ぷろろ~ぐ
ぷろろ~ぐ
タッタッタッタッタ……
普段は誰も使わない屋上への階段を、全力で駆け上っていく人影がある。
「……一体、これは何の冗談なんだ?」
手の中にある手紙は、差出人不明の怪しい手紙。それには、幼馴染の女の子が異世界出身の魔法使いとか何とか、訳のわからない事が書いてある。
本来ならばそんな怪しいものは無視するはずだが、なぜか胸騒ぎがして今、こうして屋上へと向かっている。
「魔法少女……」
首からかけている小さなお守りを見て手に取りそれをくれた人物を思い出す。
「……サーヴィン・メプル……」
「サーヴィン・メプル……これでお別れですね。ワーボワールへ帰っても、私達の事をたまには思い出してください」
そう言ったのは……魔法の国から来たという、まるで三毛猫のヌイグルミのような生物。
「わかっています。グレン・ナジャ。この第二の故郷のことは、一生忘れません」
「サーヴィン・メプル……」
「……後の事は頼んだわ。ベル・ホワイト。天逆衆からしっかり皆を守ってね」
紅色の魔法き衣装を身にまとった少女は、白色の魔法衣装を身にまとった少女とその使い魔に、別れの言葉をかける。
「わかっています! ど~んと大船に乗った気でいて! もしかしたら、私一人で天逆衆を全滅できるかも!」
「パク、ベル・ホワイトを願いね」
「おう、俺にまかせておけ!」
「……サーヴィン・メプル……私の事、信頼してる?」
「フフ……ワーボワールでの再会を楽しみにしているわ」
「もういいでしょうか? サーヴィン・メプル。そろそろワーボワールへのゲートを開きます」
「はい、お願いします。グレン・ナジャ」
一通りベル・ホワイトとの別れを済ませたサーヴィン・メプルは、異世界への扉を開こうとするグレン・ナジャへ向き直った。と、そこへ、
バタン!!
「楓!!」
屋上から4階へ降りる階段のドアが開き、一人の学生が飛び込んでくる。
「……星羽……!?」
「あ、浅科先輩!」
「楓……これはどういう意味だ!? お前が、お前は……魔法少女サーヴィン・メプルなのか!?」
飛び込んできた学生――浅科星羽は、サーヴィン・メプルをまっすぐに見つめ、持っていた手紙を眼前につきつけて問いただす。
「星羽……なにこれ? どうしたの? 何々、え~と……『南九条楓はこの世界の住人ではなく、異世界から来た魔法使いだ。彼女は今日の放課後、屋上に異世界の扉を通り、ワーボワールへ帰る』……星羽、これどこで手に入れたの!?」
「今朝学校に来たら、机の上にあったんだ! お前に聞こうと思ってもお前はどこにもいないし、周りの連中に聞いてもお前の事を知らないって言われるし……一体、どうなっている!?」
「読んだ通りの意味です。彼女は、我々と同じ世界の住人です」
グレン・ナジャが、サーヴィン・メプルと星羽の間に割って入る。
「な、ヌ、ヌイグルミがしゃべった!?」
「ヌイグルミじゃないわ、ワーボワールの預言者グレン・ナジャよ」
「預言者~~!?」
星羽はすごくうさん臭そうな目でグレン・ナジャを見る。
「そうよ、すごいのよグレン・ナジャは!」
ベル・ホワイトも負けじと話に入り込もうとする。
「魔法少女ベル・ホワイト……いや、まさか……もしかして…………白鈴? 白鈴愛美か?」
「そうだけど……そうじゃない。わたしはサーヴィン・メプルの後輩魔法使いベル・ホワイト! ワーボ・ワールに帰るサーヴィン・メプルにかわり、今日からこの媛崎中学校は私が天逆衆の魔の手から守る!!」
腰に手を当てエヘンと胸を張るベル・ホワイト。だが……
「何が、どうなっているんだ? 楓!!」
星羽はベル・ホワイトを無視し、サーヴィン・メプルに詰め寄る。
「私はこの世界で生まれた人間じゃない。異世界ワーボワールで産まれた異世界人なの」
「はぁ!?」
「かつて、我々の世界ワーボワールは、一人の魔女によって壊滅的な打撃を食らいました」
何か言いたそうにするサーヴィン・メプルをさえぎって、グレン・ナジャが話し始める。
「天覇の魔女、ジョアンナ……今もって正体の解らぬその魔女によって、世界そのものが滅亡に瀕したのです」
「その時、赤ん坊だった私達は、この世界に避難させられたの」
「私達って……」
「このベル・ホワイトもそうなんだよ」
ベル・ホワイトの言葉を無視し、星羽はサーヴィン・メプルの方を見て言う。
「オレとお前は幼馴染じゃないか! そのお前が異世界から来たって……信じられるか!?」
「それは、赤ん坊の時にこの世界に送られてきたからなのです」
「ヌイグルミ!! お前には聞いていない!!」
星羽はグレン・ナジャを片手で押しのけ、サーヴィン・メプルに迫ろうとする。が、その時、グレン・ナジャの目が光り輝き……
「え……!?」
「眠りなさい…『スリープ』!」
グレン・ナジャの魔法に包まれた星羽が、崩れ落ちる。
「ちょっと、グレン・ナジャ!!」
「眠っちゃった……」
サーヴィン・メプルが抗議の声を上げ、ベル・ホワイトが眠った星羽の頭を自身が持っていたステッキでチョンチョンと小突いて眠っていることを確認する。
「……サーヴィン・メプル、実はあなたがちゃんとワーボワールに帰れるよう、私達があなたの周りの人々から、あなたの記憶を消していたのですか……彼の記憶はきちんと消せてはいなかったようです」
「え、そうだったの!?」
グレン・ナジャはそう言って星羽の頭に手をのせる……
「……いい機会です、サーヴィン・メプル。あなたが彼の記憶から、あなたの記憶を消しなさい」
「……え?」
「グレン・ナジャ、それって……!!」
あまりにも意外なグレン・ナジャの言動に、サーヴィン・メプルとベル・ホワイトは一瞬呆然となる。
「それが、ワーボワールに帰るあなたの最後の試練とさせていただきます」
小さな別れがあった。 異世界から来たと言う一人の少女がこの世界に別れを告げた。
それはもう誰も覚えていない事。誰にも記憶に残してはいない事。
一つの中学校がある。――『媛崎中学』――
この学校を舞台にして今、ひとつの物語が始まる。
魔法少女え~す。それは、いったい何の為の……そして、誰の為の物語なのか?