歯のない絵本
「ママァ、ママァ〜」
かおりちゃんがお母さんを呼んでいます。
「 はい、はい。なぁに」
お母さんは、やれやれ、さっきまでおとなしくリビングで絵本を読んでいたのに、 と思いました。
鍋の火を止め、手をタオルで拭きながらリビングへ向かいます。
かおりちゃんは、えんえんと泣いていました。
新しく買った絵本が気に入らなかったのかしら、と思いました。
「あらあら、いったい、どうしたというの?」
お母さんが聞くと、かおりちゃんは言いました。
「わたし、この絵本、嫌い。嫌い。大嫌い」
やっぱり、絵本が気に入らないようだ、とお母さんは思いました。
「まあ、まあ。その絵本のなにがそんなに気に入らないの?」
「わたし、歯のついた絵本なんて要らない!」
お母さんは、思わず笑いそうになりました。
「歯なんて……絵のまちがいでしょう?
なにか怖い絵でもあったのかしら?」
「ちがうわ」
そう言いながら、かおりちゃんは両手をお母さんの目の前に差し出しました。
お母さんは、ぎょっと目を見張りました。
かおりちゃんの両手は、手首から先がありませんでした。
「……かおり、手をどうしたの」
お母さんは声を上げました。
「絵本がわたしを噛んだの」
お母さんは絵本へ目を向けました。
開かれた絵本には、きれいな花がページいっぱいに描かれていました。
そして、その絵の真ん中に、小さく可愛らしい二つの手が、ちょこんと置かれているのでした。




