えぴろ~ぐ
「ミリー・ダンドレイジーの事? 確かに、憧れの存在って、感じだったな。優しいお姉ちゃん、とみたいだった。俺だけじゃない。綾花にも自分の事は呼び捨てするように言っていた。……あの頃、綾花は俺の事も呼び捨てにしていて、兄と呼ばせることに苦労していたな――」
神城真一は、かつてのクラスメイト達にそういう風に語っている――
「お姉ちゃん? ミリーは、あなたよりも年下だと思うけど?」
「……今の見た目で判断をするな。ミリーは、5年前と容姿が変わっていなんだ」
「次元の狭間にいた間、彼女に過ぎていた時間はほんの数分から数時間だけかもしれません。そういう事はよくあることです――」
明らかに日本人では無い赤い髪の少女がそう言ってくる――
「まあ、魔法に関わっているといっても初歩程度のあなた方では理解できないかもしれませんが――」
その少女は魔法少女では無い――世間に知られた魔女の一人――ワールドリンク――世界と世界をつなぐもの、魔女ファロ・ヴェルバーン――神城真一と鳳凰寺聖がわざわざバミューダ海域のまでいって協力を仰いだ魔女だった――
「まあ、5年前、十二歳なら、当時十歳の真一君から見たら憧れのお姉さん、って具合だったんだろう。安心した? 聖ちゃん?」
桂花が、にっこりと聖に微笑みかけた――
「安心しろというけどね――安心できないのはあなた達の方じゃない? 桂花」
「……」
神山桂花、安西薫、道堀万由子――三年前、魔法少女になって一年ほど活躍した後、異世界ワーボワールに行っていた者達だ。
当然、その間勉強はしていない――同年代である真一と聖が高校生になっているのに、この3人は進学していないのだ。
「まあ、ちゃんとした学力があると示せれば、途中入学が許される高校があるらしいから頑張ればちゃんとした高校生なれるはずだ」
「「「………………」」」
三人は、諦めたそうな表情でノートに目を落とした――
これからどうなるかは、彼女たちの努力にかかっている――
「今日は、転入生を紹介する」
ザワザワ……
媛崎中学校一年D組の生徒達は、担任教師・島戸那智の言葉にざわつく――
「といっても、人間じゃないけどな。紹介しよう、異世界、ワーボワールからやってきたオオカミのヌイグルミ、マジュ・リッツだ」
ザワッ!!
ざわめきが大きくなる――
「この世界の事を学ぶために、このクラスに入学することになったマジュ・リッツだよろしく頼む――」
その日、媛崎中学校のほとんどのクラスに人外の転入生がやってきた――
「なんかうちのクラス、キャロっていうウサギが来たんだけど――」
「トルオ・ニュウっていうメガネザルが二年C組に加わった――」
「うちのクラスに来たのはカピバラだったよ!」
「え~~いいなぁ! B組に来たのは猫だったよ!」
なぜか人気があるカピバラ――
「一年A組は? もちろん来てるんでしょ? 転入生?」
「ああ、うちのクラスの転入生は彼女だ。紹介しよう――」
A組の生徒が一人の少女を紹介する――
「はじめまして、このたび媛崎中学一年A組に留学生として通うことになったミリー・ダンドレイジーです。よろしくお願いします」
可愛らしいフランス人の少女は、そう言ってあいさつした。
「「「贔屓だぁ!!」」」
ヌイグルミがクラスに加わったクラスの生徒達は、一年A組の新たな仲間に大声で抗議の声を上げた――
「どうするのこれから? まだ魔法少女を続けるの?」
「……」
陽子の問いかけに、瀬里奈は答えなかった。
媛崎中学校での最終決戦が終わり、ヌイグルミ達も、クラスに転入してきたもの以外はワードリンク・ファロ・ヴェルバーンの力によりワーボワールに帰還した――
こうしてロイヤルセレナ達魔法少女の役割は終わりを告げたと言っていい。
というか、役割なんというものがあったのか?
「それらを探してみるのもいいかもしない……」
瀬里奈は、一人、そう思っていた――
人は変わる……そのための時間は、たっぷりある――
そしてその時、また新たな物語が生まれるのだ。
「御陵!! しょうぶだ!!」
「ええい!! しつこい!!」
「ガンバレ!! 辰君!」
「勝負の結果は明日の学校新聞に載せるからね!」
まぁ、変わらないものもあるが――――――
それもこれから続いていく新たな物語――
だけどそれは、この話とは別の物語。またいずれ機会があったならば、語る事も、あるだろう――
今回の物語は、これにて終局とする―――――
「三佐、ワルズブルクが壊滅したそうです――!!」
「RPLの被害状況がまとまりました!!」
「三佐!! この件ですが、いかが致しましょう!!」
次から次と出される報告に七瀬銀河は一つ一つ目を通していく。
どれもこれも、無視することのできない案件ばかりだ。
「まったく、ひとつの事柄が解決しても、またすぐに別の問題が出てくる――平和って、本当に得難い物だな!!」
そう言う銀河の顔はほんの少し嬉しそうだった……




