣をかまえ、迎え撃つ!!
カン、コン、カン、カン!!
素早く振り落とされる辰羅の剣、隆幸はそれらを全て受けきる。
模擬刀とは言え、それなりの強度を持っているらしく剣自体は2人の激しい戦いにビクともしていない。
……という事は、もしこれが体に当たったら怪我をする可能性もあるという事だ。剣道の試合なのではなく2人とも防具をつけていない!
「お、いいぞ!」
「やれやれ~!」
周りのオーディエンス達は2人の戦いに好き勝手な声援を送る。
「はあ!!」
辰羅が体をひねり横なぎを放つ!
「――!!」
隆幸はそれをうまくさばく、その表情は先程までと違い真剣そのものだ。
ブウン!!
やがて、隆幸も反撃に転じる――上段から振り下ろされる剣……とても、中学1年生同士の戦いとは思えない!!
ゴン、カン、バキッ!!
2人の戦いは白熱する――鋭く激しい剣技の応酬が繰り返される。
2人の技量はほとんど互角で、まさに一進一退の攻防と言えるだろう……
このまま永遠に戦いが続くものと思われた……
(いいぜ……やっぱりお前は俺のライバルだ、御陵辰羅!!)
激しい戦い中で隆幸はそう思っていた――
だが、相対する辰羅のほうは……
「あ……」
舞台の隅で2人の戦いを見物していた瑠璃が小さな声を上げる。
「どうしたの?」
綾花がそれに気付いて声をかける。
瑠璃は2人が戦っている場所よりもほんの少し離れた場所……そこには何もない……を凝視する――
「……『幻影刀刃』……」
ポツリと、辰羅はそうつぶやいた。戦っている隆幸にも聞こえないくらいの小さな声で……
「――!!」
突如、隆幸があさっての方向に体の向きを変える――戦いによって研ぎ澄まされていった感覚が、そこから猛烈な攻撃が来る!! と、感じたからだ。
それは、戦いに身を投じた者が持つ、第六感によるものだ――しかし、そこには誰もいない――
バギ!!




